エア・ウォーター 2023年3月期第1四半期連結決算(IFRS)、増収減益

全セグメントで増収も、電力分野のコスト増が大きく影響

 エア・ウォーターの2023年3月期第1四半期連結決算は、売上収益2247億2000万円(前年同期比8.9%増)、営業利益129億8400万円(同19.4%減)、親会社の所有者に帰属する四半期利益80億8900万円(同24.1%減)だった。

 2030年度に向け、「地球環境」と「ウェルネス(健やかな暮らし)」の成長軸に沿って事業活動を通じた社会課題の解決に貢献し、持続的な成長と企業価値の向上を目指す長期ビジョン「terrAWell(テラウェル)30」を定めるとともに、2024年度までの3ヵ年を実行期間とする中期経営計画「terrAWell 30 1st stage」を策定した。

 また、長期ビジョンを実現するための布石として、本年4月に大規模な組織改革を実施し、グループの経営資源である「多様な事業・人材・技術」の融合と全体最適化によるシナジーの創出に向け、本社組織とグループ会社群が一体となった経営体制に移行した。

 当第1四半期連結累計期間においては、新たな組織体制の下、中期経営計画の基本方針に基づき、エレクトロニクス分野や北米における産業ガス事業の拡大を図るとともに、グループシナジーによる収益力の強化やCO2の回収・利活用をはじめとした新事業の創出に取り組んだ。また、エネルギーや原材料コストの急速な上昇による業績への影響を低減するため、全社を挙げて生産・物流面の効率化をはじめとしたコスト削減に努めるとともに、事業全般において徹底した価格改定を進めた。

 その結果、エレクトロニクス分野や医療サービス分野の事業拡大に加え、コスト上昇に対応した価格改定によって全ての事業セグメントで増収となった。また、利益面では、「ヘルス&セーフティー」及び「アグリ&フーズ」の両セグメントは、底堅い需要が続く中で収益力の強化が進展したことも相俟って、前年同期を上回った。一方、「デジタル&インダストリー」セグメントで子会社の連結除外による影響などがあったことに加え、「エネルギーソリューション」セグメントでは電力分野における発電燃料の海上輸送コストの上昇及び設備トラブルによる計画外停止の影響が生じた。

当期の連結セグメント別業績

 エア・ウォーターは、将来にわたり持続的な企業成長を果たすため、気候変動や超高齢化社会の進展など今後の世界的な社会課題を踏まえ、「地球環境」と「ウェルネス」の2つの成長軸を設定した。2022年4月、この2つの成長軸に沿って、グループの多様な事業領域を4つの事業グループに再編する組織改革を実施した。

 これに伴い、当第1四半期連結会計期間より、報告セグメントを従来の「産業ガス関連事業」「ケミカル関連事業」「医療関連事業」「エネルギー関連事業」「農業・食品関連事業」「物流関連事業」「海水関連事業」「その他の事業」の8区分から「デジタル&インダストリー」「エネルギーソリューション」「ヘルス&セーフティー」「アグリ&フーズ」「その他の事業」の5区分に見直した。

<デジタル&インダストリー>

 売上収益は757億9000万円(前年同期比112.6%)、営業利益は61億5500万円(同85.1%)。

 事業全体では、エレクトロニクス分野向けで半導体の製造工程に用いられるガス、特殊化学品、電子材料、Oリングなどの販売が増加したことに加え、国内の産業ガス需要が底堅く推移したことから増収となった。利益面では、電力料金の上昇に伴う産業ガス製造コストの増加に対応するため、徹底した価格改定の取り組みを推進したが、その適用時期にかかる影響が一部残った。また、当第1四半期連結累計期間においては、2021年7月にインド子会社の合弁事業を解消したことによる連結除外の影響があった。

 エレクトロニクス事業は、大手半導体メーカー向けオンサイトガス供給が順調に推移したほか、顧客の設備増強に伴う周辺需要の獲得に注力し、特殊化学品などの販売が増加した。また、半導体製造装置向け熱制御機器の販売が好調に推移した。エア・ウォーター・マテリアル㈱を中心とする情報電子材料分野では、半導体材料や電子部品の販売が国内外ともに好調に推移した。

 機能材料事業は、ナフトキノンが中国のロックダウン時の影響を受け販売が減少したが、原油価格の上昇に伴い有機酸など基礎化学品の製品市況が高水準となり、堅調に推移した。また、世界的な半導体・電子部品の需要拡大を受け、高機能回路製品やOリング等の販売が増加したことにより、事業全体としては順調に推移した。

 インダストリアルガス事業は、電力料金の上昇に伴い販売価格も上昇したことで、鉄鋼向けオンサイトガス供給の売上収益が増加した。ローリー・シリンダーガス供給においては、自動車関連の減産による影響があったが、電子部品・化学・機械向けなどの販売が堅調に推移し、前年並みの販売数量となった。一方、利益面では、電力料金の上昇に伴う産業ガス製造コストの増加に対応するため、徹底した価格改定の取り組みを推進したが、その適用時期にかかる影響が一部残った。なお、2022年2月より北海道において金属加工製品を製造・販売する㈱ホクエイを新規連結している。

 海外・エンジニアリング事業は、インドにおける鉄鋼向けオンサイトガス供給及びローリー・シリンダーによる外販ガス供給ともに旺盛な需要に対応し、順調に推移した。なお、2021年7月にインド子会社との合弁事業を解消したため、当第1四半期連結累計期間においては、同社の連結除外による影響があった。

<エネルギーソリューション>

 売上収益は267億8400万円(前年同期比108.3%)、営業利益は12億8500万円(同56.1%)。

 事業全体では、輸入価格に連動してLPガスの販売単価が上昇するとともに、産業用の水素ガス供給が順調に推移し、増収となった。一方で、電力分野において、設備トラブルが発生したことに加え、荷揚げ港湾施設の混雑等に起因し発電燃料であるPKS(パーム椰子殻)の海上輸送コストが高騰した影響を受けた。

 なお、電力分野を除いた当セグメントの売上収益は、199億3600万円(前年同期比111.2%)、営業利益は11億5000万円(同112.3%)となった。

 エネルギー事業は、LPガス供給を主とするエネルギー分野が、巣ごもり需要の減少により家庭用の販売数量が微減となったものの、LPガスの販売単価が上昇したことに加え、利益面では配送の効率化等によるコスト低減が進み、堅調に推移した。電力分野は、福島県いわき市の木質バイオマス発電所において、設備トラブルによる影響があったことに加え、荷揚げ港湾施設の混雑等に起因し発電燃料であるPKSの海上輸送コストが高騰した影響を受けた。

 資源循環事業は、炭酸ガス供給が原料ガスの不足等による影響を受けたが、半導体・非鉄業界向けに水素ガスのオンサイト供給が順調に推移したことや人工再生木材「エコロッカ」の販売が増加したことで、堅調に推移した。また、資源循環や新エネルギーに関わるビジネスモデル構築の一環として、小型CO2回収装置「ReCO2 STATION」を開発し、CO2回収・利活用の事業化に向けた取り組みを開始した。

<ヘルス&セーフティー>

 売上収益は536億6800万円(前年同期比104.9%)、営業利益は27億6700万円(同100.7%)。

 事業全体では、新型コロナの新規感染者数が減少したことに伴い、前年同期に需要が高まった衛生材料、注射針、医療用酸素等の販売は減少したものの、SPD(病院物品物流管理)の新規受託や病院設備工事の大型案件の進捗などが寄与し、増収となった。利益面では、エアゾール分野、衛生材料分野等において原材料価格の上昇による影響を受けたものの、医療用酸素濃縮装置の自治体向けリースをはじめ、医療現場のニーズにあった製品提案を総合的に展開したことで、増益を堅持した。

 メディカルプロダクツ事業は、医療ガス分野において、新型コロナの感染ピークとなった前年同期よりも医療用酸素の販売数量は減少したが、在宅医療事業は、感染再拡大に備えた医療用酸素濃縮装置の自治体向けリース契約が継続し、医療機器分野においても一酸化窒素吸入療法の症例数が増加し、順調に推移した。

 防災事業は、病院設備工事分野において、シンガポールでの工事進捗の回復遅れによる影響があったが、国内では院内感染対策の高まりを背景としたリニューアル工事が増加するとともに、消火設備分野においても、データセンター向けの需要が拡大したことから、順調に推移した。

 サービス事業は、病院の経営効率を高める施策の提案を通じて、新規顧客の獲得に取り組んだ結果、医薬品SPDの新規案件を獲得したことで堅調に推移した。

 コンシューマーヘルス事業は、歯科分野では、本年4月よりCAD/CAM冠用材料が虫歯の詰め物として保険適用が開始されたことにより、歯科材料の販売が好調に推移した。一方で、エアゾール、衛生材料、注射針の各分野において、原材料コストの上昇による影響を受け、事業全体としては、前年同期を下回った。

<アグリ&フーズ>

 売上収益は369億1700万円(前年同期比108.1%)、営業利益は13億7600万円(同122.7%)。

 事業全体では、各種原材料のコスト上昇による影響を受けたが、価格改定が堅調に進んだことに加え、食品加工分野の業務用需要が回復したことで順調に推移した。また、農産物直売所を運営する㈱プラスの新規連結効果も相俟って、増収増益となった。

 フーズ事業は、前年同期と比較して行動制限の緩和が進んだことにより、ハム・デリカ分野において飲食店やホテル向けなどの業務用需要が回復した。また、原材料価格の上昇による影響があったものの、前年度に実施したグループ会社の統合再編に伴う物流や調達面をはじめとした生産性の向上が寄与した。スイーツ分野は、オフィス需要の回復などにより、コンビニエンスストア向けの販売が堅調に推移した。飲料分野は、全体として需要は堅調だったものの、前年同期に好調だった野菜系飲料の需要減少による影響を受けた。

 アグリ事業は、農産・加工分野において前年度に北海道地区で不作であった馬鈴薯の販売量が減少した影響を受けた。また、2021年11月より関西地区を主要エリアとして農産物直売所「産直市場よってって」を運営する㈱プラスを新規連結している。

<その他の事業>

 売上収益は315億5900万円(前年同期比108.7%)、営業利益は6億0900万円(同44.7%)。

 物流事業は、自社物流ネットワークの拡充とネット通販による物流需要の高まりを背景に、北海道と東日本を結ぶ幹線輸送の荷扱量が増加するとともに、産業・医療系廃棄物の収集運搬において感染性廃棄物の取扱量が増加したことで、軽油価格の上昇による影響を補い、堅調に推移した。

 ㈱日本海水は、業務用塩を中心に製品価格の改定に取り組み、燃料である石炭やLNG価格の上昇に対応したが、電力分野において、発電燃料であるPKSの海上輸送コストが高騰した影響を受けた。

 北米産業ガス事業は、水素エネルギーや脱炭素関連の需要の高まりを受け、低温容器やガス供給設備の受注が堅調に推移したものの、一部構成部材の海外調達の遅れから前年同期を下回った。また、高出力UPS(無停電電源装置)事業は、メンテナンスをはじめとするサービス分野が堅調に推移したものの、前年度から継続する工事進捗等の遅れによる影響を受けた。