産業ガスのグリーントランスフォーメーション


住友重機械工業、極低温冷凍機の応用で液化水素貯蔵時の損失ゼロ実現


マイナス253℃の極低温環境を効率良く生成、液化水素から発生するBOGを完全に抑制

 住友重機械工業は水素を液化・再凝縮することで、液化水素の貯蔵時に発生する水素の気化ガス(Boil Off Gas、以下BOG)を完全に回収できる極低温冷凍機を新たに開発し、その安全性と効能性を実証した。これにより、液化水素の貯蔵時損失をゼロにすることが可能になるとしている。

 通常、液化水素を貯蔵する際には、容器内で液化水素が気化してBOGが発生する。容器の内圧上昇を防ぐため、このBOGを容器外へ放散する必要があり、特に100m3以下の比較的小型な容器では、1日あたり液化水素全量の0.5~1%が減少することからBOG発生の抑制は、液化水素の貯蔵・供給設備において重要な技術課題だった。

 今回、住友重機械工業の技術研究所および精密機器事業部が開発した冷凍機は、液化水素の凝縮用に設計されたもので、液化水素貯蔵時に発生するBOGを完全に回収できることを確認した。これにより、BOGを放散する必要がなくなり、水素の損失を防ぐことができる。

開発された冷凍機には、以下の特長がある。

  • 住友重機械工業のGM冷凍機※1をベースとしており、独自開発した熱交換器を介して、冷凍機で発生した冷熱を貯蔵容器内の水素ガスに効率的に伝える。
  • マイナス253℃の極低温環境を効率良く生成し、液化水素から発生するBOGを完全に抑制することが可能。また、再凝縮によって貯蔵容器内に回収した水素の量(本来損失となっていた水素の量)は、冷凍機の稼働に掛かる電気代を十分に賄うことができる※2経済性がある。
  • 可燃性ガスである水素が、万が一漏出した場合を十分に考慮した防爆構造を新たに設計し、法令を遵守する仕様。

※1:Gifford-McMahon冷凍機の略。熱交換用の蓄冷材をシリンダ内で往復動させながら冷媒ガスの膨張を繰り返すことで寒冷を発生させる機械駆動式冷凍機。住友重機械工業は医療装置MRI用として世界ナンバーワンの納入実績を持つ。
※2:水素の価格を2030年の国内目標価格である30円/Nm3で計算。なお、現在の国内価格は150円/N立方m3

 カーボンニュートラル社会の実現に向け、国内外で水素利用の動きが加速しており、中でも高純度な水素を直接供給できる液化水素は、燃料電池用途で注目されている。しかし、沸点がマイナス253℃と極めて低いためBOGの発生を避けることが困難であり、安全のために大気中へ放散されることが多く、補充に費用が発生するなどの経済的な損失を伴う点が課題だった。

 住友重機械工業は、今後さらに効率性の高い冷凍機を開発し、BOG回収効率のさらなる向上や、電気機器の防爆構造に関するIEC-Ex国際規格認証の取得を検討する。また、世界で高いシェアを誇る同社の極低温冷凍機の可能性を拡大するとともに、カーボンニュートラル社会の実現へ貢献することを目指す。


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