DDR型ゼオライト膜によるCO2分離・回収プロセスの実証試験を開始

 日揮(JGC CORPORATION。代表取締役会長CEO:佐藤雅之)は、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「JOGMEC」)と共同で、ゼオライト膜による二酸化炭素(CO2)分離・回収の実証試験(以下「本実証試験」)を2019年2月1日より開始した。本実証試験では、日本ガイシと日揮が共同で開発を進めてきたDDR型ゼオライト膜(注1)を用いたCO2分離・回収プロセスが、原油随伴ガスのCO2分離・回収用途では世界で初めて適用される。

(注1) ゼオライトとはミクロ多孔性の結晶性アルミノケイ酸塩で、現在、多くの種類のゼオライトが人工的に合成され、触媒や吸着剤等として工業的に活用されている。DDRとは、ゼオライトの骨格構造の一つ。

【実証試験の概要】

名称: 「DDR膜によるCO2分離回収技術のフィールド実証試験」
実施者: JOGMECと日揮による共同事業
場所: アメリカ合衆国テキサス州
対象ガス: 原油生産時の随伴ガス
内容: DDR型ゼオライト膜を用いたCO2分離・回収設備(随伴ガス処理能力:日量3百万立方フィート)の最適化検討と性能実証
今後の計画: 2019年2月より試験設備の設計・建設を開始し、設備完成後、約1年間の実証試験を行う

 本実証試験では、DDR型ゼオライト膜の大型エレメント(直径180mm x 長さ1,000mm)を用いたCO2分離・回収プロセスの性能実証を行うことで、後述の各用途への有効性を確認することを目的としている。

 本プロセスは、日本ガイシと日揮が2008年より共同で開発を進めてきたもの。本プロセスに適用されるDDR型ゼオライト膜は、高度な製膜技術を有する日本ガイシにより開発製造され、研究施設における試験では、優れたCO2分離性能と、高圧環境下における高い耐久性が確認されている。

 日揮は、本プロセスの適用対象として、原油生産時の随伴ガスからのCO2分離・回収、および天然ガス精製時のCO2除去の二つの用途を想定。現状、前者には高分子膜法、後者には化学吸収法の適用が一般的だが、高濃度CO2含有ガスの処理に際しては下記の課題が認識されている。

1)原油生産時の随伴ガスからのCO2分離・回収

 CCUS(注2)の代表例であるCO2-EOR(注3)では、原油生産時の随伴ガスからCO2を分離・回収して再利用している。このCO2分離には、導入コストが低く、かつ消費エネルギーが少ない高分子膜法が一般的に採用されているが、高濃度のCO2を含有する随伴ガスの処理に際しては、高分子膜の劣化が著しく早まるために、その交換コストの負担が大きいことが問題となる。

(注2) CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage; 二酸化炭素の回収・利用・貯留)

 地球温暖化対策としてのCO2の回収・貯留に留まらず、CO2の有効利用により経済価値の創出をも実現する取り組みであり、近年世界的に注目されている。

(注3) CO2-EOR(CO2 Enhanced Oil Recovery; 二酸化炭素原油増進回収法)

 CO2を地下の油層に圧入することにより、油層内の原油の粘性を低下させ流動性を高め、原油回収率を高める技術。この際、圧入したCO2の一部は大気に放散されず、地中貯留される。

 一方、DDR型ゼオライト膜は、高濃度のCO2環境下でも高い耐久性を示す。本プロセスの適用により、随伴ガスからのCO2分離・回収時の運転コストを低減し、CO2-EORの拡大にが期待できる。

2)天然ガス精製時のCO2除去

 化学吸収法では、対象ガスのCO2濃度が高まるにつれ吸収溶剤の使用量が増え、溶剤再生に伴う消費エネルギーが増大する。その結果、CO2除去コストが高まることが、高濃度CO2含有ガス田の開発に際して問題となる。

 日揮では、より少ない消費エネルギーでCO2を除去できる本プロセスを化学吸収法の前段に用いることで、ガス処理に係るコスト低減を実現し、これまで開発が進まなかった高濃度CO2含有ガス田の開発に繋げる。

 新興国における人口の増加や生活水準の向上を背景に、世界のエネルギー需要は増大し続けている。現在、エネルギー利用効率の向上や再生可能エネルギーの利用拡大に関する取り組みが積極的に進められているが、向こう数十年に亘っては、化石燃料に一定の役割が求められ続けると考えられている。

 こうした状況下において、原油増産と温室効果ガスであるCO2の地下貯留、ならびに化石燃料としては環境負荷が相対的に小さい天然ガスの利用拡大の両立に寄与する本プロセスの開発は、エネルギー供給の拡大と地球温暖化対策の両面において、大きな社会価値を有する。

 1970年代よりCO2-EORが実施されてきた米国に加え、近年では東南アジアや中東諸国においてもCO2-EORの実施・拡大が検討されている。また、マレーシアやインドネシアを始めとする東南アジア地域には高濃度CO2含有ガス田が数多く存在しており、CO2除去の一次処理に本プロセスを用いることで経済性が成立し、これらガス田の開発が推進される可能性がある。

 日揮は、DDR型ゼオライト膜を用いたCO2分離・回収プロセスの実用化と積極的な提案を通じ、天然ガス・LNGの利用促進と、CCUSの拡大に貢献していく。