アエラスバイオが「歯髄幹細胞を用いた再生医療」を世界で初めて実用化

不用歯から採取した歯の神経を培養し、治療を要する歯に移植する歯髄再生治療を開始

 エア・ウォーターのグループ会社で、歯髄関連事業を企画・推進するアエラスバイオ株式会社(代表取締役 菊地耕三。以下、アエラスバイオ社)は、同社と連携する「RD(アールディー)歯科クリニック」の再生医療等提供計画が厚生労働省にて受理されたことに伴い、6月26日より歯髄幹細胞を用いた再生医療を開始する。

 歯髄再生治療は、自らの不用歯から歯髄を採取し、その中に含まれる歯髄幹細胞を培養増殖し、虫歯(不可逆性歯髄炎など)で神経を喪失した歯に移植することにより歯髄を再生する治療で、この実用化は、世界で初めての取り組みとなる。
 今秋には、歯髄幹細胞を培養後に管理が徹底した保管施設で液体窒素に入れて長期間冷凍保存する「歯髄幹細胞バンク事業」も立ち上げ、不用歯を“未来を守る備え”として保管する。

 エア・ウォーターの医療関連事業においては、医療用ガスや病院設備工事などの「高度医療分野」の事業基盤を強化する一方、高齢社会の進展に伴って、今後の市場成長が期待できる歯科関連や衛生材料などの「くらしの医療分野」への事業領域の拡大にも注力している。
 2011 年に歯科関連事業に本格参入後、2018 年にはアエラスバイオ社を設立して歯髄幹細胞を用いた歯髄再生治療の事業化に着手。歯髄再生研究の第一人者である中島美砂子氏(元 国立長寿医療研究センター研究所 幹細胞再生医療研究部長)を迎え、2019 年 5 月より「エア・ウォーター国際くらしの医療館・神戸」内において、歯髄幹細胞の培養・加工・保存を受託するための設備を設置するとともに、歯髄再生技術の確立を目指し研究・開発に取り組み、安全性や有効性の検証を進めてきた。

 今回、特定認定再生医療等委員会※において、再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく歯髄再生治療の計画が承認され、厚生労働省にて受理された。これにより、アエラスバイオ社と連携する「RD歯科クリニック」において、不用歯の採取と歯髄再生治療が実施できるようになったことで、アエラスバイオ社の加工設備等とともに一連の治療システムの構築が完了し、歯髄再生治療を提供することができるようになった。この治療法は、失った神経や血管が再生し健康な歯を取り戻せることから健康寿命の延伸に貢献するとともに、歯髄幹細胞培養の技術を核に神経や血管、臓器など、さまざまな再生医療に広がる可能性も秘めている。

※特定認定再生医療等委員会は、一定の手続きにより厚生労働大臣の認定を受けた再生医療等の技術や法律の専門家等の有識者からなる合議制の委員会で、医療提供計画や安全性に関して意見や審査を行う機関。

歯髄幹細胞を用いた再生医療

 体内組織には、骨の中の骨髄をはじめ、多種類の細胞に成長(分化)する基となる「幹細胞」と呼ばれる組織が存在し、その幹細胞を移植する再生医療が注目されている。歯の中の神経組織(歯髄)の中には、「歯髄幹細胞」と呼ばれる幹細胞が存在しており、親知らずなどの不用歯や乳歯から採取することができる。歯髄幹細胞を用いた再生医療とは、虫歯などにより、抜髄治療を行った歯の根管部を完全に除菌したのち、自己の不用歯から採取した歯髄幹細胞を培養加工し、その細胞を根管部へ移植し、歯髄を再生する再生医療技術の一つ。

 クリニックの院長である中島氏は、社会の高齢化が進展する中で、歯の健康を維持して自分の歯で食べることにより健康長寿を維持することに着目し、歯髄幹細胞を用いた歯髄再生治療技術の開発に長年取り組んできた。その結果、歯髄幹細胞の中から有効な細胞を見出し、この細胞の再生効果を高める薬剤との組み合わせを開発(特許技術)。この技術を利用し、臨床研究を経て世界初の歯髄再生治療を開始するに至った。

 不可逆性歯髄炎などのひどい虫歯に対しては、一般的には痛んだ歯髄を除去して詰め物をする抜髄治療を実施し、その後さらに悪化した場合は抜歯治療を行う。抜髄すると、歯が折れる可能性が高まるほか、細菌に対する防御反応や歯髄組織の一部を修復する機能を喪失する。また、詰め物で歯の中の穴を塞いだ後も、根の下に膿が溜まり、虫歯が進行しても痛みに気づかずにそのまま放置される可能性が生じる。

 抜髄治療は、国内では年間600 万症例ほどが行われているが、「歯髄再生治療」はそれに代わる新しい治療法となる。痛んだ歯髄に代わり、不用歯から採取した歯髄幹細胞を培養し移植することで歯髄を再生し、「健康な歯」を取り戻すことができる。また、入れ歯(義歯)やインプラント(人工歯根)と異なり、歯の神経の感覚を持った「自分の歯」が再生することから、高齢になってもできるだけ長く自分の歯で噛む感覚を失わないことに繋がり、QOL(生活の質)の向上に貢献する。さらに、歯髄の中に含まれる歯髄幹細胞は血管や神経組織を誘導する能力が高いといわれていることから、今後は、脳梗塞や脊髄損傷、血管障害などの疾患にかかる再生医療にも活用されることが期待される。

歯髄幹細胞を用いた再生医療
※歯の表面であるエナメル質は再生されない。 (アエラスバイオ社Webサイトより抜粋)
歯髄再生治療の流れ
  1. RD 歯科クリニックにて、親知らずなどの不用歯を抜歯。
  2. 不用歯をアエラスバイオ社の歯髄培養センター(RD 歯科クリニックと同一建物内)へ輸送して歯から歯髄を取り出し、その中に含まれる歯髄幹細胞を培養増殖。
  3. RD 歯科クリニックにて、その歯髄幹細胞を薬剤と組み合わせ、抜髄した歯に移植。
  4. 歯髄幹細胞が分泌する物質のはたらきにより、歯の周囲組織にある幹細胞が歯の内部に集まり、血管や神経が伸びてきて、1か月ほどで歯髄が再生され、歯の感覚が戻る。
  5. 6か月~1年ほどで歯髄の周辺組織(象牙質)も再生され、最終的に冠や詰め物を入れて歯の上部を修復し、自分の歯で噛めるようになる。
治療にかかる費用・期間

 一回の治療にかかる費用は抜歯費用、移植費、検査費等を含めて500,000 円~700,000 円程度(治療の状況によって別途費用が発生する場合がある)。不用歯の抜歯後、約1か月かけて幹細胞の培養増殖を行った後、移植を行う。抜歯治療を受けた日から定期的に検診を行い、約1年後に治療終了。

今後の展開

 RD 歯科クリニックでの歯髄再生治療の開始にともない、アエラスバイオ社は、エア・ウォーターの関連会社で歯科医院向けに通信販売事業を行う株式会社歯愛メディカルの顧客ネットワークなどを活用して国内の歯科クリニックを中心に歯髄再生治療の普及を進める。あわせて、歯髄再生治療の実施を希望する歯科医師に向けた講習会や技術支援を行う予定。

 また、現時点では、自分の不用歯から採取した幹細胞による歯髄再生治療となるが、次の段階として、乳歯や2 親等以内の親族の歯から採取した幹細胞による治療の実現を目指す。

 本事業は、歯髄幹細胞バンクなど関連事業も含めて3 年後の2023 年度において年間売上高10 億円規模を目指す。また、歯科関連の再生医療から医科分野(脳梗塞治療等)への適用拡大も視野に入れ、引き続き研究・開発に取り組む。

RD 歯科クリニック概要
  • 医院名 :「RD 歯科クリニック」 ※RD はRegenerative Dentistry の略。
  • 所在地 :兵庫県神戸市中央区港島南町1丁目3番地1(エア・ウォーター国際くらしの医療館・神戸4 階)
  • 院長 :中島 美砂子
  • 診療時間:午前9:30~12:00、午後13:00~17:00
  • 休診日 :月曜、土曜、日曜、祝日
RD 歯科クリニック
アエラスバイオ社概要
  • 会社名 :アエラスバイオ株式会社 (英語表記:Aeras Bio Inc.)
  • 所在地 :兵庫県神戸市中央区港島南町1丁目3番地1
  • 代表者 :代表取締役 菊地 耕三
  • 事業内容:歯髄幹細胞加工製品(培養・保管・輸送等)事業、口腔ケア商品の開発・販売
  • 資本金 :14 百万円
  • 株主 :エア・ウォーター 70%、歯愛メディカル 30%
  • 設立日 :2018 年8 月1 日
  • 従業員数:18 名
歯髄幹細胞培養加工施設(左)と国際くらしの医療館・神戸(右)
歯髄幹細胞培養加工施設(左)と国際くらしの医療館・神戸(右)