エア・ウォーター、家畜ふん尿由来の液化バイオメタンをLNGの代替燃料として牛乳工場へ供給

北海道十勝地方で持続可能な地域循環型エネルギー供給モデルの実証を開始

 エア・ウォーターは、家畜ふん尿由来のバイオガス※1に含まれるメタンを液化バイオメタン※2(LBM:Liquefied Bio Methane)に加工し、液化天然ガス(LNG)の代替燃料として牛乳工場へ供給する、一連のサプライチェーンモデルの構築と実証を北海道十勝地方で開始する。

未利用バイオガスを活用した液化バイオメタン地域サプライチェーンモデル実証事業

 本実証事業は、環境省が推進する「CO2 排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」において優先テーマとして採択された。エア・ウォーターはエネルギー関連事業において、長年にわたりLP ガスやLNG の販売を行っているが、脱炭素社会の進展を見据え、LBM を新たなエネルギー製品と捉え、早期の社会実装を目指し技術開発を進める。

※1 バイオガスとは
 主に酪農家が所有するメタン発酵設備(バイオガスプラント)において、家畜ふん尿から取り出した「バイオガス」には、メタン(CH4)約60%、二酸化炭素(CO2)約40%が含まれる。バイオガスは主に発電燃料として利用され、自家消費される。余剰の電力はFIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)で売電することができるが、送電網などの制約から、十分に活用できていない。メタンには、二酸化炭素の約25倍の温室効果がある。

※2 液化バイオメタンとは(LBM:Liquefied Bio Methane)
 メタン発酵設備で取り出したバイオガスを収集し、センター工場にてメタンと二酸化炭素に分離し、そのメタンを液化したもの。ガスを液化することで体積が小さくなり、大量輸送が可能となる。再生可能エネルギーであるバイオガスを由来とすることからカーボンニュートラルであり、一般的な LNG の 90%程度の熱量を有する。LNG は、その成分の約90%がメタン、残りがエタン・プロパン・ブタンなどの炭化水素で構成されている。

 本実証では、家畜ふん尿から発生するバイオガスを、LNG の代替燃料となるLBM に加工し、域内でエネルギーを生産・消費する地域循環型のサプライチェーンを構築する。エア・ウォーターは、原料となるバイオガスの捕集・輸送やセンター工場にて LBM の製造を行うほか、牛乳工場において LBM が LNG の代替燃料として消費可能であることを実証する。バイオガスから LBM を製造するのは国内初の取り組み。

 将来的には、製造したLBM は、近隣工場におけるボイラー燃料のほか、LNG トラックの燃料やロケット燃料としても活用する。あわせて、LBM の製造時に発生する二酸化炭素をドライアイス等に加工、販売することも検討する。

 LBM は、酪農が盛んな地域においては、持続可能でクリーンな国産エネルギーとなる。製造・供給面に関しては、既存 LNG のインフラを有効活用することで、大規模な設備投資を行うことなく、海外からの輸入に頼るサプライチェーンの脱炭素化に貢献する。さらに、バイオガスの有効利用が加速し、域内のメタン発酵設備の導入が進むと、家畜ふん尿に起因する臭気や水質汚染などの減少にもつながる。

 地域内の未利用資源からLNG 代替エネルギーを製造することは、酪農家だけでなくCO2 排出量削減に取り組む企業や都市ガス会社等にとっても有効な解決策であり、下水処理場や食品残渣から発生するバイオガスにも適用可能なモデルであるため、将来的には国内全域や海外への展開も可能な取り組みだとしている。

実証内容

【サプライチェーンモデル】

未利用バイオガスを活用した液化バイオメタン地域サプライチェーンモデル実証事業

 酪農家が保有するメタン発酵設備から、家畜ふん尿由来のバイオガスを捕集しセンター工場へ運搬。そこで、バイオガスの主成分であるメタンガスを分離、液化窒素との熱交換により極低温のLBM に加工後、タンクローリーで近隣の工場(よつ葉乳業)へ輸送され、工場のエネルギーとして消費される。LBMを製造するセンター工場は、帯広市内に所在するエア・ウォーターグループのガス充填工場の敷地内に設置する予定。

【実証内容】

  1. 域内に点在する酪農家がもつメタン発酵設備からバイオガスを捕集・輸送するシステム
    • 汎用吸着材を用いてバイオガスを吸蔵し輸送できる容器を開発する。
    • バイオガスの連続的な捕集・輸送におけるノウハウを獲得する。
  2. 収集したバイオガスを適切に抽出し、LBM を安定的に製造する技術の確立
    • 北海道鹿追町での「家畜ふん尿由来水素を活用した水素サプライチェーン実証事業(環境省)」で実績のあるバイオガスの膜分離技術を活用するとともに、産業ガスの製造にかかわる極低温のハンドリング技術を活用し、メタン純度99%以上のLBM を製造する。
  3. 液化バイオメタンが、LNG の代替燃料として消費可能であると示す品質実証
    • LBM をLNG の代替燃料として消費した実例はないため、様々な方法で品質実証を行う。

温室効果ガス削減効果

 本実証では、送電網の空白地にあり、メタン発酵設備から産出されるバイオガスを有効活用していない複数の酪農家からバイオガスを捕集し、年間 360 トンの液化バイオメタンの製造を計画している。全量がLNG の代替として消費されるものとすると、サプライチェーン全体での CO2 削減量は、年間 7,740 トン、温室効果ガス削減率は60%以上となる。

実施体制

未利用バイオガスを活用した液化バイオメタン地域サプライチェーンモデル実証事業

実証期間

  • 期間 :2021年4月~2023年3月(2年間)
  • スケジュール:
    • 2021年5月 装置の設計・製作
    • 2022年8月 実運用開始
    • 2022年12月 評価

参考:取り組みの背景

 LNG は、他の化石燃料と比べて環境性能に優れたエネルギーであるものの、海外で産出されたLNG を輸入し消費するという既存 LNG サプライチェーンの脱炭素化は、中長期的には避けられない社会課題として認識されはじめており、カーボンニュートラルなエネルギーに対するニーズが高まっている。

 北海道では酪農が盛んな地域を中心に、年間約30 万トンのバイオメタンを製造できる潜在能力があり、これは北海道の都市ガスとしての利用を除いた工業用LNG の年間消費量の約50%に相当する※3。しかしながら、設備と連係する送電網やガス導管網などのインフラ整備が必要なことから、バイオガスプラントは一部地域での限定的な設置に留まっており、家畜ふん尿や未利用バイオガスの活用が大きな課題となっていた。

 こうした現状を踏まえ、再生可能エネルギーを活用したい既存の LNG 消費者とバイオガスを活用したい酪農家双方のニーズを満たす、まったく新しい地産地消のエネルギー供給モデルの構築を目指し、本事業を推進する。エア・ウォーターグループは、各種エネルギーの供給のほか、LNG に関するエンジニアリングサービスを展開、さらに北海道を中心にバイオガスプラントの設計・施工やコンサルタント業務を長年にわたり手掛けており、こうした技術や知見を応用し、早期に事業化を進める。

※3 北海道における5,840戸の酪農家で約82万頭の乳牛が飼育されていることより算出(農林水産省、令和2 年畜産統計)