高電圧水素製造システムを実現する絶縁配管技術を世界で初めて開発、耐電圧試験に成功

水電解システムの設置面積を最大50%削減、都市部や既設プラントの狭小地での水素製造の普及促進

 日立製作所(以下、日立)は、水を電気分解することで水素を製造する水電解システム向けに、10kV級の高電圧に対応した絶縁配管技術を世界で初めて*1開発し、実証機による耐電圧試験に成功した。日立が培ってきた高電圧インバータの知見や複合材料などを用いた独自の絶縁配管技術を採用することで、高電圧下でも、水素ガスや水が混在した状態で、絶縁破壊や漏えいなどの異常が発生しないことを確認した。
 今回得られた実証結果をもとに、日立は水電解スタックを含む高電圧運転のシステム実証を段階的に進め、MW級以上の水電解システムの社会実装に向けた取り組みを加速する。さらに、高電圧変換器の電力制御性能を活用し、再生可能エネルギーが大量導入された電力系統での需給調整を支援する機能を順次組み込む。また、将来的には高電圧水電解システムで得られるデータを、日立が培ってきたプラントおよび電力系統運用のドメインナレッジと統合することで、AIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群「HMAX by Hitachi」における要素技術の一つに発展させる。最適運用や予知保全といったデジタルサービスを提供することで、水電解システムの価値を最大化し、グリーン水素の普及と脱炭素社会の実現に貢献する。

 従来の水電解システムでは、電力系統から送電された高電圧を変圧器で段階的に低電圧へ変換し、1kV未満の電圧で水電解スタック*2を駆動して水素を製造していた。今回の技術により、スタックを10kV級の高電圧で直接給電できるようになるため、電圧変換に必要な変圧器の数を大幅に削減できる見込み。その結果、水電解システムの設置面積を最大50%削減できる想定で、システム設計の自由度が高まることで分散配置の選択肢が広がり、立地条件に応じた柔軟なシステム導入を後押しする。特に、都市部では狭小地の有効活用に、また鉄鋼・石油・化学産業などの既設プラントでは空きスペースを活かした段階的な水素導入に寄与する。

 日立では今後、国内外のパートナー企業との連携や研究機関との協創を通じて、MW(メガワット)級以上の大容量システムの開発・実証を推進するとともに、都市部のほか、再生可能エネルギー発電所(再エネ発電所)、工業地帯、製造拠点など多様な現場への展開を通じてグリーン水素*3の普及拡大、脱炭素社会の実現に貢献するとしている。

*1 世界で初めて: 10kV級の高電圧水電解システム向けに、水素ガス/水の混在環境下で使用でき耐圧・耐熱・耐食性および水素ガスバリア性を備えた「絶縁配管」について、特許事務所による公知例調査に基づく当社確認の範囲では前例が確認できなかった(日立調べ、調査年月:2025年8月、調査対象:日本で公開・権利化された国内外の発明に関する特許情報)。
*2 水電解スタック: 複数の電解セルを積層し、直流電流を供給して水を水素と酸素に分解する装置。
*3 グリーン水素: 水素は利用時にCO₂を排出せず、多様な産業用途に活用できる。その中でもグリーン水素は、再生可能エネルギー由来の電力を用いて水を電気分解するなど、製造時の温室効果ガス排出量が極めて低い方法で作られた水素のこと。

開発した技術・ソリューションの特長

 近年、水素分野では各国の政策支援を背景に多くのプロジェクトが進められており、現在では、市場は構想段階から実装段階へと移行、用途や地域に応じた現実的な検討が進んでいる。水素需要は、直接の電化が難しい鉄鋼や化学など産業プロセスの脱炭素化に加え、化学原料など産業系フィードストックとしての利用を中心に拡大。さらに、環境配慮や付加価値向上を目的とした小規模用途にも活用が広がっている。特に、再生可能エネルギー由来の電力で製造されるグリーン水素は、余剰電力を有効活用できるだけでなく、電力系統における需給調整機能を担う手段としても期待される。
 一方、従来の水素製造システム(水電解システム)では、高電圧を段階的に低電圧に変換するための変圧器などが多数必要となるため、装置全体の設置面積が大きくなる傾向があり、土地の確保が困難な都市部や、鉄鋼・石油・化学産業などの敷地が限られた既設プラントへの導入が難しいという課題があった。これに対して、水電解システムを高電圧化して変圧器の数を削減することが有効だが、従来の絶縁配管技術では、耐圧・耐熱・耐食性を十分な水準で同時に満たすことができず、高電圧下で水素ガスや水を取り扱うことが困難だった。

 今回、日立は、これまで培ってきた高電圧インバータの知見や配管の材料構成を含む絶縁技術を活かし、高電圧水電解システムの実現に必要となる絶縁配管を開発。開発にあたっては、絶縁性に加えて、耐圧・耐熱・耐食性*4や水素ガスのバリア性*5といった多くの性能を同時に満たす複合材料の選定が大きな課題だった。そこで、各素材の絶縁抵抗やガス透過度などの特性を個別に測定・評価し、その結果を積み上げながら最適な材料構成を導き出した。こうした取り組みにより、従来のセラミック製配管では難しかった高い絶縁性能と機械的強度の両立を実現し、10kV級の高電圧環境でも安全に使用できる絶縁配管が完成した。

*4 耐食性: 電蝕に強く、長期間の使用でも性能が維持できる性質のこと。
*5 ガスのバリア性: 水素などの気体が材料を通り抜けるのを防ぐ性質のこと。

 実証機を用いた試験では、配管部分に10kVの電圧を加え、さらに水素ガスや水が混在する実際の運用環境を模擬して、絶縁破壊や漏えいなどの異常が発生しないことを確認。今後は耐久性や長期信頼性の評価も進め、従来の高電圧運用の水電解システムでは困難だった安全性と信頼性を両立し、長期にわたり安定した水素製造を実現する。