エア・ウォーター、世界初の実用化レベル「SiC on Si 基板」のGaN基板を開発
エア・ウォーターは、同社が製造する「SiC on Si 基板」を用いて、その表面にトランジスタ層を含むGaN 層を成膜したパワートランジスタ用GaN 基板(以下、本基板)を開発した。また、顧客であるデバイスメーカーが本基板を用いたパワートランジスタを量産ラインで試作し、実証試験を行った結果、デバイス製造プロセスにおける品質の安定性(歩留まりの向上)を確認した。現在、実用化に向けた取り組みをデバイスメーカーと協力して進めている。
エア・ウォーターによると安価なSi 基板を用いた「SiC on Si 基板」がGaN パワートランジスタ用として実用化レベルに至った世界で初めての事例となる。
(注)GaN:窒化ガリウム、SiC:シリコンカーバイド、Si:シリコン
1.GaN パワートランジスタの概要
パワートランジスタは、インバーターやコンバーターなどの電力変換器に用いられる半導体素子であり、その用途は、産業機器、自動車、家電などのインバーター制御や各種汎用モーターなど広範囲な分野にわたる。
GaN は、省エネルギーや高効率化の観点から、次世代パワートランジスタ向けの素材として注目され、今後の普及が期待されているが、そのコストや性能面の課題から当初の想定よりも普及のペースが遅れている。
2.開発の経緯
SiC は、GaN の成膜に最も適した材料として知られており、GaN パワートランジスタの低コスト化と高品質化の実現に不可欠な役割を果たす。
エア・ウォーターは、1980 年代から、産業ガスの応用技術の一環として半導体関連分野の顧客ニーズに対応するため、独自に開発した高真空エピタキシャル成膜装置(VCE 装置)を用いて、GaN パワートランジスタ用の下地基板となる「SiC on Si 基板」の開発に取り組んできた。2004 年にその製造技術を確立し、2012 年には大口径最大8 インチまでの生産が可能な量産技術の開発に成功するとともに、長野県安曇野市にパイロット生産工場を建設、また、同時に「SiC on Si 基板」にGaN 層を成膜する本基板の開発を進めてきた。
3.本基板の特徴
- 本基板の構造(下記の構造模式図を参照)
- 安価で大量に普及しているSi 基板を使用。
- エア・ウォーター独自の成膜技術によりSi 基板上に高品質のSiC を成膜。
- エア・ウォーターにて、SiC の成膜後に GaN 層(AlN(窒化アルミニウム)等の窒化物系材料を含む)およびトランジスタ層まで成膜。
- 本基板の優位性
- GaN は、Si よりもSiC との結晶親和性が高く、SiC の表面上にGaN を成膜すると、GaN の結晶品質が良くなる。そのため、Si 基板上に直接GaN を成膜する方法(上記の比較用参考図参照)と比べてGaN の結晶欠陥が少なくなる。
- また、GaN 結晶中の歪みが少ないため、GaN の厚さを厚くしてもクラック(結晶中の微少ひび割れ)の発生がない。
【本基板「GaN on SiC on Si 基板」の構造模式図】
4.本基板を用いたGaN パワートランジスタの特徴
- GaN 結晶の欠陥減少、クラックの不発生により顧客でのパワートランジスタ製造プロセスにおける品質の安定性(歩留まり)が向上。
- GaN 層の厚膜化により電源用パワートランジスタの更なる高耐電圧化が可能。
- GaN の結晶欠陥が少ないため、パワートランジスタの大型化(大電流化対応)が容易。
- SiC は、耐熱性・熱伝導性が高く、非常に硬い材料であるため、パワートランジスタの長期間にわたる信頼性の向上が期待できる。