岩谷産業が「室温で動作する画期的なオゾン濃縮技術」を確立
低温での温度スイングを使わずオゾンガスを80%以上の濃度に濃縮、濃度80%オゾンガスを500cc/分で連続発生
岩谷産業は、特殊吸着剤を用い室温で圧力スイング技術を駆使し、高効率にオゾンガスを濃縮、この濃縮オゾンガスを流量制御しながら、安定かつ安全に供給する技術を確立した。
これまでに岩谷産業では、-80℃程度の冷却を必要とするオゾン濃縮技術を確立し、商品化してきたが、新開発技術は、冷却状態での複雑な温度制御を必要とせず、常温で動作する画期的なもので、ハード・ソフトとも簡素化でき操作性も大幅に向上した。
高濃度オゾンガスは、半導体の酸化膜形成などいろいろな酸化プロセスに活用できる機能性ガスとして近年期待されている。今後、2009年3月までに装置化を急ぎ、次世代半導体デバイスの量産ラインなどへの適用を図る。
■当技術の特長
岩谷産業では、長年にわたるオゾン物性研究を積み重ねた結果、低温操作を不要とし、室温で動作する画期的なオゾン濃縮技術を開発した。
具体的には、オゾナイザーから発生させた低濃度オゾンガス(酸素との混合ガス)を、オゾンとの親和性の強い特殊吸着剤を装填した吸着カラムに通し、加圧して吸着操作を行った後、減圧排気して脱着させることで高濃度オゾンガスを得る。この吸着カラムを複数設け、工程をずらしながら運転させることで連続的に高濃度オゾンガスを取り出すことができる。特長は次の通り。
①非冷却状態でのVPSA操作(真空-圧力スイング法)のみで動作するため、冷却の必要がない。
②装置構成や運転プログラムが簡素化し、装置の大きさや装置コストも低減が図れる。
③これまで冷却のために長く要した立ち上げ時間が大幅に短縮される(従来比1/8~1/12)。
④80vol%濃度の連続オゾンガス発生流量は最大500cc/分となり(岩谷産業の従来技術は100cc/分)、工業的な用途が拡がる。
⑤オゾンガスの濃縮率を自由に選ぶことができるため、発生流量に応じて15~100vol%のオゾンガスを簡便に得ることができる。
⑥別途岩谷産業が開発したオゾンの自己分解反応を抑制させるオゾンパッシベーション技術(オゾンによる不活性な不働態化皮膜の形成に関する金属表面処理技術)を取り入れ、不安定な濃縮オゾンガスの安定化を図っている。
■期待される応用分野
この技術をベースに、高濃度オゾンガスの安定供給に対する信頼性の乏しさからこれまで研究されながら実用域に達していなかった、半導体デバイス製造プロセスへの高濃度オゾンガス使用に向けて弾みをつける。具体的には、CVD(化学的気相蒸着)やALD(原子層状蒸着)によるシリコン酸化膜や、アルミ酸化膜、ハフニウム酸化膜などの高誘電体膜(High-κ)の形成への応用が期待できる。また、高濃度オゾンガスによる半導体ウエハー上のレジスト剥離や洗浄、更には高濃度オゾン水の製造にも有効。
■現状のオゾン利用の問題点
オゾンはフッ素に次ぐ強い酸化力を持ち、すでに殺菌、脱臭、脱色などに利用されているが、その濃度は10vol%以下の低濃度に限られてきた。高濃度オゾンガスが今日まで実用化されてこなかった最大の理由は、簡便で信頼性の高いオゾン濃縮製造方法が確立されていないことに加え、高濃度オゾンガスが極めて不安定な物質で、オゾンガス濃度が15%を超えると酸素への分解が爆発的に進行する危険性を有しており、その抑制技術への対応が遅れていたことにある。
■開発の背景
高濃度オゾンガスの製造(オゾン濃縮技術)は、すでに広く普及している放電式オゾナイザーにより発生させた低濃度オゾンガスから酸素成分を排除し、オゾンガスを濃縮するもの。このオゾン濃縮方式には大別して次の2つの方式がある。
(1)オゾンガスを選択的に液化・貯蔵した後、気化させる方式
(2)低濃度オゾンガスを所定の吸着剤に吸着後、酸素を選択的に脱離、「オゾン濃縮」させ、オゾンガスのみを発生させる方式
(1)の液化方式は、-150℃程度の超低温に保ちながら、精密な蒸気圧コントロールにより高純度オゾンガスを導き出すが、蒸気圧を上げることで危険性が高まるとともに流量コントロールが困難といったデメリットがある。
岩谷産業では、この2つのオゾン濃縮方式について安全性、信頼性などを指標に比較検討し、(2)の「吸着濃縮法」の開発を選択、研究開発を行ってきた。これまでに、低温でオゾンガスを選択的に吸着する特殊吸着剤の採用により、80vol%以上の高濃度オゾンガスを最大100cc/分で連続発生する技術を開発し、装置に仕上げ商品化してきた。
しかしながら、この技術は吸着量を大きくするために、-80℃という低温下での精密な温度制御と圧力制御が必要だった。このため、装置構成が複雑で立ち上げ時間が長くかかるといったデメリットが指摘されていた。
このような課題に対し、吸着プロセスを高圧化するなど条件を見直すことで、吸着剤の室温でのオゾンガス吸着量を上げて、これをロスなく真空吸引(減圧排気)して高濃度オゾンガスを得るのが本開発技術となる。
[参考]
従来の岩谷産業の高濃度オゾン発生装置の仕様
AP-800 |
AP-8000 |
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発生オゾン濃度 |
80 vol%以上(任意濃度に希釈可能) |
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発生オゾン圧力 |
13.3 kPa以下 |
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発生オゾン流量 |
最大500sccm(濃度80vol%) |
最大150sccm(濃度80vol%) |
オゾン発生時間 |
オゾン製造と製造したオゾンの発生を 交互に繰り返すバッチ方式のため オゾンは間欠発生供給となる。 たとえば、100sccmの場合、1バッチあたり 連続360分のオゾン供給が可能 |
24時間連続発生供給可能 |
装置寸法 |
950(W)×1000(D)×1920(H) |
850(W)×1600(D)×1920(H) |