大陽日酸、酸素燃焼による画期的な金属ナノ粒子合成技術開発

 大陽日酸は、金属ナノ粒子を高品質で低コストに合成する新技術の開発に成功し、サンプル供給体制を整えた。

 金属微粒子は、小型電子部品の電極や配線材料として、太陽電池や薄型ディスプレー、積層セラミックコンデンサーなど幅広い用途で使用されている。近年のスマートフォンやタブレット端末などの普及により需要が増加。電子デバイスの小型・薄型化が進行していることや、プリンテッドエレクトロニクス技術(インクジェットなどの印刷技術を利用した微細配線作製技術)の本格的な実用化が近いことなどから、金属微粒子をさらに微細化する必要があり、高品質で低コストな金属ナノ粒子が求められている。

 大陽日酸は、酸素燃焼技術の研究・開発を長年にわたり行ってきた。酸素燃焼とは、支燃性ガスである酸素を用いて燃料を燃焼させる技術で、空気を用いた場合には達成できない2000℃以上の超高温火炎を形成できる。さらに、酸素量を調整することで、火炎を酸素濃度の高い酸化性雰囲気あるいは一酸化炭素や水素を含んだ還元性雰囲気に容易に制御でき、超高温な化学反応場を形成することができる。
 今回開発した技術は、バーナを用いて天然ガスなどの燃料を酸素不足の状態で燃焼させ、還元雰囲気に制御した火炎を発生させる。その中に 10μm 程度の金属酸化物などの粉体を投入し、加熱・還元・蒸発・再凝集させることで金属ナノ粒子を合成する、世界でも初となる技術。火炎を還元雰囲気に制御し、金属酸化物の還元反応を利用することで金属の蒸発を促進し、さらに、酸化を抑制した金属ナノ粒子を効率的に連続合成することができる。また、バーナの燃焼条件を変えることで、金属粒子のサイズを 30nm~150nm まで精密にコントロールすることができる。

 従来、金属微粒子製造には、CVD 方式による塩化物の水素還元法や、プラズマ方式による物理的蒸発法が用いられてきた。CVD 方式では、塩素系ガスが発生するために強固な設備が必要となるうえに、脱塩素のための洗浄・乾燥工程が必要であり、製造プロセスも複雑となる。また、プラズマ方式では、生産性が低く、電力を大量に消費するという課題があった。
 酸素燃焼を用いた大陽日酸の新技術は、合成プロセスが極めてシンプルな全乾式製法であるうえ、電力はほとんど消費しないため、大量のナノ粒子を低コストでかつ効率的に合成することができる。合成可能な金属種は、電子材料分野で幅広く使用されている銅、ニッケル、銀などであり、合成したナノ粒子は、高純度で高い結晶性と分散性を有しており、粒度分布がシャープであるなど様々な特長を有している。
 さらに、複数の元素を同時に火炎中に投入することで、合金や金属と酸化物の複合化も可能となり、金属粒子表面に誘電体であるチタン酸バリウムを被覆したコアシェル粒子の合成にも成功している。

 大陽日酸は、ベンチスケール設備(生産量:数百 g/時)とパイロットスケール設備(生産量:数 kg/時)を山梨研究所内に設置し開発を進めてきた。既にサンプルの供給体制は整えており、一部ユーザーではサンプル評価が進んでいる。今後は、電子材料分野のユーザーに対して幅広く PR し、ユーザーの要望に応じたサンプルの試作・提供を行う。また、サンプル評価の結果を踏まえ、金属ナノ粒子の本格的な事業化を進めていく。