世界初、液化⽔素⽤船陸間移送ローディングアーム開発
東京貿易エンジニアリング(代表取締役社⻑:坪内 秀介、以下TEN)、川崎重工業(代表取締役社⻑:⾦花 芳則)、国⽴研究開発法⼈宇宙航空研究開発機構(理事⻑:山川 宏、以下JAXA)および一般財団法⼈日本船舶技術研究協会(会⻑:田中 誠一、以下JSTRA)は、内閣府が推進するSIP※1において、世界初の液化⽔素⽤船陸間移送ローディングアームを開発した。
⽔素は、太陽光や風⼒などの⾃然エネルギーと同様に、使⽤時に⼆酸化炭素を排出しない燃料として注目されており、燃料電池⾃動⾞や⽔素発電などの普及に向けた取り組みが⾏われている。日本は、低コストでの⽔素利⽤を実現するために、海外の未利⽤エネルギーとCCS※2との組み合わせおよび再生可能エネルギーから⽔素を⼤量調達できる国際的なサプライチェーンの構築において必要となる液化⽔素運搬船や液化⽔素荷揚基地の建設を進めている。
液化⽔素運搬船による海上輸送はこれまでに世界中で実績がないため、船と基地を繋ぐ重要な設備として液化⽔素⽤ローディングアームを新たに開発した。液化⽔素の温度は空気の液化温度より低いため、既存技術の LNG ⽤ローディングアームでは、移送時に配管表面に液体酸素が生成され、火災を誘発する可能性がある。この課題の解決策として、液体酸素を生成させない高い断熱性と安全に運⽤するための機構を備えた。本ローディングアームの主な特⻑は次の3点。
①高断熱を実現する真空⼆重断熱構造
⼆重管構造の内外管の間を真空に保持することで高度な断熱性を発揮し、外管の表面を⼤気温度近くに保持することで、液体酸素の発生を防止。
②⾃由度が高い特殊な高断熱構造のスイベルジョイント(回転機構を有する管継手)
真空⼆重断熱構造を崩すことなく配管を接続でき、接続部に船舶の停泊位置の変動や動揺に対応する⾃由度を与えつつ、分子が小さい⽔素をリークさせない高いシール性能を実現。
③緊急時に液化⽔素を安全に遮断する離脱機構
液体⽔素の移送中に津波など緊急に離岸する必要がある際に短時間で配管を閉止し、安全に船体から配管を切り離すことが可能な機構を搭載。
本ローディングアームの開発は、LNG⽤ローディングアームの開発・製造で豊富な実績を有するTENと液化⽔素関連設備の製造で⻑年のノウハウを有する川崎重工が担当し、それらを様々な舶⽤関連技術を研究しているJSTRAが全体統括を担当した。
また、本ローディングアームの特⻑であるスイベルジョイントと緊急離脱機構は、ロケット燃料として液化⽔素の扱いに関する知⾒を有するJAXAの能代ロケット実験場(秋田県)において、液化⽔素を⽤いた性能確認試験を実施した。緊急離脱機構の切離し動作およびスイベルジョイントの⻑期稼働を⾒据えた40万回の反復回転動作の確認を⾏うことで、高い安全性と耐久性を確認した。
今後、2020年度に実証試験を計画しているNEDO※3事業「未利⽤エネルギー由来⽔素サプライチェーン構築」の液化⽔素の海上輸送実証にて、本システムの緊急離脱装置の実証を⾏う。さらに、将来の商⽤化に向けた規格作りや⼤型化に向けた技術開発を進めることで、持続可能な社会の実現を目指す。
<開発したローディングシステムの主な仕様>
- ア ー ム ⻑:11.5m
- ベースライザー高:5.5m
- 材 質 ( 管 部 ):ステンレス
- 構造 ( 管 部 ):真空⼆重構造。外⼒は外管で受け、内圧は内管で保持
- 主 要 要 素:アーム駆動装置、スイベルジョイント、緊急離脱機構
※1 国家プロジェクトとして、科学技術イノベーションを実現するために創設した戦略的イノベーション創造プログラム(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)。2014 年度から 2018 年度までの5年間で、SIPの研究課題「エネルギーキャリア」の研究開発テーマの1つである「液化⽔素⽤ローディングシステム開発とルール整備」として実施
※2 Carbon dioxide Capture and Storage(CO2回収・貯留)
※3 国⽴研究開発法⼈新エネルギー・産業技術総合開発機構