エア・ウォーター 2023年3月期通期連結決算(IFRS)

売上収益1兆円を達成、4円の記念配当を実施

 エア・ウォーターの2023年3月期通期連結決算は、売上収益1兆0049億1400万円(前年同期比13.1%増)、営業利益621億8100万円(同4.6%減)、親会社の所有者に帰属する四半期純利益401億3700万円(同7.1%減)となった。売上収益1兆円を達成したことにともない、記念配当4円を実施する。

 エア・ウォーターグループは「地球環境」と「ウェルネス(健やかな暮らし)」という2つの成長軸に沿って事業活動を通じた社会課題の解決に貢献し、持続的な成長と企業価値の向上を目指す2030年度に目指す姿「terrAWell(テラウェル)30」を定めるとともに、2022年度から2024年度までの3ヵ年を実行期間とする中期経営計画「terrAWell30 1st stage」を策定した。また、その実現の布石として、グループの強みである「多様な事業、人材、技術」から創出されるシナジーの最大化を図るため、新たに「ユニット制」を導入し、エア・ウォーター本体組織とグループ会社群が一体となったグループ経営体制に移行した。

 新たな経営戦略と組織体制の下、2010年からグループ全社を挙げて取り組んできた「売上収益1兆円」の達成を目指すとともに、成長分野と位置付ける海外およびエレクトロニクス関連事業の基盤構築、グループシナジーの創出と経営資源の最適配分による国内事業の収益構造強化、さらに、次なる成長に向け、従来の事業の枠を越えた着想と積極的な技術開発による新事業の創出を推し進めた。

 海外事業は、高炉一貫製鉄所の建設が相次ぐインドにおいて、産業ガスの製造・物流インフラの構築を進めるとともに、北米においてもM&Aを通じて産業ガスの販売事業に参入した。また、エレクトロニクス関連事業は、国内半導体デバイスメーカーの生産能力増強に対応したガス供給プラントの設備投資に加え、産業ガスとケミカルを融合した新たな事業推進体制の下、先端ニーズに応える素材開発やグループ総合力を活かした顧客との関係強化に取り組んだ。

 国内の既存事業は、エネルギー価格の高騰に加え、原材料や物流コストの上昇が続く中、生産・物流面の効率化をはじめとしたコスト削減や調達の見直しと同時に、自助努力で補いきれないコスト上昇分については徹底した販売価格の是正を行い、収益性の確保に努めた。また、各事業分野におけるグループ会社の統合再編に加え、農産分野では他企業との資本業務提携を開始するなど、環境変化に柔軟に対応できる事業構造への変革を進めた。

 さらに、社会課題解決に貢献する新事業として、地球環境領域では、小型CO2回収装置の開発や、家畜ふん尿由来の液化バイオメタン製造など地産地消型エネルギー供給モデルの構築を通じて、脱炭素ソリューションの社会実装化に注力した。また、ウェルネス領域では、大学や自治体との連携強化を図るとともに、エア・ウォーターグループの技術やビジネスモデルの融合による新事業創出を目的としたオープンイノベーション推進施設「エア・ウォーター健都」の建設が順調に進展した。

 サステナビリティの取り組みに関しては、CO2排出量の削減目標値を見直し、新たに設定した「2030年度 GHG排出量30%削減(2020年度比)」に向け、エネルギー使用量の低減や生産プロセスの改善を進めた。また、多様な事業を担うグループの人材が活躍できる環境整備をはじめとしたダイバーシティ&インクルージョンを推進するとともに、自律的なキャリア形成を促す人事制度改革を実行するなど、価値創造の中核を担う人的資本の強化に努めた。

 当連結会計年度の業績については、エレクトロニクス関連事業とインドにおける産業ガス供給事業が積極的な設備投資を通じて供給インフラを拡充したことで着実に需要を取り込み、順調に拡大した。また、コロナ禍における事業環境の変化に対応し、グループシナジーを高めた「ヘルス&セーフティー」が総じて順調に推移し、全社業績を牽引した。

 売上面では、ユニット制によるグループシナジーの追求に加え、価格是正や市況連動により販売価格が上昇したことも寄与し、全てのセグメントで増収となった。しかしながら、利益面では、FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取)制度を利用した電力事業において、発電燃料や海上輸送コストの上昇分を価格転嫁することができず、年度を通じてその影響を大きく受けた。

インダストリアルガス事業で鉄鋼や自動車の生産活動が低調、ガスの販売数量は前年比微減

当期の連結セグメント別業績

デジタル&インダストリー

 売上収益は3425億4900万円(前年同期比118.6%)、営業利益は290億0200万円(同104.3%)。

 事業全体では、エネルギー価格の高騰や物価上昇等の影響を受ける厳しい環境となる中、こうしたコスト上昇に対して、生産性の向上や徹底した価格是正に取り組んだ。また、インドでの産業ガス供給事業が好調に推移するとともに、年度後半にかけて減速感はあるものの、エレクトロニクス事業が順調に推移した結果、売上・利益ともに前年度を上回った。

 エレクトロニクス事業は、大手半導体メーカー向けのオンサイトガス供給が順調に推移した。特殊ケミカル材料やその供給機器、ガス精製装置、半導体製造装置向け熱制御機器などの販売は、年度後半から顧客の在庫調整や設備投資の先送りによる影響を受けたものの、堅調に推移した。情報電子材料分野においては、半導体材料や電子部品の販売が国内外ともに好調に推移した。

 機能材料事業は、石化市況に連動する基礎化学品の価格上昇が増収に寄与した。また、食品向け日持ち向上剤などに利用される酢酸ナトリウムの販売が回復するとともに、半導体製造装置向けOリング(シール材)や産業用ロボット向け高機能回路製品の販売が増加したことで、精密研磨パッドや電子材料などの需要が減少した影響を補い、事業全体では堅調に推移した。

 インダストリアルガス事業は、鉄鋼や自動車などの生産活動が低調だったことから、ガスの販売数量は前年をわずかに下回った。また、電力料金や物流コストの上昇が続いたため、鉄鋼向けオンサイトガス供給の販売単価が上昇したことに加え、各種ガス製品の価格是正を実施したことにより、売上収益が増加した。利益面では、価格是正が適用されるまでの期間影響が一部に残った。

 海外・エンジニアリング事業は、インドにおいて、鉄鋼向けオンサイトガス供給が旺盛な粗鋼生産に連動し高稼働を継続したほか、プラント操業の効率化に取り組み、年度を通じて好調に推移した。また、ローリー・シリンダーによるガス供給も自動車向けなどの需要が高まり、販売数量が増加した。

エネルギーソリューション

 売上収益は919億1900万円(前年同期比108.8%)、営業利益は57億0300万円(同81.4%)。

 事業全体では、エネルギーと環境領域を融合し、地域の未利用資源を活用したカーボンニュートラルに寄与するエネルギー供給に向けた新たなビジネスモデルの構築を進めた。輸入価格に連動しLPガスの販売単価が上昇したことで増収となったものの、利益面では、炭酸ガス供給分野において原料ガスの不足等による影響を受け、ドライアイスの販売が停滞したことから、前年を大きく下回る結果となった。

 エネルギー事業は、輸入価格に連動しLPガスの販売単価が上昇したことで増収となった。利益面では、配送費等のコスト増加に対する価格是正を実施したが、在庫量が増える年度後半にかけて輸入価格の変動に伴う在庫評価の影響を受けた。

 資源循環事業は、炭酸ガス供給において、原料ガスの不足等による影響からドライアイスの販売が減少し、前年を大きく下回る状況となった。一方、水素ガスは、半導体・非鉄業界向けのオンサイト供給を中心に順調に推移した。また、小型CO2回収装置「ReCO2 STATION」やLNG代替燃料として利用可能な「液化バイオメタン」を開発し、CO2回収・利活用や新エネルギーのビジネスモデル構築を進めた。

ヘルス&セーフティー

 売上収益は2359億9200万円(前年同期比108.5%)、営業利益は154億8200万円(同116.6%)。

 事業全体では、コロナ禍による医療機関や生活者を取り巻く環境の変化を踏まえ、今後も必要とされる感染症対策や新たな医療提供の形を見据えた事業体制の構築を進めた結果、医療用酸素の安定供給や病院設備のリニューアル工事、SPD(病院物品物流管理)による病院経営の効率化など、医療現場の様々な需要を着実に取り込んだ。また、生活者により近い事業を展開する在宅医療や歯科分野に加え、衛生材料をはじめとしたコンシューマーヘルス分野が順調に推移した結果、売上・利益ともに前年を上回り、全社業績を牽引した。

 メディカルプロダクツ事業は、コロナ対策として酸素濃縮装置の自治体向けリース契約が継続したほか、病院での手術件数の回復などにより、医療用酸素の販売数量が増加した。また、歯科分野は、CAD/CAM冠用材料が虫歯治療のインレー(詰め物)として保険適用が開始されたことにより、好調に推移した。

 防災事業は、病院設備工事分野においてリニューアル工事が増加したことに加え、大型工事案件の完工により、順調に推移した。シンガポールの病院設備工事は、行動制限の緩和により工事進捗の改善が進み、順調に推移した。また、消火設備分野は、発電所やデータセンター向けの需要を着実に取り込み、堅調に推移した。

 滅菌受託やSPDを展開するサービス事業は、人手不足が常態化する病院業務の効率化に向けた積極的な提案活動を通じて新規顧客の獲得が進んだことにより、増収に寄与した。

 コンシューマーヘルス事業は、衛生材料分野において、手術関連製品や自社開発のマスクなど市販用感染対策製品の販売が増加した。エアゾール分野は、原材料コストの上昇による影響を受けたが、年度後半にかけて化粧品やUVカットスプレーの製造受託が増加したことで、堅調に推移した。注射針分野は、ワクチン接種用注射針に加え、海外向けのデンタル針や美容針の販売が回復したことにより、順調に推移した。

アグリ&フーズ

 売上収益は1520億6900万円(前年同期比109.0%)、営業利益は55億2100万円(同96.6%)。

 事業全体では、年度前半においては、ハム・デリカ製品の販路拡大や業務用食品の需要回復に加え、原材料・エネルギーコストの上昇に対応した価格是正が進展したことで順調に推移したが、年度後半には、鶏卵や肥料・資材といった原材料コストがさらに高騰した影響を受けた。なお、M&Aによる新規連結効果が寄与したが、土地売却益を前年に計上していた反動から、営業利益は前年をわずかに下回る結果となった。

 フーズ事業は、ハム・デリカ分野において、ホテルや外食向けなどの業務用需要が回復したことに加え、新たな販路開拓と新商品の投入により市販用製品の販売が順調に推移した。一方、スイーツ分野は、年度後半にかけて、鶏卵をはじめとした原材料費の上昇と物価上昇による消費マインドの低下を受け、厳しい状況となった。

 野菜・果実系飲料などの受託製造を行うナチュラルフーズ事業は、大口顧客へのミネラルウォーターの販売が増加したが、利益面では工場動力にかかるエネルギーコストが増加した影響を受け、前年並みとなった。

 アグリ事業は、青果卸・加工分野においては、北海道における農産物の一部が生育不良だった影響を受け、年度後半にかけて青果の卸・販売が低調に推移した。百貨店等で店舗展開する青果小売分野においては、物価上昇の影響による消費マインドの低下を受けて販売が伸び悩んだが、関西地区で農産物直売事業を行う㈱プラスの新規連結効果により、事業全体では順調に推移した。

その他の事業

 売上収益は1823億8200万円(前年同期比115.1%)、営業利益は10億6200万円(同9.9%)。

 物流事業は、自社物流ネットワークの拡充により、主に北海道と東日本を結ぶ幹線輸送の荷扱量が増加した。食品物流を中心とする3PL事業は、札幌第二低温センターが本格稼働するとともに厚木物流センターでネット通販関連の荷扱量が増加した。また、受託料金の適正化に取り組んだことで、堅調に推移した。トラック・ボディの設計・架装を行う車体事業が車両の納入遅れによる影響を受けたが、産業・医療系廃棄物の収集運搬において取扱量が増加したことで、その影響を補い、事業全体としては順調に推移した。

 ㈱日本海水は、製塩工程におけるボイラー燃料として使用している石炭やLNGの価格高騰に対し、業務用塩を中心に二度にわたる価格是正を実施した結果、売上収益が拡大した。しかしながら、FIT制度を利用した電力分野において、発電燃料であるPKS(パーム椰子殻)の海上輸送コストなどが高騰した影響を受け、前年を下回る結果となった。

 北米産業ガス事業は、低温機器・エンジニアリング分野において、脱炭素関連需要の高まりを受けて、炭酸ガス関連機器や液化水素タンクなどの受注が堅調に推移したことに加え、貯槽用低温容器の販売が増加した。一方、利益面では、部材の調達遅れなどによる影響から生産の停滞が発生し、厳しい状況となった。なお、極低温冷凍システムを手掛けるDohmeyer Holding BVBA、米国ニューヨーク州を地盤とする産業ガス・ディストリビューターのNoble Gas Solutions, LLC.を新たにM&Aした。高出力UPS(無停電電源装置)事業は、東南アジアにおいて、行動制限の緩和により工事進捗の改善が進み、順調に推移した。一方、欧米においては、顧客の投資計画延期や資材価格の上昇などによる影響を受け、厳しい状況となった。

 電力事業は、発電燃料となる木質バイオマスや石炭の価格及び海上輸送コストの高騰が続いたことに加え、荷揚げ港湾施設の混雑に起因する滞船コストの発生や設備トラブルによる影響を大きく受けた。FIT制度により、電力の販売価格が固定化されているため、コスト上昇分を価格転嫁できず、年度を通じて厳しい状況で推移した。なお、2023年1月18日付をもって、エア・ウォーターが保有するエア・ウォーター&エネルギア・パワー山口㈱の株式を中国電力㈱に譲渡した。これにより、同社は中国電力㈱の完全子会社となりエア・ウォーターの連結子会社ではなくなった。

産業ガス事業の海外展開で、積極的なM&A推進とエンジニアリング技術を基軸とした事業基盤を構築

次期2024年3月期の連結業績予想

 次期の2024年3月期通期連結業績予想は、売上収益1兆800億円(前年同期比7.5%増)、営業利益720億円(同15.8%増)、税引前利益700億円(同14.8%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益440億円(同9.6%増)を見込む。年間配当予想は中間配当30円、期末配当30円の合計60円とし、2023年3月期の「売上収益1兆円」の記念配当4円を含む年間配当60円と同額とした。

 今後の見通しについては、インフレ抑制を目的とした諸外国の利上げに伴い、世界的な景気の下振れリスクが高まっており、製造業の先行指標となる半導体需要は、2023年半ばまで在庫調整の継続が見込まれるなど、先行きに対する見通しは一段と不透明さを増していると予想する。

 こうした中、エア・ウォーターグループは、「売上収益1兆円」という企業ステージに上がったことで、社会からのグループに対する期待の高まりを受け、2030年度に目指す姿「terrAWell 30」の実現に向けた取り組みを加速するとしている。

 ユニット制によるグループ経営体制の下、「地球環境」と「ウェルネス(健やかな暮らし)」という2つの成長軸に沿って、エア・ウォーターグループが保有する「多様な事業、人材、技術」と「地域密着の事業基盤」を最大限に活かし、グループシナジーの創出を追求するとともに、既存事業の収益力に磨きをかける「深掘り」と、次の成長を担う事業機会を発掘・育成する「探索」による「両利きの経営」の実践に努める。

 深掘りについては、グループは、引き続き、各事業領域でグループ会社の統合再編をはじめとした事業構造改革やデジタルトランスフォーメーション(DX)の活用を推し進めるとともに、総資産の見直しや人員の最適配置に重点を置き、収益力の強化を図る。また、物価上昇や為替の変動に対応した価格是正を継続するとともに、コストに見合った適正価格を維持することで、収益性の改善に取り組む。

 探索については、産業ガス事業の本格的な海外展開に向け、積極的なM&Aの推進と事業の根幹となるエンジニアリング技術を基軸とした事業基盤の構築を進める。また、国内では、地域事業会社3社を主とした地域密着の事業基盤を基に、多様な事業領域と技術開発によるイノベーションを組み合わせることで、地域の社会課題解決に資する新事業の創出を進めるとしている。

 中期経営計画を実現するには、海外事業の拡大が重要となり、特にインドと北米を重点地域とし、エア・ウォーターグループが保有する優れた機器・エンジニアリング技術を活用して、産業ガスおよび関連機器、エンジニアリング事業の拡大を加速する。また、オンサイトガス供給案件の受注による大口顧客の獲得に加え、自社プラントや充填所などの拠点構築にも注力する。さらに、これらの事業拡大を支える土台として、「組織・体制の強化」を図る。事業分野毎だけではなく、地域毎に、その地域の特性や環境に応じて事業を管理、運営する新たな組織体制やリスクマネジメントの仕組みを整備する。

 設備投資、M&Aといった投資については、インドや北米などの海外を中心に、これまで以上に積極的に行い、事業拡大と収益力の向上を実現する。また、環境変化に柔軟に対応し、将来にわたって持続的な成長を実現するために、人的資本や知的財産、ブランド力などの無形資本に対する投資も戦略的に実施する。一方、限られた経営資源を適切に振り向けるために、収益性・成長性を見極め、各事業領域において「選択と集中」を実施するほか、投資案件のモニタリングや検証を実施する。

 エア・ウォーターグループは、全社を挙げて、「脱炭素社会」「資源循環型社会」「人と自然の共存社会」の実現に向けた取り組みを進めており、2030年度までに「GHG排出量30%削減」を達成し、2050年にはカーボンニュートラルの実現を目指す。また、「廃棄物リサイクル率80%」や「水使用量原単位10%削減」の目標達成に向け、資源循環や水資源の保全にも注力する。

 今後も、グループは、事業活動を通じて社会課題解決に注力し、人々の暮らしや産業になくてはならない製品・サービスを生み出すとし、特に、「アグリ&フーズ」では食料安全保障や食料自給率の向上といった昨今の国際情勢を背景とした社会課題、「ヘルス&セーフティー」では超高齢化をはじめとした暮らしに関わる社会課題の解決に貢献する。また、2025年に開催される大阪・関西万博への出展も決定しており、グループのパーパスである「地球の恵みを、社会の望みに。」を国内外に発信していく。