エア・ウォーター 2020年3月期連結決算(国際財務報告基準)
エア・ウォーターの2020年3月期連結決算は、売上収益8090億8300万円(前年同期比9.0%増)、営業利益506億1600万円(同18.3%増)、親会社の所有者に帰属する利益304億3000万円(同5.6%増)となった。年間配当金は4円増配の44円。当会計年度より国際財務報告基準(IFRS)適用している。
「革新=イノベーションの実行」を基本コンセプトに据えた、2019年度を初年度とする3カ年中期経営計画「NEXT2020-Final」の下、今後の持続的成長に向け、製品開発力の強化や人材育成といった経営基盤の強化とともに、各事業分野において諸種の実行施策を着実に推進した。
国内においては、産業ガス関連で生産・充填拠点を拡充したほか、事業の再構築を進めているケミカル関連では、M&Aによって事業領域を拡大し、収益力の向上を図った。また、海水関連におけるさらなる事業成長を見据え、海水カンパニーを新設したことに加え、木質バイオマス発電事業の拡大を着実に進めることで、国内における安定した事業基盤の拡充を図った。
海外においては、高い市場成長が期待できるインドでの産業ガス事業および高出力UPS(無停電電源装置)事業をM&Aによってそれぞれ取得し、今後の成長に向けた事業基盤の構築に取り組んだ。
当連結会計年度の業績は、冷夏などの天候不順や年度後半における製造業を中心とした顧客の需要停滞に加え、新型コロナウイルスの感染拡大による影響などによって総じて厳しい事業環境となったが、事業全般において製品価格の改定をはじめとした収益体質強化に向けた取り組みが着実に進展した。また、国内外でM&Aを実施したことによる新規連結効果に加え、山口県防府市における木質バイオマス発電事業の収益化が始まったことにより、順調に推移した。
セグメント別の概況
<産業ガス関連事業>
売上収益は1889億6500万円(前期比108.5%)、営業利益は192億4600万円(同115.1%)。
ガス事業では、鉄鋼向けオンサイトガス供給が主要顧客において新高炉が稼働したことにより増加基調にあったが、年度後半より粗鋼減産の影響を受け、販売数量が伸び悩み、前連結会計年度をわずかに下回った。エレクトロニクス向けガス供給は、データセンターや次世代通信規格(5G)関連の需要拡大などを背景に、主要顧客の工場稼働率が生産増強のための設備投資に伴って段階的に高まったことで販売数量が増加し、順調に推移した。ローリー・シリンダーによるガス供給は、高効率小型液化酸素・窒素製造プラント「VSU」の展開を基軸として、充填所の新設や地域の有力なガスディーラーとの連携強化を進め、シェアの拡大を図った。さらに物流費の高騰を背景としたガス価格の見直しにも取り組んだ。炭酸ガス・ドライアイスは、安定供給のための取り組みと価格改定が寄与し、順調に推移した。また、当連結会計年度においてM&Aによって取得したインドでの産業ガス事業は、現地での旺盛な粗鋼生産に支えられ堅調に推移した。
機器・工事事業は、エレクトロニクス向けガス供給の増加に伴い関連機器の販売が拡大したほか、前連結会計年度にM&Aを実施したニチネツホールディングス㈱の新規連結効果などにより順調に推移した。
<ケミカル関連事業>
売上収益は274億7900万円(前期比119.9%)、営業利益は13億3800万円(同245.0%)。
機能化学品事業は、中国の生産工場において江蘇省の工業園区全体を対象とした環境規制の影響による操業停止が継続したことに加え、米中貿易摩擦を背景とした設備投資の低迷により、産業用ロボット向け高機能回路製品の販売が減少した影響を受けた。一方で、ディスプレイ向けに新規用途が拡大したことなどで電子材料の拡販が進展したほか、生産の効率化や不採算製品の見直しによる収益改善により、事業全体では好調に推移した。また、当連結会計年度においてM&Aによって取得した精密研磨パッド・人工皮革の製造を行う㈱FILWELおよび酢酸ナトリウムの国内トップメーカーである大東化学㈱の新規連結効果が大きく寄与した。
なお、大東化学㈱のM&Aに伴い、負ののれん発生益(20億5100万円)を計上した。一方、操業再開の目途が立たない中国の生産工場については、M&Aによって取得した大東化学㈱の国内工場でその機能を代替することが可能になったことから、工場の閉鎖を決定し、関連した事業整理損(12億7700万円)を計上した。
川崎化成工業㈱は、主要製品であるナフトキノンの販売が顧客工場の操業停止により減少したことに加え、市況軟化を背景に無水フタル酸の販売価格が低下した影響を受け、前連結会計年度を下回った。
<医療関連事業>
売上収益は1879億1300万円(前期比107.9%)、営業利益は101億0900万円(同97.6%)。
設備事業は、手術室を中心とした病院設備工事において新規案件の減少が続くとともに、新型コロナウイルスの影響により工事の延期等が発生した影響を受け、厳しい状況となった。
医療サービス事業は、SPD(病院物品物流管理)の新規受託に加え、資材調達の合理化や料金の適正化が進展し、順調に推移した。
医療ガス事業は、医療用酸素の使用量が漸減傾向にある中で、新規顧客の開拓により前連結会計年度並みの販売数量を維持した。
医療機器事業は、新生児・小児用人工呼吸器の販売が増加したことに加え、一酸化窒素ガス(NO)吸入療法の症例数が増加し、順調に推移した。
在宅医療事業は、酸素濃縮装置のレンタルが伸び悩み、前連結会計年度を下回った。
衛生材料事業は、医療消耗品の生産受託事業や安全衛生防護具の販売が増加したことに加え、生産工場の合理化等が進展し、堅調に推移した。
また、デンタル事業は歯科技工のデジタル化に対応した義歯材料の販売が拡大、注射針事業も生産設備の新鋭化によりそれぞれ順調に推移したほか、前連結会計年度に実施したM&Aによる新規連結効果も寄与した。
なお、周術期分野における医療支援システムや歯髄再生事業に関連した研究開発とその拠点整備を進めたことで、先行費用が発生した。
<エネルギー関連事業>
売上収益は519億6900万円(前期比98.6%)、営業利益は42億5100万円(同109.6%)。
LPガス事業は、輸入価格に連動してLPガスの販売単価が下落したことにより売上面で影響を受けた。こうした中、民生用においては、販売店の商権買収やポイント付与サービスの加入促進などにより、顧客数が増加した。また、工業用においても自社運用のローリー車を追加配備するなどの取り組みにより西日本地区を中心に拡販が進んだ。これらの結果、販売数量とともに直売比率も増加し、利益面では堅調に推移した。また、灯油は暖冬の影響により、販売数量が減少した。機器・工事は家庭向けハイブリッド給湯暖房システムに加え、LPガス仕様移動電源車や非常用発電機の販売が増加し、堅調に推移した。
天然ガス関連事業は、LNGの販売数量が増加したことに加え、LNGタンクローリーの販売台数が増加し、順調に推移した。
<農業・食品関連事業>
売上収益は1372億9800万円(前期比100.6%)、営業利益は32億8200万円(同77.9%)。
農産・加工事業は、原材料費に加え、物流費や人件費が上昇するなど厳しい事業環境が継続した。こうした中でさらに、ハム・デリカおよびスイーツ分野において市場競争の激化による影響を受けたほか、新型コロナウイルスの影響により外食・ホテル・給食向けを中心に業務用冷凍・加工食品の需要が急減し、厳しい状況となった。また、野菜の栽培・加工・販売を行う農産・加工分野でも主力製品である北海道産の馬鈴薯や南瓜の豊作による相場安の影響を大きく受けた。
飲料事業は、需要期である夏期の低気温による影響と野菜系飲料の落ち込みに加え、物流費が上昇した影響を受け、前連結会計年度を大きく下回る結果となった。
その他の事業は、青果小売分野において、年度前半に野菜の相場安、また、新型コロナウイルスの影響により店舗の時短営業や休業が相次いだ影響を受けたが、既存店舗の収益改善が進展したことで利益面では前連結会計年度を上回った。また、農業機械分野においては、除草用農機等の販売が堅調に推移した。
なお、農産・加工事業では、前連結会計年度にM&Aを実施したブロッコリーの生産・販売を行うエクアドル・Ecofroz S.A.の新規連結効果があった。
<物流関連事業>
売上収益は504億1300万円(前期比105.1%)、営業利益は23億9600万円(同108.0%)。
運送事業は、北海道を中心に新規荷主の獲得が進展し、飼料や建築資材を中心に荷扱量が増加したが、年度後半以降、製造業の生産活動が鈍化したことで荷動きが停滞し、伸び悩んだ。こうした中、新たな配送管理システムの導入等による配送の効率化に加え、軽油価格の下落に伴うコスト改善も寄与し、堅調に推移した。
食品物流を中心とする3PL事業は、新設した低温物流センターにおける荷扱量の増加に加え、新規エリアにおけるコンビニエンスストア向け配送業務の受託開始が寄与したほか、人手不足に起因するコスト上昇の影響を受託料金の適正化や庫内作業の生産性向上によって補い、堅調に推移した。
トラック・ボディの設計・架装を行う車体事業は、更新需要が堅調だったことに加え、トレーラーの販売が増加したことにより順調に推移した。
<海水関連事業>
売上収益は399億8600万円(前期比99.4%)、営業利益は29億3500万円(同124.4%)。
塩事業は、特殊製法塩の拡販および生産の効率化が進展したことに加え、前連結会計年度から取り組んでいる業務用塩の価格改定が寄与し、堅調に推移した。環境事業は、排煙脱硫に利用される水酸化マグネシウムの販売が大幅に減少したことにより、厳しい状況で推移した。発電事業は、木質バイオマス発電の燃料構成において未利用材の割合を引き上げたことにより収益性が向上し、堅調に推移した。食品事業は、新工場の稼働により生産の効率化が進展するとともに、コンビニエンスストア向けに海苔製品の販売が拡大し、堅調に推移した。また、下水管更生事業が順調に推移した。
マグネシア事業は、耐火煉瓦向けをはじめとした一般窯業用マグネシアの販売が減少したが、海外における電磁鋼板用マグネシアの販売が拡大したことに加え、ヒーター用電融マグネシアの原料価格が低下したことにより収益改善が進展し、利益面では堅調に推移した。
<その他の事業>
売上収益は1250億5700万円(前期比133.5%)、営業利益は73億3800万円(同216.1%)。
エアゾール事業は、前連結会計年度において中国向けの需要が旺盛だった反動から、UVカットスプレーの製造受託が減少したことに加え、新工場の稼働により減価償却費等のコストが上昇した影響を受け、厳しい状況となった。
情報電子材料事業は、中国経済の減速による影響を受け、ワイヤーハーネスなど自動車関連向けの販売が減少したが、国内において半導体および化学工業向けに化学薬品などの販売が堅調に推移したほか、海外関連会社の持分利益が増加し、前連結会計年度並みとなった。
海外エンジニアリング事業では、産業ガス関連機器分野は、北米において低温液化ガス貯槽や炭酸ガス関連機器の販売が堅調だったことに加え、マレーシアの生産拠点を中心に生産の効率化や調達コストの低減に取り組んだ結果、堅調に推移した。また、高出力UPS(無停電電源装置)分野は、シンガポールにおけるデータセンター向けの需要が増加し、堅調に推移したほか、当連結会計年度にM&Aを実施した高出力UPSメーカーであるオランダ・Hitec Power Protection B.V.の新規連結効果があった。
その他の事業は、山口県防府市において昨年7月に稼働を開始した木質バイオマス・石炭混焼発電所の安定操業が継続し、電力事業が順調に推移した。また、2021年4月の稼働開始を目標に福島県いわき市で進めている木質バイオマス専焼発電所の建設計画も順調に進展した。
今後の見通し
新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中で様々な経済活動が停滞し、企業の生産や販売も急激に落ち込むなど、実体経済に大きな影響が及んでいる。グループを取り巻く事業環境としても、事業毎に程度の差はあるものの、ほぼ全ての事業分野において製品需要の減少や販売機会の喪失などによる影響を受け、厳しい事業環境となっている。
特に、産業ガス関連では鉄鋼や自動車関連産業における生産調整によってガス需要が減少する影響があるほか、医療関連では病院設備工事の実施延期等による影響、また、農業・食品関連では、外食や観光産業の停滞が長期化することによって、業務用の冷凍・加工食品の販売が大きく落ち込むことが懸念される。
こうした中、グループとしては、新型コロナウイルスによる業績への影響を最小化するため、事業全般にわたるコスト削減に取り組むとともに、引き続き、グループ全従業員の安全に最大限配慮しつつ、産業ガスや医療用ガスをはじめとした諸製品の安定供給責任を果たすため、徹底した感染拡大防止策や安全配慮策を講じる。
また、経済活動の停滞が長期化した局面に備えて十分な財務の安定性を維持するため、今後のM&A投資および設備投資については、事業環境の変化を慎重に見極めながら厳選する。
次期の業績予想
2020年3月期の連結業績予想は、売上収益8100億円(前期比0.1%増)、営業利益460億円(同9.1%減)、税引前利益450億円(同9.7%減)、親会社の所有者に帰属する当期利益270億円(同11.3%減)を見込む。年間配当予想は44円を維持した。
なお、新型コロナウイルス感染症の収束時期を合理的に見通すことができないことから、通期のみを公表した。予想は、現時点までに把握している情報に基づき、合理的であると判断した一定の前提に基づいた見通し。特に、次期の事業環境については、第1四半期は新型コロナウイルスの影響によって企業の生産や設備投資をはじめとした国内外の経済活動が大幅に制約を受けるもの
の、第2四半期以降は経済活動の自粛が緩和され、年度末までの期間をかけて緩やかなペースで正常化に向かい、2021年度開始時点ではほぼ正常化している、との仮定を前提として、業績予想を行った。
今後、感染拡大の収束時期や経済活動の回復に要する期間等の様々な要因によって、業績は大きく変動する可能性がある。業績予想の修正の必要性が生じた場合には、速やかに開示する。