大陽日酸、iPS細胞用全自動凍結保存システムの販売を開始

 大陽日酸は、iPS 細胞に最適な凍結保存技術を開発し、全自動凍結保存システム「クライオライブラリー(CAPS-i3000)」をラインナップに加え販売を開始した。

 iPS 細胞の産業応用には、高品質に培養された細胞を高効率で大量に凍結保存する技術の確立が欠かせないとされており、ヒト iPS 細胞は凍結するのが難しく、操作する人のスキルの差により、一般的な凍結方法では解凍後に 10%程度しか生き残らないこともある。また、-80℃の冷凍庫で一晩かけてゆっくりと凍結させる方法で、生き残る細胞を増やす方法もあるが自動的に大量供給するためには不向きだった。
 大陽日酸では、液体窒素を利用した各種の極低温装置や、取り間違えのない全自動型の凍結保存装置で培った技術をもとに、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ヒト幹細胞産業応用促進基盤技術開発」のプロジェクトに、幹細胞評価基盤技術研究組合を通じて参画し、京都大学 iPS 細胞研究所の指導のもと、国立成育医療研究センター研究所と共同研究を行い、京都大学の iPS 細胞に最適な凍結保存技術を開発した。

 現在販売中の全自動凍結保存システム「クライオライブラリーⓇ」は、ロボットにより試料を凍結・保存装置へ自動搬送し、またバーコードとコンピュータによる凍結試料のデータ管理を行うことで、取り違いを防止できる、安全で安心なシステムとして評価されている。
 今回の開発では、解凍した iPS 細胞が生き残る割合(解凍後の生細胞率)を上げるために添加する保護剤を、再生医療などで使用しても問題にならない、動物由来の成分は含まれない市販のものを選択した。
 凍結機能は、iPS細胞を単に液体窒素に浸けるのではなく、液体窒素をスプレー状に噴霧しながら最適な冷却降下温度に制御して、凍結点より低い温度でも液体状態のままとなる過冷却状態とした後に、直ちに過冷却状態を解消し、凍結させて iPS 細胞の生細胞率を高めることに成功した。iPS 細胞の凍結に要する時間を従来の 1/5以下(大陽日酸比)に短縮し、生細胞率も 50%から 80%以上に向上した。
 これにより高品質に培養された iPS 細胞を、高効率で大量に凍結保存して供給ができるようになった。

 iPS 細胞は、現状の実用化研究に続いて、創薬における薬効評価や安全性薬理試験などの「創薬スクリーニング」などで利用が進み、iPS 細胞から作った臓器の細胞を移植する再生医療への応用など、生命科学や先端医療への貢献が大きく期待されている。
 いずれのステップにおいても、 安全で確実な iPS 細胞の凍結・保存システムが必要となり、また、臨床で利用した細胞を 10 年間保管されることなども検討されている。今後、細胞凍結保存の需要は拡大していくものと予想され、大陽日酸では、4年後の 2016 年までに累計売上高 10 億円を目指す。