エア・ウォーター 2022年3月期第3四半期連結決算(IFRS)は過去最高を更新

DXの推進による業務運営の効率化、働き方改革による生産性向上で収益基盤の強靭化

 エア・ウォーターの2022年3月期第3四半期連結決算(IFRS)は、売上収益6470億1700万円(前年同期比10.3%増)、営業利益495億8600万円(同36.8%増)、親会社の所有者に帰属する純利益321億4400万円(同51.5%増)となった。通期業績予想と配当予想に変更は無い。

当期の経営成績

 引き続きインド・北米の産業ガス・エンジニアリング分野を中心に海外事業の基盤整備を進めたほか、グループ会社の再編や、ケミカル・医療・農業食品などの各分野において事業構造改革に取り組んだ。さらに、成長に不可欠な要素である技術・ガス製造・エンジニアリングにおける事業基盤の整備、事業運営を支えるロジスティクス・調達・管理部門の体制強化など、今後のさらなる成長を見据え全体最適化を推進した。これに加え、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進による業務運営の効率化や働き方改革による生産性向上も相俟って、収益基盤の強靭化が大きく進展した。

 また、産業ガス・ケミカル分野において新型コロナを契機に拡大したエレクトロニクス関連の旺盛な需要を取り込んだほか、医療分野においても酸素濃縮装置の増産や酸素の安定供給を行うなど、様々な事業領域でコロナ禍における社会的ニーズに対応し、多様な事業と経営資源を有するグループの強みが最大限に発揮される結果となった。

 さらに、「地球の恵みを、社会の望みに。」をグループのパーパスとして位置付け、人と地域に寄り添い、健やかな暮らしとものづくりを支えることが、グループの企業使命であることを明確化するとともに、カーボンニュートラル社会の実現に貢献する「地球環境」と、人々の健康
や福祉に幅広く寄与する「ウェルネス」の2つを基軸に据え、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた取り組みを進めた。

セグメント別業績

産業ガス関連事業

中期的な事業方針

 さらなる市場成長が期待されるエレクトロニクス分野と、インドをはじめとした海外事業の拡大を図り、事業ポートフォリオの変革を進めた。

 国内では大手半導体メーカーの生産増強が進行する中、グループでは大規模な設備投資を実行し、半導体向けオンサイトガス事業の拡大を図るとともに、ガス精製装置や半導体製造装置向け熱制御機器などの周辺領域を強化し、エレクトロニクス分野において世界のガスメジャーに比肩するポジションの獲得を目指す。

 インドにおいては、現地大手鉄鋼メーカーへのガス供給の実績に加え、大型から中小型までフルラインアップでのガス製造プラント技術を基軸に鉄鋼向けオンサイト事業を拡大、同時に産業・医療用ガスの外販事業も拡充し、事業基盤の強靭化を図る。

 国内においては高効率液化酸素・窒素製造装置「VSU」をはじめとした産業ガスの生産・貯蔵・物流インフラネットワークの整備と合わせ、地域事業会社の統合を基軸とした販売力の強化を図り、収益基盤の再構築を進める。

事業概況

・売上収益1419億1500万円(前年同期比105.9%)、営業利益159億3400万円(同116.4%)

 エレクトロニクス向けガス供給や特殊ケミカル・関連機器の販売、インドでの産業ガス事業が順調に推移したことに加え、国内製造業の生産活動が総じて順調に推移したことから、新型コロナ前の業績を上回る結果となった。

 国内のガス事業では、エレクトロニクス向けガス供給は、半導体の需要拡大を背景に国内半導体メーカーが旺盛な設備投資と高稼働の操業を継続し、好調に推移。鉄鋼向けオンサイトガス供給は、粗鋼生産の回復によりガス販売数量が増加した。ローリー・シリンダーによるガス供給は、電子部品、化学、機械向けなどが堅調に推移し、新型コロナ以前の販売数量に回復した。炭酸ガスは、宅配向けドライアイス需要の増加を受け、順調に推移した。

 海外事業は、主力のインドにおいて、粗鋼増産に伴い鉄鋼向けオンサイトガス供給が高稼働を継続し、順調に推移した。また、ローリー・シリンダーによるガス供給は、上半期において新型コロナの急激な感染再拡大が続いた中、深刻化した医療用酸素を優先的に供給した。

 機器・工事事業は、半導体メーカーの増産投資に関連した案件の獲得に注力し、付帯工事、特殊ケミカルの供給機器に加え、ガス精製装置、半導体製造装置向け熱制御機器などの販売が拡大した。

ケミカル関連事業

中期的な事業方針

 電子材料を中核とした機能化学品事業への構造転換を進め、その成果が開発・製造・販売面を中心に発現。2021年10月1日には、電材開発事業部、川崎化成工業㈱、大東化学㈱を統合し、エア・ウォーター・パフォーマンスケミカル㈱を発足させた。これに㈱プリンテックの回路製品・回路材料事業、㈱FILWELの精密研磨パッド事業、エア・ウォーターのSiC及びGaN基板事業などを合わせ、半導体・電子機器の製造プロセスに欠かせない多様な技術資源と顧客基盤を活かして、グループシナジーを追求するとともに、スマート社会・循環型社会に対応することで、さらなる成長を目指す。

事業概況

・売上収益288億6900万円(前年同期比119.9%)、営業利益は27億3900万円(同170.8%)

 電子材料や精密研磨パッドなど半導体や電子機器の製造に不可欠な素
材や部品の販売が拡大するとともに、基礎化学品分野の需要回復と市況好転により、大幅に収益改善が進展した。

 エア・ウォーター・パフォーマンスケミカル㈱の電子材料事業は、旺盛なエレクトロニクス関連需要が継続したことで、半導体封止材用のポリイミドモノマーの販売が好調に推移した。また、生産体制の再構築により収益改善が進展した。基礎化学品事業は、有機酸の販売数量が増加したことに加え、原油価格の上昇と需給逼迫により、化学品市況が高水準となり好調に推移した。機能材料事業は、キノン系製品の販売が拡大したことで、前年同期を大幅に上回った。

 その他の事業では、高機能回路製品が堅調だったことに加え、精密研磨パッドがデータセンター市場の伸展によるハードディスク需要の高まりを受け、好調に推移した。

医療関連事業

中期的な事業方針

 医療ガスや医療機器を中心とした「高度医療」分野から、デンタルや衛生材料といった「くらしの医療」分野に至るまで、多様な事業領域による総合力を活かした新しい医療の形を追求する。特に、ウィズコロナに対応して感染対策製品のさらなる拡充を図るとともに、酸素濃縮装置の供給や、各自治体で整備が進められた「酸素ステーション」における酸素供給設備の施工など、新型コロナ対策の一助となる取り組みを進めるとともに、グループ会社の統合再編や地域事業会社との連携強化などを通じて、さらなる収益改善を図る。

事業概況

・売上収益1408億2200万円(前年同期比105.6%)、営業利益75億2100万円(同128.7%)

 ほぼすべての事業分野において新型コロナの影響を大きく受けた前年同期に対して、病院向けビジネスの事業環境が回復基調で推移した。これに加えて、新型コロナをめぐる治療や感染防止対策、ワクチン接種といった医療ニーズの変化を捉え、医療現場の課題解決に資する各種提案に注力した結果、医療ガス、在宅医療、注射針などの事業が伸長し、売上・利益ともに前年同期を上回った。

 設備事業は、新型コロナの影響で一時控えられていた手術室など病院設備の改修工事・保守点検が復調し、堅調に推移した。医療サービス事業は、SPD(病院物品物流管理)分野における資材調達の効率化により収益改善が進展した。医療ガス事業は、デルタ株の感染拡大により医療用酸素の需要が増加するとともに、在宅医療事業も自治体向けに酸素濃縮装置のレンタル数が増加した。医療機器事業は、一酸化窒素吸入療法の症例数が増加した。衛生材料事業は、前年同期のような特需はなくなったものの、マスクや手指消毒剤など定着化した感染対策製品の需要
を取り込み、堅調に推移した。

エネルギー関連事業

中期的な事業方針

 LPガス販売に付帯したサービス向上による新規顧客の獲得はもとよ
り、販売店の商権譲り受けを通じてLPガスの販売拡大と直販強化を図り、着実な収益向上を実現している。また、カーボンニュートラルに貢献するLNG(液化天然ガス)関連機器や新たなバイオガスエネルギーの開発に取り組むとともに、2019年に進出したベトナムにおいてLPガス事業の基盤構築を進める。

事業概況

・売上収益397億6600万円(前年同期比114.6%)、営業利益24億5600万円(同96.2%)

 LPガスの輸入価格が大幅に上昇したことに加え、工業用の需要回復
に伴い、売上面では順調に推移したが、利益面では家庭用LPガスの需要が減少したことに加え、灯油の販売数量が減少した影響により、前年同期を下回った。

 LPガス事業は、輸入価格の指標となるCP価格に連動し販売単価が上昇したことで、売上収益が拡大したが、利益面では家庭用LPガスにおける価格改定の一時的なタイムラグと巣ごもり需要の反動により消費量が減少し、前年同期を下回った。販売数量は家庭用において巣ごもり需要が縮小したものの、工業用・業務用の需要回復により、全体としては前年同期を上回った。灯油は原油価格の高騰を背景に販売単価が上昇したことで、売上収益は拡大したが、使い控えの影響を受けた。ベトナムでのLPガス卸売事業は、ロックダウンにより充填所の操業制限を受けたため、前年同期を下回った。

 天然ガス関連事業は、LNG販売数量の増加に加え、カーボンニュートラルへの関心の高まりから、LNGタンクローリーやVサテライトなど関連機器の販売が堅調に推移した。

農業・食品関連事業

中期的な事業方針

 コロナ禍によって「食」に対するニーズが大きく変化する中、業務用
が中心だった開発・販売体制を見直し、市販用冷凍食品や総菜、宅配向けの商品開発とEC(電子商取引)などの新たな販路開拓に注力する。生産面においては、原料野菜の産地分散化、工場ラインの自動化、食品加工技術の高度化など、これまで実施してきた「食のライフライン」を支える設備投資の効果が各所で発現しており、事業全体の収益改善を牽引する。また、2021年10月1日には、新会社エア・ウォーターアグリ&フーズ㈱への農産加工事業における開発・販売機能の集約をはじめとしたグループ会社の再編を行った。食品の加工技術と物流機能を融合した食品流通加工事業への構造転換を進め、農産物の生産・調達から物流・加工、販売へとつながるバリューチェーンを構築し、さらなる成長を目指す。

事業概況

・売上収益1080億7300万円(前年同期比105.0%)、営業利益57億8600万円(同148.8%)

 飲料、スイーツ分野を中心に販売が回復するとともに、生産や物流の効率化により収益改善が大幅に進展した。

 農産・加工品事業では、ハム・デリカ分野は、市販用調理加工品の新製品が大手量販店に採用されるなど、ライフスタイルの変化に対応した商品開発に注力し、堅調に推移した。スイーツ分野は、かねてより取り組んできた生産・物流面の収益改善が進展するとともに、巣ごもり需要に対応した商品開発を通じて、量販店やコンビニエンスストア向けの販売が好調に推移した。農産・加工分野は、産地や野菜の品目によって相場状況が大きく異なるものの、総じて前年同期並みとなった。また、2021年11月より農産物直売所「産直市場よってって」を運営する㈱プラスを新規連結するとともに、子会社における土地売却益を計上した。

 飲料事業は、健康志向を背景に拡大した野菜系飲料や植物性ミルク飲料の生産受託が好調だったことに加え、2020年に導入した北海道・恵庭工場のPETボトル充填ラインが高稼働を継続したことも寄与し、前年同期を上回った。

 その他の事業では、青果小売分野は、野菜の相場安や来店者数の回復遅れの影響を受けた。一方、農業機械分野は、底堅い需要を背景に堅調に推移した。

物流関連事業

中期的な事業方針

 需要拡大が見込まれる低温物流事業に注力するとともに、自社物流ネ
ットワークの拡充を進め、収益力の向上を図った。同時に、グループ全体の物流一元化によるコストの適正化や自社倉庫の利活用による効率化など、事業間シナジーの創出にも取り組む。また、循環型社会の実現に向けて重要性が高まっている廃棄物関連事業の育成も進める。

事業概況

・売上収益437億7400万円(前年同期比108.7%)、営業利益24億8300万円(同111.6%)

 軽油価格上昇の影響があったものの、宅配市場の拡大等に伴う幹線輸送の荷扱量回復に加え、M&Aによる新規連結効果が寄与し、順調に推移した。

 運送事業は、北関東と北海道の物流センターの機能を活かした受注活動によって、ネット通販の大型受託案件を獲得するとともに、製材や建材を中心にフェリー航路におけるシャーシ輸送も回復し、幹線輸送の荷扱量が増加しました。また、2021年8月より北海道地区で産業廃棄物等の輸送・処理事業を行う㈱リプロワークホールディングスを新規連結した。

 食品物流を中心とする3PL事業は、スーパーマーケット向けの荷扱量が増加するとともに、新規顧客の開拓と受託料金の適正化に取り組んだ。

 トラック・ボディの設計・架装を行う車体事業は、トラック車両本体の納期遅延による影響を受け、前年同期を下回った。

海水関連事業

中期的な事業方針

 業務用塩や電磁鋼板用マグネシアなどのトップシェア製品を起点に環
境、電力、食品、都市インフラ(水処理・下水管更生)など、海水から派生した多様な事業を展開し、着実に収益力を高める。また、さらなる成長に向けて、アジアを中心に需要が高まる環境事業や、カーボンニュートラルである木質バイオマス発電事業の拡大に取り組む。

事業概況

・売上収益322億0300万円(前年同期比114.7%)、営業利益28億6700万円(同177.3%)。

 マグネシア事業が原料価格及び海上運賃の高騰による影響を受けたが、ヒーター用を中心にマグネシア事業の需要が回復し、収益改善が進展したことに加え、木質バイオマス発電所が順調に稼働したことにより、前年同期を大幅に上回った。

 塩事業は、家庭用塩や道路融雪用塩の販売が増加し、堅調に推移した。環境事業は、製鉄所向けを中心に水酸化マグネシウムの販売が回復した。電力事業は、2021年1月より営業運転を開始した赤穂第2バイオマス発電所が安定稼働を継続し、売上・利益ともに前年同期を大きく上回った。一方、都市インフラ事業は、水処理設備工事の着工遅れが生じた影響から前年同期を下回った。

 マグネシア事業は、中国産原料の価格高騰による影響を受けたものの、生産面におけるコスト改善を進め、事業全体としては順調に推移しました。また、家電向けを中心としたヒーター用電融マグネシアや半導体需要の増加に伴うセラミック製品及び半導体封止材向け難燃剤の販売数量が増加した。

その他の事業

事業概況

・売上収益1115億9200万円(前年同期比125.4%)、営業利益68億9700万円(同207.6%)。

 エアゾール事業は、巣ごもり需要を取り込んだ殺虫剤や模型用塗料の生産受託が高水準を継続したが、原油高を背景とした原材料価格の上昇を受けて、利益面では前年同期並みの水準となった。

 情報電子材料事業は、世界的な半導体・電子部品の需要拡大を受けて、顧客における在庫積み増しの動きが継続し、国内外ともに好調に推移した。

 海外エンジニアリング事業における産業ガス関連機器分野は、液化水素タンクなど脱炭素化を背景とした設備機器の需要拡大に加え、炭酸ガス関連機器などの受注も増加し、順調に推移した。一方、高出力UPS分野は、シンガポールを中心とした周辺国における移動や経済活動の制限が想定以上に長引いたことにより進行中の工事が遅延したほか、アジア地域を中心に新規プロジェクトの着工遅れが続いたことにより厳しい状況となり、前年同期を下回った。

 電力事業は、2021年4月より営業運転を開始した福島県いわき市の木質バイオマス専焼発電所が安定稼働を継続したことから、売上・利益面ともに前年同期を大幅に上回りました。

 その他の事業は、半導体製造装置向けの製品販売が大幅に増加したOリング事業が、好調に推移した。