深冷分離方式での「Water‐17O」 製造に世界で初めて成功

Water‐17O
Water‐17O製品外観

 大陽日酸は「酸素‐17 安定同位体標識水(Water‐17O)」の製造に国内で初めて成功し、研究用試薬として販売を開始した。「 Water‐17O 」は、MRI用造影剤の原料として脳血流や脳髄液を含めた脳内水動態の画像化による様々な疾患の病態解析への利用が期待されている。

Water‐17O製造プラント
Water‐17O製造プラント(周南酸素)

 大陽日酸は、2015年に国内3基目の「酸素‐18 安定同位体標識水(Water‐18O)」製造プラントを山口県周南市の周南酸素に増設し、2016年より「Water‐18O」の製造を開始している。「Water‐17O」の製造には、同プラントの副生ガスを利用、濃縮度10atom%17Oで年産30キログラム(Water‐18Oを年産300キログラム(98atom%18O)で併産)を見込み、さらに生産能力増強の研究開発を進める。製造された「Water‐17O」はGMPに準拠した製造・品質管理体制を持つ大陽日酸SIイノベーションセンター(東京多摩市)で製品化される。

 天然の酸素中の同位体には、質量数が16、17、18の三種類があり、その割合はそれぞれ99・76%、0・04%、0・2%と質量数17の同位体が最も少ない。同位体は物理化学的性質がほとんど同じなため濃縮・分離は極めて困難だが、大陽日酸では酸素の深冷分離技術により、2004年に「Water‐18O」の製造に成功し、ガンの診断を行うPET診断薬「18FDG」の原料として世界中へ供給を行ってきた。今回、この技術を応用しさらに希少な「Water‐17O」の濃縮・分離に成功したもの。深冷分離方式による安定的な「Water‐17O」製造は世界でも初めてとみられる。

 大陽日酸は、北海道大学病院で進められている、17O-MRI検査法の臨床研究向けに「Water‐17O」を含む17O‐MRI検査用造影剤(臨床研究用試薬および治験薬)の提供を行っている。17O‐MRI検査では、投与した造影剤中の「Water‐17O」の動態により血流状態が詳しく観測され、脳血流や血管透過性等の検査を行うことができる。また、SPECTやPETなどの核医学的検査と比較し、17O‐MRI検査は放射被曝がなくかつ高解像度の撮像が可能で、小児や妊婦への適用も期待されている。さらに、脳血流だけでなく脳脊髄液を含めた水動態の画像化を実現することで、脳内のタンパク質老廃物の蓄積により生じる神経疾患(アルツハイマー型認知症やその他の認知症)の解明など、体内の水動態研究へ利用される可能性もある。

17O‐MRI検査による脳画像
SPECT検査による脳画像(左)と17O‐MRI検査による脳画像(右)(北海道大学病院放射線科 工藤與亮先生提供)