大陽日酸、世界で初めてガラス溶解炉燃料のアンモニア利用実証試験に成功
2026 年度以降の本格導入を目指す
大陽日酸は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「工業炉における燃料アンモニアの燃焼技術開発」(以下、本事業)において、6月 18 日から 19 日にかけて、世界初となる、ガラス溶解炉に燃料としてアンモニアを利用した実証試験を行った。
今回、AGC 株式会社(以下、AGC)の AGC 横浜テクニカルセンターで、建築用ガラス製造炉にアンモニア・酸素燃焼(※1)バーナ1対を導入し、アンモニア燃焼技術の実機試験を実施。ガラス品質や炉材への影響を評価するとともに、火炎温度(※2)、炉内温度(※3)、NOx 抑制効果等を検証した。今回の試験では、ガラス溶解炉の温度を維持しつつ、排ガスに含まれる NOx 濃度が環境基準値を下回る結果が得られたとしている。
2023 年度において、今後複数回にわたってさまざまな条件下でのアンモニア燃料実機試験による技術検証を行う予定で、2024 年度以降、スケールアップしたバーナ試験と AGC の他拠点のガラス溶解炉での実証試験を行うことで、アンモニア燃焼技術活用の範囲を見極め、2026年度以降にガラス溶解炉への本格導入を目指す。
本事業の背景
日本が掲げる「2050 年カーボンニュートラル」の実現に向けた課題の1つが、素材産業の製造工程における CO2排出量削減になる。現在ガラス製造の原料溶解工程では、炉内温度を 1,600℃以上に保つために天然ガスや重油などの化石燃料を使用していることから、環境負荷が低い燃料を使った革新的なガラス溶解技術の開発が急務となっている。
このような背景の下、NEDOは 2021年度から本事業(※4)で工業炉における燃料アンモニアの燃焼技術の開発に取り組んでいる。本事業は、2021 年 12 月末から 2026 年3月を事業期間とし、AGC、大陽日酸と国立研究開発法人産業技術総合研究所、国立大学法人東北大学が共同で技術開発に取り組んでいる。
今回の成果
アンモニアは、燃焼時に窒素と水のみが生成されることから、CO2を排出しない燃料となる。また、アンモニアは化学肥料用途を中心としたサプライチェーンが既に構築されており、貯蔵や輸送に関して大きな技術的開発課題はない。一方、アンモニア燃焼利用における課題として、火炎温度が低いこと、酸素過剰で燃焼すると NOx 排出が増加することが挙げられる。
これらの課題を解決するために主に東北大学と産業技術総合研究所では、アンモニア酸素燃焼のNOx 生成特性の解明をラボ試験や各種評価を通して進め、低 NOx 燃焼技術の開発を行い、大陽日酸では低NOx燃焼技術を実現できるアンモニア-酸素バーナを開発した。
今回は、AGC 横浜テクニカルセンター(神奈川県横浜市)の建築用ガラス製造炉に、アンモニア-酸素燃焼専用バーナを導入し、燃料としてアンモニアを利用した世界初の実証試験を 2023年6月 18、19 日の2日間実施した。さまざまな条件において従来の燃焼方法と比較し、ガラス品質や炉材への影響、火炎温度、炉内温度、NOx 排出量の抑制効果等を検証した。
今後の予定
2023 年度においては、引き続き実生産炉である、AGC 横浜テクニカルセンターの建築用ガラスを製造するガラス溶解炉を使い、さまざまな条件下でアンモニアを燃料とした技術検証を行う予定。2024 年度以降、スケールアップしたバーナ試験や AGC の他拠点のガラス溶解炉での実証試験を計画しており、アンモニア燃焼技術活用の範囲を見極めたうえで、2026 年以降の本格導入を目指す。将来的には、ガラスのみならず、鉄鋼やアルミなど、他の素材への展開も検討し、広く素材産業の製造工程における温室効果ガス排出量削減に貢献する。
※1 酸素燃焼:支燃性ガスとして、酸素あるいは酸素濃度を高めたガスを用いた燃焼のこと。
※2 火炎温度:炉に設置したバーナ先端で燃焼している炎の温度のこと。
※3 炉内温度:炉の内部にある気体や内壁表面の温度のこと。
※4 本事業:事業名:燃料アンモニア利用・生産技術開発、事業期間:2021 年度~2025 年度(5 年間)。事業概要:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100204.html