日本曹達と立教大学が選択的に二酸化炭素を吸着する新規多孔性物質を開発

水素分子を吸着し、燃料電池車に搭載する水素貯蔵「分子ボンベ」として応用可能

 立教大学寄附型研究プロジェクト日本曹達(株)未来テーマプロジェクト研究室(立教大学理学部化学科箕浦真生教授・菅又功助教・飯濱照幸客員教授らの研究グループ)は、環境調和型分子の創出を目的に研究を行ない、温室効果ガスとして知られる二酸化炭素を選択的に吸着する物質の開発に成功した(図 1)。またこの分子は取り扱いの難しいことで知られる水素分子も吸着することができ、燃料電池車(FCV)に搭載できる水素貯蔵の「分子ボンベ」として応用可能とされる。

MOFの分子構造イラスト
図 1: 本研究で開発した新規物質(MOF)の分子構造イラスト

 Metal-organic Frameworks (MOF)注1)は、マイクロ孔注2)といわれる非常に小さな細孔を有し、従来の多孔性材料である活性炭やゼオライト注3)をはるかに超える比表面積注4)を持つことから、ガス吸着や分離への応用が期待されている。今回、有機配位子として 1,4-ベンゼンジカルボヒドロキサム酸、補助配位子としてイソニコチン酸を用い、硝酸コバルトと反応させることで、選択的二酸化炭素吸着および高い水素貯蔵量を誇る MOF の開発に成功した。また、これまで MOF の合成にはほとんど用いられてこなかったヒドロキサマート(RCONHO–)を配位部位として用いており、新たな配位部位として今後様々な MOF への応用展開が期待される。

注 1) Metal-organic Framework (MOF): 有機配位子と金属イオンから構成され、有機金属構造体とも呼ばれる配位性高分子の総称。
注 2) マイクロ孔: 多孔質材料がもつ微細な空孔のうち、直径 2 nm 以下のもの。2-50nm の細孔をメソ孔、50 nm 以上をマクロ孔という。
注 3) ゼオライト: 結晶性アルミノケイ酸塩の総称。天然の鉱物として発見され、現在では様々な細孔サイズや細孔形を有するものが合成されている。
注 4) 比表面積: ある物質の単位質量(g)あたりの表面積(m2)のこと。

研究の背景

 地球温暖化を引き起こすとされる温室効果ガスの中で最も影響度が高い物質が「二酸化炭素」で、工場などの排気ガスから二酸化炭素を分離・回収する技術の開発が必要とされている。しかしながら現在工場などで使用されている分離膜は、その原理が化学吸着であるために二酸化炭素の回収に大きなエネルギーを必要とする。そのため、回収にほとんどエネルギーを必要としてない物理吸着による二酸化炭素の分離・回収技術が求められていた。
 一方で、こうした温室効果ガスを一切排出しないクリーンなエネルギー源として「水素」の活用も盛んに研究されており、その安全な製造、貯蔵、運搬方法の開発が待たれている。中でも燃料電池車(FCV)などの水素ガスを燃料とする機械や装置の実用化に向けて、安全に取り扱うことのできる水素貯蔵材料の開発が切望されている。
 従来の水素貯蔵材料は、水分と激しく反応する金属水素化物や金属アミドであり、水素ガス発生には過激な条件が必要であることなどから使用環境は限られていた。
 最近、これらガス類の高効率な吸着物質として高い注目を集めている材料が、多孔性の金属有機構造体、いわゆる Metal-organic Framework (MOF)となる。MOF はスポンジのような性質を有し、ガス類を物理的に吸着することから、圧力や温度変化のみで容易にガスを吸脱着できる。そのため、分離膜や安全なガス貯蔵物質としての応用が期待されている。

社会貢献性・波及効果

 二酸化炭素を吸着する物質は、工場や自動車の排気ガスの浄化への利用が期待されている。本研究において開発した物質は、容易に手に入る材料を用い、簡便な方法により合成でき、二酸化炭素の選択的吸着特性を有することから、環境清浄物質としての活用が期待できる。また、これまで MOF の配位部位として利用が困難であったヒドロキサマート部位を活用可能とした本成果が、今後の MOF 合成に与える波及効果は大きいと考えられるとしている。

今後の展開

 本研究では、MOF の構造や性質に強く影響を与える金属と有機配位子の配位部位に、これまでほとんど報告例のなかったヒドロキサマートを用いるため、補助配位子であるイソニコチン酸を添加して MOF 化を達成した。今後は、種々の補助配位子の利用や、別の金属塩との反応などを行うことにより、多様な構造の新規 MOF の開発が可能であると期待される。
 本未来テーマ研究プロジェクトにおいては、標的分子の選定と合成、MOF の合成、ガス吸着能の評価、得られた MOF の結晶構造解析による分子デザインの検討をプロジェクトグループ内で行なっており、迅速な研究意思決定が可能。産学連携プロジェクトとして、環境調和型分子の創製を行い、従来困難であるとされている水素ガスなどの貯蔵へ応用し、クリーンエネルギー利用の側面からも社会還元へ展開する。