「地下未利用資源の活用」の天然水素と、「極限マテリアル」の高温超電導およびパワーレーザーの合計11件のテーマを採択
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、2040年以降の新たな産業創出を目指し、国として重点的に取り組むべき分野の研究開発および事業化を推進する「フロンティア育成事業」を開始した。本事業では、「極限マテリアル」および「地下未利用資源の活用」をフロンティア領域と位置づけ、特に「地下未利用資源の活用」領域においては、将来的な低炭素水素の供給源としての可能性が見いだされている「天然水素」に焦点が当てられている。
脱炭素と成長の両立を目指す「フロンティア領域」への挑戦
本事業は、NEDOイノベーション戦略センター(TSC)が国内外の技術・市場・政策動向を俯瞰し提案する「フロンティア領域」に対し、初期段階の研究開発を支援する。フロンティア領域とは、将来ポテンシャルは大きいものの、技術的・市場的な不確実性や巨額投資の必要性から、個社だけでは投資が進みにくい領域。NEDOでは、日本が抱える研究開発から事業化に至る割合が少ないという課題に対応するため、特に需要の不確実性が高いGX分野において、事業リスクへの早期対応を可能とする。2040年頃の社会実装を見据えて、脱炭素と経済成長の両立を実現する革新的技術の育成と、持続可能な産業基盤の構築に貢献する。

ここでのGX分野とは、脱炭素成長型経済構造移行推進戦略にある「国による投資促進策の基本原則」に則したもので、世界規模でのカーボンニュートラル実現および日本の産業競争力強化のためのイノベーション創出を目指す分野であり、その対象には、太陽光・風力・水素などの非化石エネルギーの開発および利用の促進などが含まれる。
「天然水素」研究開発に5テーマを採択
今回、フロンティア領域として特定されたのは「極限マテリアル」と「地下未利用資源の活用」の2領域で、「極限マテリアル」領域には、高温超電導とパワーレーザーが研究課題として設定され、それぞれ3件ずつのテーマが採択された。

また「地下未利用資源の活用」領域では、特に「天然水素」に焦点が当てられた。石油、石炭、天然ガスなどの従来型地下資源とは異なる新たな資源として、米国エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)や国際エネルギー機関(IEA)などで世界的に注目されているが、地下深部での生成・移動・集積メカニズムの詳細は解明されていない。
「フロンティア育成事業」では、天然水素資源の活用に必要不可欠な研究テーマを実施し、将来的な低炭素水素の供給源としての可能性を見いだす。今回の公募に対し、天然水素の生成増進・回収実現に向けた研究開発として、5件のテーマが採択され、「超塩基性岩からの天然水素回収・生成増進」や「日本の天然水素ポテンシャル評価」、「水素生成可能な岩石の探索」などが含まれる。

これらのフロンティア領域における研究開発課題の探索・選定を行い、技術開発から社会実装に至るまで一貫して推進するため、2名のPDを指名。研究開発テーマは、藤本辰雄氏(「極限マテリアル」領域PD)と仁木栄氏(「地下未利用資源の活用」領域PD)の2名のプログラムディレクターが、技術開発から社会実装に至るまで一貫して推進する戦略を策定し、実行を担う。
現在の主要な水素製造法は化石燃料に依存している部分も多く、脱炭素化への対応が喫緊の課題となる。こうした中で、天然水素が将来的な低炭素水素の供給源として確立されれば、水素の新たな供給構造を構築することになり、天然水素に関する研究開発の進展は、将来の水素サプライチェーンにおける供給源の多様化やコスト構造の変化につながる可能性がある。