ダイヤモンドに接合された窒化ガリウムを熱加工し、トランジスタ作製に成功
エア・ウォーター、大阪市立大学大学院、東北大学、物質・材料研究機構の研究グループ。シリコンより放熱性が向上
本研究のポイント
- ダイヤモンドに接合された窒化ガリウム(GaN)※1を熱加工し、トランジスタ※2作製に成功。
- 作製したトランジスタの放熱性の向上、接合によるGaN層の品質担保を実証。
- 高品質な炭化ケイ素(3C-SiC)バッファ層を採用。
- ダイヤモンド上窒化ガリウムの大面積化が可能になり、社会実装を加速。
概要
大阪市立大学大学院 工学研究科の梁 剣波准教授、重川 直輝教授、東北大学金属材料研究所の大野 裕特任准教授、永井 康介教授、国立研究開発法人物質・材料研究機構(研究当時)の清水 康雄博士、エア・ウォーター株式会社の川村 啓介博士らの研究グループは、ダイヤモンドに接合された窒化ガリウムを熱加工し、トランジスタの作製に成功するとともに放熱性の向上を実証した。
窒化ガリウムを利用したトランジスタは、シリコンに代わる次世代半導体として、携帯電話の基地局などで幅広く使用されているものの、動作時の発熱により性能が大きく制限されており、大型の放熱部材も必要とされていた。
梁准教授らの研究グループは、2021年9月に世界で初めてGaNとダイヤモンドの直接接合に成功し、1,000 ℃の熱処理にも耐えることを実証した。今回の研究では、ダイヤモンドとの直接接合に成功した窒化ガリウムに約800℃の熱処理を行うことで、放熱性に優れたトランジスタの作製に成功した。地球上で最も熱伝導率が高く、最も効率的に熱を逃すことができるダイヤモンドを使用しているため、シリコン上でのトランジスタと比べて放熱性が向上していること(図1)、また、窒化ガリウム層の品質が劣化しないことも明らかとなった。
本研究成果により、接合後にトランジスタを作製することでダイヤモンド上窒化ガリウムの大面積化が進展し、レーダーやインバータ※3などの大電力用途にも使用範囲が拡大することが期待される。本研究成果は2022年3月8日(火)に国際学術誌「Applied Physics Express」誌にオンライン掲載された。
梁 剣波 准教授のコメント
「半導体素子の小型化、高集積化、高性能化に伴い、動作時の温度上昇による出力の低下及び素子寿命の低減が大きな課題となっています。本研究の成果が早期に実用化され、窒化ガリウム素子・集積回路の放熱性向上、SDGs達成につながることを期待します」
研究の背景
トランジスタ動作時の発熱・温度上昇による性能の劣化と素子寿命の短縮は、実用上大きな問題となる。中でも窒化ガリウム(GaN)トランジスタは、現在主流であるシリコン(Si)トランジスタ以上の高出力・高周波で動作するため、効率的な放熱手法の開発が不可欠となる。解決法の一つとして、ダイヤモンドを放熱材料に用いた「GaN-on-diamond」構造の実現を目指す取り組みが既にさまざまな機関で行われており、接合技術を用いた研究開発も進んでいる。しかしながら、これらの取り組みではトランジスタ作製後にダイヤモンドと接合する(デバイスファースト)ため、大面積化は困難とされていた。
大阪市立大学ではかねてから異種材料接合による革新的な半導体実現の研究を進めており、2021年9月には、窒化ガリウムとダイヤモンドの直接接合に成功するとともに、1000 ℃までの熱処理で接合が維持されることを確認した。しかしながら、ダイヤモンドに接合された窒化ガリウム層からのトランジスタの作製、放熱性の改善効果の実証には至っていなかった。
研究の内容
Si基板上に堆積した窒化ガリウム層(厚さ8 μm)/炭化ケイ素(3C-SiC)バッファ層(厚さ1 μm)をSi基板から分離し、表面活性化接合法※4によりダイヤモンドと接合した(図2(a)及び(b))。接合後に800 ℃での熱処理を含む工程を経て、窒化ガリウムトランジスタを作製した(ボンディングファースト)(図2(c))。高品質な炭化ケイ素層を用いることで、図2(d)の断面SEM※5像に示すようにトランジスタ作製を経ても膜剥れの起こらない良好な接合を実現した。
ダイヤモンドとの接合によって窒化ガリウム層の電気的な性質(二次元電子移動度、二次元電子濃度)が劣化しないことを確かめるため、Si基板上に作製された同一形状の窒化ガリウムトランジスタとの特性を比べた。結果、同じ電力を投入した時の温度上昇がダイヤモンドとの接合により約1/3まで小さくなること(放熱特性が向上すること)、それによりトランジスタ特性が改善することを実証した。
期待される効果・今後の展開
接合後にトランジスタを作製することでダイヤモンド上窒化ガリウムの大面積化が可能となる。窒化ガリウムトランジスタ、集積回路の放熱特性の改善が進み、レーダーやインバータなどの高出力、大電力用途にも使用範囲が拡大することが期待される。
資金情報
本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)トライアウトタイプによる助成を受けて行われた。SEM観察用試料作製と観察は東北大学金属材料研究所との共同利用研究(202012-IRKMA-0046)により実施された。
<用語解説>
- ※1 窒化ガリウム…シリコンに比べ、高い周波数で大電力を扱うことが可能。2014年にノーベル物理学賞を受賞してからLED照明や携帯電話の基地局などで広く活用されている。
- ※2トランジスタ…電子の流れをコントロールするもので、信号の増幅やスイッチングが可能な半導体素子。
- ※3 インバータ…直流電力を交流電力に変換するパワーエレクトロニクス回路。電車、エアコンなどで広く使用されている。
- ※4 表面活性化接合法…真空中で試料表面にアルゴン原子ビームを照射し(表面活性化)、そのまま試料同士を密着させて荷重をかけることで接合する方法。
- ※5 SEM…走査型電子顕微鏡。試料の構造を1マイクロメータ(1 μm=10-6 m)オーダーで評価する手法。
掲載誌情報
【発表雑誌】Applied Physics Express(IF=2.895)
【論文名】AlGaN/GaN/3C-SiC on diamond HEMTs with thick nitride layers prepared by bonding-first process
【著者】Ryo Kagawa, Keisuke Kawamura, Yoshiki Sakaida, Sumito Ouchi, Hiroki Uratani,
Yasuo Shimizu, Yutaka Ohno, Yasuyoshi Nagai, Jianbo Liang, and Naoteru Shigekawa
【論文URL】https://iopscience.iop.org/article/10.35848/1882-0786/ac5ba7