エア・ウォーター、小型で低濃度のCO2高効率回収・ドライアイス製造装置「ReCO2 STATION」を開発

日本海水の木質バイオマス発電燃焼排ガスから国内初の「カーボンニュートラル」なドライアイス製造

 エア・ウォーターは、ボイラや工業炉等の燃焼排ガスを想定した低濃度のCO2(燃焼排ガスのCO2濃度が10%程度)を高効率に回収できる装置「ReCO2 STATION」を開発した。また、2022 年 4 月より、グループの㈱日本海水 赤穂工場に本装置を設置、同社のバイオマス発電所の燃焼排ガスからCO2を99%程度の純度で回収し、それを原料にドライアイスを製造、顧客に提供する事業実証を行った。木質バイオマス発電の燃焼排ガスに含まれるCO2は、カーボンニュートラル※1な特性を有しているため、化石燃料由来ではないドライアイスの製造は国内初の取り組みとなる。

「ReCO2 STATION」
「ReCO2 STATION」

※1:植物は、燃やすとCO2を排出するが、成長過程では光合成により大気中のCO2を吸収するため、大気中のCO2の増減には影響しない(排出と吸収によりCO2のプラスマイナスはゼロ)。そのような炭素循環の考え方のことをカーボンニュートラルという。

開発の背景と狙い

 政府が発表した「2050 年カーボンニュートラル宣言」を受け、脱炭素社会実現に向けた取り組みが社会的に進む中、エア・ウォーターは、2021 年4 月に社内の技術開発部門である「グループテクノロジーセンター」内に「CO2回収事業化プロジェクト」を立ち上げた。中小規模の一般的な工場から排出される低濃度のCO2排ガスから低コスト・低エネルギーでCO2を分離回収する技術は世界的にも未確立であるため、長年培ってきたガス製造・エンジニアリング技術や炭酸ガス・ドライアイスメーカーとしての知見を活かし、CO2 を回収し、有効利用(CCUS※2)するための技術開発に注力している。

 今回、エア・ウォーターは、独自の吸着分離技術を用いたCO2回収装置「ReCO2 STATION」を開発した。本装置は、ボイラや工業炉等の燃焼排ガスに適用した設計となっているため、CO2濃度10%程度の燃焼排ガスから CO2 を高効率に回収することが可能となる。今後、様々な CO2排出源に対応する分離回収技術が求められていく中、一般的な工場の燃焼排ガスにも適用が可能な装置としている。また、カーボンニュートラル社会の実現にあたっては、回収したCO2を再利用するカーボンリサイクルの観点も必要であることから、本装置ではドライアイス製造機能を内包し、回収したCO2を原料としてドライアイスを製造することができる。

 エア・ウォーターグループでは、今後、カーボンニュートラルの実現に向けて取り組みを進めている顧客に対してCO2排出量の削減につながるアプリケーションとして本装置の導入を積極的に提案するほか、複数の顧客に設置した本装置を、炭酸ガス・ドライアイスの供給源として活用することも検討する。特に、敷地内でドライアイス等の炭酸ガスを利用している顧客にとっては、CO2 の回収から利用までが自社の敷地内でワンストップに可能となるため、本装置の適用性が高いと考えられる。

 将来的には、CO2 回収技術と炭酸ガス供給ネットワークを活用した、産業ガスメーカーならではの価値提供を通じて、地産地消型のCO2回収・利用モデルの構築を目指す。

※2:CO2の回収・有効利用・貯留(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage の略)。火力発電所や工場などの排気ガスに含まれている CO2を分離・回収した後、貯留だけでなく、炭酸ガスやドライアイスのように直接利用する、もしくは化学品・燃料・コンクリート等の原料として間接的に再利用すること。

CO2回収装置「ReCO2 STATION」の概要

バイオマス発電所に設置した「ReCO2 STATION」装置外
バイオマス発電所に設置した装置外観
本装置で製造したドライアイス
  • 名称:「ReCO2STATION」 (ReCO2はCO2のRecycle、Reuse を意味する。商標登録済)
  • 寸法:40ft コンテナサイズ(L:12.2m、W:2.4m、H:2.8m)
  • 回収可能な燃焼排ガスのCO2濃度:10%程度
  • ドライアイス生産能力:100kg/日
  • 適用法規:高圧ガス第二種製造設備(届出のみ、有資格者不要)

技術的な特長

  • アミンを用いた化学吸収法ではなく、固体吸着剤を利用した物理吸着法を採用
  • 低濃度のCO2を高効率に分離・回収するため、エネルギーロスを極限まで低減する吸着プロセスを開発
  • 燃焼排ガスの受け入れからドライアイス製品までの一連の製造プロセスを簡素化し、小型化を実現
  • 各種排ガス中から回収したCO2をガス、液、ドライアイスといった任意の状態で取り出し可能

木質バイオマス発電由来のCO2を原料としたドライアイスの製造実証について

 2022 年4 月より、エア・ウォーターグループの㈱日本海水 赤穂工場(兵庫県赤穂市)にパイロット装置を設置し、同社の赤穂第1バイオマス発電所の燃焼排ガスを利用したCO2回収およびドライアイス製造の事業実証を行った。

木質バイオマス由来のCO2を原料としたCO2回収事業イメージ
木質バイオマス由来のCO2を原料としたCO2回収事業イメージ

 木質バイオマス発電所は、主に木質チップを燃焼させる。原料となる木質チップは、樹木として生育中に光合成で大気中の CO2 を吸収し固定化しているため、エネルギーとして燃焼した際に出る CO2 を相殺する「カーボンニュートラル」な特性を有する。そのため、木質バイオマス発電所において発生したCO2を原料とするドライアイスは、実質的にCO2を排出していない「カーボンニュートラル」なドライアイスといえる。

 本実証では、製造したドライアイスを近隣のユーザーへ提供し、洗浄用途での事業実証を行い、品質・性能に問題がないことを確認した。化石燃料由来ではないドライアイスの製造および利用は国内初の取り組みであり、本実証で製造したドライアイスは環境価値を高めた製品となる。

参考

◆炭酸ガス・ドライアイス供給について

 液化炭酸ガス・ドライアイスは、一般的に石油化学プラントや製油所などで、化石燃料の燃焼時に発生する高濃度のCO2を含んだ副生ガス(CO2濃度:90%以上)を原料として製造されている。

◆㈱日本海水 赤穂木質バイオマス発電所について

 ㈱日本海水は、塩業界のリーディングカンパニーとして、家庭用から業務用まで年間40万トンを生産する。同社は、製塩工程において電力を使用するため、発電設備を自己保有しており、同社赤穂工場では2015年に第1木質バイオマス発電所、2021年には第2木質バイオマス発電所がそれぞれ稼働を開始した。カーボンニュートラルである木質バイオマスを燃料とした再生可能エネルギーの利用によりCO2排出量の削減を図るとともに、木質バイオマス燃料の一部に近郊地域で発生する間伐材等の山林放置木を使用し、地域の林業・木材産業振興に貢献している。