エア・ウォーター 2021年3月期第3四半期連結決算(IFRS)

ほぼすべての事業領域で回復傾向が鮮明。働き方改革など費用低減効果も寄与し、前年同期並みの水準まで回復

 エア・ウォーターの2021年3月期第3四半期連結決算は、売上収益5864億1800万円(前年同期比1.0%減)、営業利益362億5900万円(同6.6%減)、親会社の所有者に帰属する四半期利益212億1700万円(同9.0%減)となった。通期業績予想と配当金予想の変更はない。

 エア・ウォーターグループでは、新型コロナウイルス感染拡大防止策を徹底したうえで、産業や暮らしのライフラインとして、産業ガスや医療用ガスをはじめとした諸製品の安定供給体制を継続。コロナショックを契機に、テレワークや高速通信規格「5G」が進展したことでエレクトロニクス分野の需要が拡大するとともに、感染対策分野など新型コロナにより生まれたニーズが定着しつつある。「新常態(ニューノーマル)」における変化に対応すべく、エレクトロニクス関連向けのガス・機器・材料や医療現場をサポートする感染管理製品など、グループが展開する多様な事業・製品を活かし、積極的に市場開拓を進めた。さらに、全社を挙げてデジタル化を基軸とした働き方改革を推進し、業務運営の効率化とコスト低減に取り組んだ。

 これからの10年を見据えた経営改革として、新たにグループ全体の技術戦略プラットフォームとしての機能を担う「技術戦略センター」を設置し、研究開発体制の改革を進めるとともに、国内における収益力の向上と持続的な成長を牽引する強力な事業基盤を構築するため、地域事業会社8社を統合し、新生3社とする経営組織改革を実施した。

 グループの業績は、第2四半期までは産業ガス関連、医療関連およびその他の事業における海外エンジニアリング分野を中心に新型コロナによる影響を受けたが、第3四半期にはほぼすべての事業領域において事業環境の回復傾向が鮮明になるとともに、働き方改革などの進展による費用低減効果も寄与し、全社業績においては前年同期並みの水準まで回復した。

セグメント別業績

産業ガス関連事業

 売上収益は1340億6400万円(前年同期比97.1%)、営業利益は136億8900万円(同97.0%)。
 セグメント全体としては、上半期を中心に国内製造業における産業ガス需要の減少による影響を受けたものの、インドでの産業ガス事業が好調に推移したことに加え、エレクトロニクス向けのオンサイトガス供給・機器が堅調に推移した。
 ガス事業では、国内の鉄鋼向けオンサイトガス供給は、主要顧客の高炉停止などの影響を受け、販売数量が減少し、厳しい状況が続いた。エレクトロニクス向けガス供給は、データセンターや5G関連の需要拡大による国内半導体メーカーの増設・増産を背景に、堅調に推移した。ローリー・シリンダーによるガス供給は、春先の国内製造業における生産調整により需要が急減したが、第2四半期以降は自動車産業の回復に連動する形でガス需要も持ち直しの動きが見られ、第3四半期には、ほぼ前年同期並みの水準まで回復した。
 機器・工事事業は、半導体製造装置向け高精度加熱冷却部品やエレクトロニクス向け特殊材料供給装置などの販売が拡大し、堅調に推移。
 海外事業は、主力のインド事業において、鉄鋼向けオンサイトガス供給が旺盛な粗鋼生産に連動し高稼働を継続したほか、第2四半期以降はローリー・シリンダーによるガス供給においても建設や自動車向けなどの需要が高い水準で継続したことから、順調に推移した。

ケミカル関連事業

 売上収益は240億8800万円(前年同期比128.6%)、営業利益は16億0400万円(同66.4%)。なお、営業利益の前年同期比は、主に大東化学㈱のM&Aに伴う負ののれん発生益を前年同期に計上したことによる。
 セグメント全体としては、電子材料の販売が増加するとともに、生産体制の構造改革による収益改善が進展、さらに新規連結効果も寄与した。
 機能化学品事業は、ポリイミド樹脂原料をはじめとする電子材料の拡販が進展した。また、データセンターにおけるハードディスクドライブの需要拡大を背景に精密研磨パッドの販売が堅調だった㈱FILWEL、および酢酸ナトリウムの国内トップメーカーであり、電子材料向け有機合成事業が拡大した大東化学㈱の新規連結効果が大きく寄与した。また、中国工場の閉鎖をはじめとして事業全体を対象に生産体制の再構築を進めたことで、収益性の改善が進展した。
 川崎化成工業㈱は、無水フタル酸の市況下落と販売減少により売上面において影響を受けたが、ナフトキノンの販売回復により、前年同期並みとなった。

医療関連事業

 売上収益は1333億1300万円(前年同期比98.4%)、営業利益は58億4400万円(同98.8%)。
 セグメント全体としては、新型コロナによる影響があったものの、感染管理製品の需要拡大を背景に、衛生材料事業およびその他の事業におけるデンタル分野が好調に推移した。
 設備事業は、簡易陰圧装置の販売が拡大したものの、上半期を中心に病院での新型コロナ対応によって手術室など病院設備工事および保守点検の延期などが発生した影響を受け、厳しい状況となった。
 医療ガス事業は、第2四半期以降は回復傾向にあるものの、第1四半期における病院での受診控えや手術件数の減少による影響が残り、販売数量は減少。医療サービス事業においても、同様の理由によりSPD(院内物品物流管理)の取扱量が減少した。
 在宅医療事業は、院内感染回避のため在宅医療を選択する新規患者数が増加し、堅調に推移した。
 医療機器事業は、紫外線照射殺菌装置など感染管理製品の販売が増加し、好調に推移した。
 衛生材料事業は、感染管理製品の需要の高まりを背景に、医療機関、大手量販店やドラッグストアなど幅広い顧客向けに、マスクや手指消毒剤などの販売が拡大したほか、生産体制の増強を図り安定供給に努めたことで、好調に推移した。
 その他の事業では、持分法適用会社である㈱歯愛メディカルにおいて歯科医院向け通信販売を中心に、感染管理製品の販売が増加したことにより、デンタル分野が好調に推移。一方、シンガポールの病院設備工事は、政府主導による感染拡大防止のための経済活動制限による影響を受けた。

エネルギー関連事業

 売上収益は347億1200万円(前年同期比99.0%)、営業利益は25億5200万円(同121.7%)。
 セグメント全体としては、一般家庭向けLPガスの巣ごもり需要と商権買収の進展により、利益面では好調に推移した。
 LPガス事業は、売上面では、飲食店やホテルなどの業務用や工業用の需要が低迷したことで総販売量が減少したことに加え、第2四半期まで輸入価格に連動して販売単価が下落した影響を受けた。一方、利益面では、在宅率の上昇を背景に一般家庭での消費量が増加したことに加え、販売店の商権買収により直売比率が高まり、順調に推移した。機器・工事は、展示即売会などのイベントが中止になったことで、機器販売が減少。また、前連結会計年度においてM&Aによって取得したベトナムでの卸売事業の新規連結効果があった。
 天然ガス関連事業は、炭素排出にかかる環境意識の高まりを背景に、LNG輸送・供給機器の販売が堅調に推移した。

農業・食品関連事業

 売上収益は1029億4500万円(前年同期比96.0%)、営業利益は38億8800万円(同108.5%)。
 セグメント全体としては、新型コロナによる需要が減少した影響を受けたものの、青果小売分
野、スイーツ分野を中心に収益改善が進展し、堅調に推移した。
 農産・加工品事業は、外出を控えるライフスタイルの変化に対応し、テイクアウトや宅配向け商品の開発に加え、家庭用の調理品や冷凍野菜の販売に注力した。ハム・デリカ分野は、第3四半期以降、生ハムの販売が堅調に推移したが、上半期を中心に業務用の需要が減少した影響により、厳しい状況で推移した。農産・加工分野は、外食産業の低迷により第2四半期までは業務用加工野菜の需要が低迷したが、第3四半期は豊作により野菜の取扱量が増加したことに加え、生産合理化が進展し、前年同期を上回った。スイーツ分野は、巣ごもり需要を取り込んだことに加え、生産面の収益改善が進展し、好調に推移。
 飲料事業は、外出自粛の影響により茶系飲料などの受託生産量が大幅に減少した影響を受けたが、北海道の生産工場において最新鋭のPETボトル充填ラインの稼働を開始したこと、また、健康意識の高まりによる野菜系飲料の安定した受注があったことで収益改善が進展した。
 その他の事業は、農業機械分野は底堅い需要を背景に堅調に推移。青果小売分野は店舗の時短営業や休業による影響を受けたが、店舗運営の収益改善を進めた結果、利益面では前年同期を上回った。

物流関連事業

 売上収益は402億6000万円(前年同期比105.8%)、営業利益は22億2500万円(同119.2%)。
 セグメント全体としては、食品物流における荷扱量の増加や新規連結効果に加え、低温物流センターの稼働率が向上し、順調に推移した。
 運送事業は、建材関連を中心に全体の荷扱量が減少したが、新設した集中配車センターによる配送の効率化や軽油価格の低下によるコスト改善が寄与し、その影響を補った。また、M&Aによって取得した西日本地区を中心に運送・倉庫業を展開する㈱桂通商の新規連結効果があった。
 食品物流を中心とする3PL事業は、スーパーマーケット向けの荷扱量が増加したことに加え、低温物流センターの稼働率が向上し、順調に推移。
 トラック・ボディの設計・架装を行う車体事業は、製作台数は減少したものの、収益性の高い案件を受注したことにより、堅調に推移した。

海水関連事業

 売上収益は280億7700万円(前年同期比97.5%)、営業利益は16億1700万円(同77.0%)。
 セグメント全体としては、塩事業における都市インフラ分野およびヒーター用電融マグネシアが堅調に推移したものの、生産設備の大型定期修繕を実施した影響を受けた。
 塩事業は、都市インフラ分野において地方自治体向けの水処理設備や下水管更生の受注が増加し、売上面では堅調に推移した。しかし、外食・食品加工向けの業務用塩の需要が減少したことに加え、讃岐工場および持分法適用会社であるサミット小名浜エスパワー㈱の小名浜発電所において大型の定期修繕を実施した影響により、利益面では前年同期を下回った。なお、建設を進めていた赤穂第2バイオマス発電所は、2021年1月2日に営業運転を開始し、順調に稼働している。
 マグネシア事業は、粗鋼生産の減少と中国産原料の価格低下により、耐火物用途の窯業用マグネシアの売上が減少したほか、方向性電磁鋼板用マグネシアの販売も前年同期を下回る結果となった。一方、原料価格が低下したことにより、ヒーター用電融マグネシアの収益改善が進展し、利益面では堅調に推移した。

その他の事業

 売上収益は889億5600万円(前年同期比98.0%)、営業利益は33億2200万円(同66.5%)。
 セグメント全体としては、アルコール除菌剤の増産によりエアゾール事業が堅調に推移したものの、海外エンジニアリング事業が新型コロナの影響を受けたほか、電力事業において稼働後初の定期点検を実施した影響を受けた。
 エアゾール事業は、インバウンド需要の消失と外出自粛が続いたことで化粧品の受託が減少した一方、在宅率の上昇から殺虫剤や模型用塗料の販売が増加した。さらに需要の高まったアルコール除菌剤の増産に対応したことで、順調に推移した。
 情報電子材料事業は、半導体向け材料の販売が堅調に推移するとともに、第3四半期より自動車生産が持ち直したことで上半期まで苦戦していた車載部材の販売が回復し、前年同期を上回った。
 海外エンジニアリング事業は、産業ガス関連機器分野では、主要市場である米国において顧客の投資抑制が継続しているものの、ステーション用途の液化水素タンクや水処理用途の炭酸ガス関連機器などの販売が堅調に推移した。一方、高出力UPS(無停電電源装置)分野は、主にシンガポールにおいて、経済活動の規制強化を背景に、建設中のデータセンターの工事が遅延した影響により、前年同期を下回った。
 その他の事業では、電力事業において木質バイオマス・石炭混焼発電所(山口県防府市)の安定操業が継続したが、稼働後初となる定期点検に伴う稼働停止があったため、利益面では前年同期を下回った。Oリング事業は半導体製造装置向けの製品販売が順調に継続。また、北九州で建設・土木工事を行う㈱松尾ホールディングスは、第3四半期に入り回復傾向にあるものの、新型コロナによる工事遅延と案件減少による影響を受けた。