山形酸素がさくらんぼの品質保持で「特定ガス組成」の独自技術を確立
保管期間の延長や海外需要家への販路を拡大
山形県内陸部を中心にLPガス・産業用ガス・医療用ガスの販売行う山形酸素株式会社(本社:山形県山形市、島津康 代表取締役社長)は、独自技術の「特定ガス組成」を用いることでさくらんぼのカビの発生を抑制し、食味を含む品質の変化が少なくなることを検証で確認したと発表した。
同社は、2023年度より山形県バイオクラスター形成促進事業を通じ、慶應義塾大学先端生命科学研究所と山形県工業技術センター庄内試験場との産学官連携による共同研究を行い、山形県産さくらんぼの長期保存技術の確立に向けた研究を実施していた。この研究は、山形県の主要な果実で、全国の75%※1を生産するさくらんぼの長期保存や海外展開を可能にする技術開発として期待されており、現在は品質保持期間を通常より長期となる最大56日間(8週間)に延長するための確認検証を進めている。
食品業界では近年、フードロスの低減といったSDGs(持続可能な開発目標)の観点から、食品の品質保持や賞味期限の延長のために様々な取り組みが行われており、⾷材や⽤途に応じた最適なガスを食品パッケージ内に封入することで、品質保持期間を伸ばすガス置換包装(MAP)が注目されている。
山形酸素は、2024年6月にジェトロ山形の海外輸出支援により、佐竹物産株式会社(山形県山形市)の協力を得て、英国(イギリス)ロンドン市内の輸入業者へ空輸した「やまがた紅王」のパッケージに「特定ガス組成」を封入し、山形酸素の社員が現地を訪問して関係者と食味試験を実施した。現地の食味試験では「外観、味、香り、食感」ともに高い評価を得ることができ、遠方輸送にも効果があることを確認している。
山形県全体のさくらんぼ総生産数量1万トン超に対し、近年の輸出量および輸出額は増加傾向にあるが、海外輸出量はわずか数トン程度※2に留まっているのが現状。さくらんぼは、採れたてのおいしさを味わえる期間が短く、流通エリアには限界がある。近年は気候変動や天候不順等により、収穫時期が早期化・短期化していることに加え、さくらんぼ作業の人手不足への対応策も求められている。また、物流業界の「2024年問題」など、青果物輸送を取り巻く環境は多くの困難を極める。
今後、さくらんぼの輸送に山形酸素の「特定ガス組成」を活用することで、品質保持期間の延長が可能となり、流通エリアの拡大が実現できる。さらに収穫後のさくらんぼの一次保管期間を設けることで、収穫から出荷までの期間を延長し、生産者の作業効率化や計画的な流通が可能となる。また、物流・運送の課題に対しては、空輸・陸輸など長期間の大量輸送に対応する特殊コンテナの開発や、海外高級デパート向け商品の輸送方法の確立など、多種多様なサプライチェーンにおいても「特定ガス組成」を活用し、山形県産さくらんぼを日本国内の遠方から海外諸国まで広く展開できるビジネスモデルの構築を目指す。
山形酸素では、さくらんぼにとどまらず、食品や産品においても、ガスによる品質保持期間の延長について熟成制御などの実用化・事業化を視野に入れて研究開発を進めるとしており、「日本の優れたものを幅広く楽しんでいただくための技術開発(エネルギーによる新たな価値創造)を目指し続け、地域の皆様とともに課題解決に取り組んでまいります」としている。
※1 農林水産省 令和5年産びわ、おうとう、うめの結果樹面積、収穫量及び出荷量 統計資料より
※2 山形県農林水産部 令和4年度県産農産物の輸出実績について 調査結果より