大陽日酸の安定同位体を利用した二重標識水法の研究成果が米国科学誌「サイエンス」に掲載

「Water‐18O」 を提供、 安定同位体分析を支援

 大陽日酸が長年協力してきた国際プロジェクト(IAEA Doubly Labelled Water Database)の研究成果が、米国科学振興協会で発行する科学誌「Science」に掲載された(2021 年 8 月 13 日版)。

 プロジェクトでは、4名の日本人研究者(医薬基盤・健康・栄養研究所の山田陽介特別研究員、吉田司研究員、筑波大学の下山寛之助教、京都先端科学大学の木村みさか客員研究員)を含む研究チームが、IAEA(国際原子力機関)による支援を受け、世界 29 カ国の生後 8 日から95 歳までの 6,600 人以上のデータベースを構築し、ヒトの生涯にわたる総エネルギー消費量について解析した。

 このプロジェクトは2014 年に、医薬基盤・健康・栄養研究所と大陽日酸で共同開催した国際ワークショップおよび 「Water‐18O」製造プラント見学会を契機に始まったもので、世界の研究者が協力し、総エネルギー消費量測定のゴールドスタンダードである二重標識水法の測定値を一つのデータベースにまとめた(chair: Professor John Speakman, University of Aberdeen/中国科学院)。

 天然にも微量に存在する水素と酸素の安定同位体(放射能を持たない分子)で標識された二重標識水(DLW:Doubly Labeled Water)を経口投与し、血液、尿、唾液といった生体サンプル中の安定同位体の上昇率とその後の減衰率を測定した。水素と酸素の安定同位体の減衰率の差分から、呼気中に含まれる CO2 排出率が算出でき、CO2 排出率から 1 日当たりの総エネルギー消費量が推定できる。

 発育発達や生殖、食事の消化吸収、身体活動といった、ヒトの生命活動にはエネルギーを必要とする。そのため、日常生活環境下における総エネルギー消費量を知ることは、毎日の食事で摂取しないといけないエネルギーと、摂取したエネルギーを身体活動にどう使うかの両方を理解する上で重要な役割を果たす。

 本プロジェクトにおいて、大陽日酸は二重標識水法に必要とされる酸素-18 安定同位体標識水(Water‐18O)の提供、血液、尿、唾液といった生体サンプル中の安定同位体分析支援をしてきた。加えて、同手法を用いた安定同位体分析に関する講演、ワークショップなど、プロジェクトの推進支援も国内外で行っている。

 大陽日酸が製造する「Water‐18O」は、酸素原子が一般的な質量数 16 の酸素原子ではなく、同位体である質量数 18 の酸素原子である水。空気中の酸素には質量数が 16、17、18 の三種類の同位体が存在し、その割合(酸素原子比率)は、99.76%、0.04%、0.2%になる。それぞれの同位体は物理化学的性質がほとんど同じであるために濃縮・分離するのは極めて困難だが、大陽日酸は酸素(O2)深冷分離技術による酸素-18 濃縮法を開発し、98atom%以上と世界最高濃縮度の「Water‐18O」を 2004 年より製造を開始した。

 現在、年産 600kg(3 基の酸素-18 製造プラントの合計)の「Water‐18O」製造能力を有しており、GMP に準じた製造設備・品質管理のもと製品化を行い、高品質な製品を世界中の顧客へ安定供給する。「Water‐18O」は主に、PET(陽電子放射断層撮影)検査およびアルツハイマー診断薬原料として利用される。

 大陽日酸では、二重標識水法に必要な酸素-18 安定同位体標識水(Water‐18O)と安定同位体比分析技術の提供により、世界中の研究活動を支援してきた。今後も、安定同位体の製造・分析技術を通じて、ヘルスケア分野をはじめとした多岐にわたる分野で抱える様々な課題に対するソリューションの提供を継続する。