火炎をスイングする酸素バーナ 「Innova-Jet ® F.H.」開発
大陽日酸は、流体の自励振動現象を応用して火炎をスイングさせる事で、少ないバーナ本数で、広い範囲を効率良く均一加熱できる酸素バーナ「Innova-Jet® F.H.」を開発し、ガラス製造プロセスのフォアハースにおける大幅な省エネルギーを達成した。
瓶ガラス・ガラス繊維の製造プロセスで、溶融ガラスの温度調整を行うフォアハース(以下 FH)は、ガラス溶解炉で溶融されたガラスを、瓶や繊維に成型する成型機に分配する役割を持っており、長いトンネル状の形状を有する。ガラス溶解プロセス全体のエネルギーのうち、約 10%を消費しているにもかかわらず、ガラス溶解炉のような排熱回収が行われていないため、熱効率の低いプロセスとなっている。
構造は、ガラス溶解炉と同様に耐火物で形成され、バーナによって内部の溶融ガラスを加熱、ガラス溶解炉と比較して燃焼空間が狭いため、燃焼量の小さな小型バーナを炉壁に多数設置することで、溶融ガラスの温度の均一化を図る。そのため、燃焼方式を従来の空気燃焼から酸素燃焼に切り替えることで、大幅な燃料削減効果が期待できる。
しかし、通常の酸素バーナでは、空気バーナと比較して燃焼排ガスが少なく火炎温度が高いため、バーナ近傍の温度が局所的に高くなる傾向があり、また、狭い燃焼空間で燃焼させる際に炉壁の損傷を抑えるために、短い火炎のバーナを設置する必要があった。
大陽日酸は自励振動現象を応用し、これらの課題を解決するFH 向けの酸素バーナ「Innova-Jet® F.H.」を開発した。自励振動現象とは、ノズルから噴出する流体の流れが近傍の壁面に沿って流れる「コアンダ効果」と呼ばれる流体現象を応用した技術。この現象をバーナに応用することで火炎の向きを周期的に変化させることができ、火炎により加熱できる領域を拡大することが可能となる。また、本バーナでは機械的な駆動部を必要としないため、シンプルなバーナ構造をとることができメンテナンス性にも優れる。
大陽日酸は、この自励振動現象を利用した酸素富化バーナ「Innova-Jet® Swing」を商品化し、既に製鋼プロセスのタンディッシュ予熱用途で多数の導入実績がある。
「Innova-Jet® F.H.」は、「Innova-Jet® Swing」の実績で得られた、様々なノウハウを組み入れるとともに、FH 予熱に適用させるためFH を模擬した試験炉を用いて、性能に関する検証試験をおこない、さらに次の開発を行った。
1.複数本のバーナレイアウトが必要な FH 用途に向けてバーナを小型化
2.火炎のスイング周期を最適化する事で、バーナの燃焼量を調整した場合の火炎長変化を最小限に抑制
試験炉の底面温度分布を測定した結果、従来の空気バーナの半分以下にバーナ本数を削減した場合でも、同様の均一な温度分布が得られることを確認できた。また、試験炉における熱効率を評価した結果、空気燃焼と比較して65%の燃料削減効果を確認している。
大陽日酸ではこれまでに、ガラスの溶解工程向けに全酸素燃焼や酸素バーナブースティング等の技術提案を行い、生産性向上や省エネを実現してきた。「Innova-Jet® F.H.」は、これまで省エネに対する取り組みが十分に行われていなかった FH 向けのアプリケーションであり、燃料削減による操業改善が可能となるため、ガラス溶解プロセスにおける高効率な酸素燃焼技術としての展開が期待されている。