エア・ウォーター 2024年3月期第1四半期連結決算(IFRS)
炭酸ガスは原料ガス不足、国内産業ガスの需要が全般的に弱含み。価格是正などコスト対応は順調に進展
エア・ウォーターの2024年3月期第1四半期連結決算は、売上収益2300億3900万円(前年同期比2.4%増)、営業利益112億6300万円(同13.3%減)、親会社の所有者に帰属する四半期純利益71億4100万円(同11.7%減)だった。直近公表の通期連結業績予想と年間配当金予想の修正はない。
当第1四半期連結累計期間の業績は、産業ガスや業務用塩をはじめとした各種製品において前年度より実施している価格是正をはじめとしたコスト上昇への対応が順調に進展した。また、国内では人流が回復したことを背景に食品や飲料分野が復調したほか、海外ではインドにおける旺盛なガス需要が継続した。さらに、前年度に海上輸送コストの高騰を受け、全体業績に大きな影響を与えた木質バイオマス発電事業は、コスト環境の改善により回復基調で推移した。
しかしながら、半導体市況の低迷や新型コロナウイルス関連需要の減退といった外部環境の変化があったほか、炭酸ガスの原料不足による影響なども影響した。
エア・ウォーターグループは、2023年3月期業績で売上収益1兆円を達成し、2030年に向けた長期ビジョン「terrAWell(テラウェル)30」の実現に向け、「地球環境」と「ウェルネス」という2つの成長軸に沿って、グループの経営資源である「多様な事業、人材、技術」の融合と全体最適化によって、グループシナジーの発現とともに、社会課題の解決に貢献する新事業の創出に向けた取り組みを加速した。
特に、成長分野と位置付ける海外及びエレクトロニクス関連においては、北米・インドでの産業ガス事業の拡大に向け、M&Aの推進や製造・供給インフラの拡充を進めるとともに、国内各地で建設が進む半導体製造工場の新増設に対応するため、ガス供給プラントの旺盛な設備投資を継続した。また、産業ガスの供給に不可欠な技術領域であるエンジニアリング機能を統括し、ガバナンスやリスクマネジメントも含めた海外展開を一元的に管理・推進する「グローバル&エンジニアリンググループ」を新設するとともに、ガス供給プラントを製作する基幹工場の増強にも着手するなど、産業ガス事業の根幹となるエンジニアリング体制のさらなる強化を図った。
また、事業環境の変化に対応した成長戦略を推進するため、エレクトロニクスや北海道における農産加工分野などの事業領域でグループ会社の統合再編を基軸とした事業構造改革を実施し、経営資源の最適配分によるグループシナジーの創出と収益力の強化に取り組んだ。
さらに、イノベーションによる新事業の創出を早期に実現するため、新たなガス利用法の開発に特化した「ガス技術開発センター」を新設するとともに、事業領域ごとに「開発センター」を設置し、電子・機能材料、脱炭素ソリューション、歯髄再生治療、陸上養殖など、社会課題解決に貢献する新たなビジネスモデルの構築を積極的に推進した。
当期の連結セグメント別業績
セグメント別の業績は次のとおり。当第1四半期連結会計期間より、従来「デジタル&インダストリー」に区分していた国内のエンジニアリング事業及び海外エンジニアリング(インド産業ガス等)事業を「その他の事業」に、「エネルギーソリューション」に区分していた炭酸ガス・水素事業を「デジタル&インダストリー」に移行した。
デジタル&インダストリー
売上収益は813億1千6百万円(前年同期比108.2%)、営業利益は53億3千3百万円(同92.8%)。
事業全体では、前年度より実施している産業ガスの価格是正が順調に進展するとともに、大手半導体メーカー向けのオンサイトガス供給も引き続き高稼働を維持した。一方、機能材料分野において石化市況の低下や顧客の在庫調整があったことに加え、炭酸ガス供給において原料ガスの不足による影響を受けたことから、利益面では前年同期を下回った。
エレクトロニクス事業は、半導体需要の落ち込みを受け、特殊ケミカルや半導体製造装置向け熱制御機器の販売が減少したが、大手半導体メーカー向けのオンサイトガス供給が概ね高稼働を維持するとともに、顧客において中長期的な需要増を見据えた設備増強が継続したため、特殊ケミカル供給装置や関連工事の需要が底堅く推移し、前年同期並みとなった。
機能材料事業は、半導体需要の落ち込みを受け、精密研磨パッドや電子材料などの販売が減少した。また、前年同期に上昇基調で推移した石化市況の反動から基礎化学品が弱含むとともに、農薬向けの機能材料でも顧客の在庫調整による影響を受けるなど、事業全体として前年同期を大きく下回った。
インダストリアルガス事業は、炭酸ガス供給において原料ガスの不足による影響を受けたほか、自動車や建機向けに回復の兆しがあるものの、鉄鋼向けオンサイトガス供給をはじめとした国内産業ガスの需要が全般的に弱含みで推移する中にあって、前年度より実施している産業ガスの価格是正をはじめとしたコスト上昇への対応が順調に進展したことから、事業全体では堅調に推移した。
エネルギーソリューション
売上収益は138億2千1百万円(前年同期比92.5%)、営業利益は6億6千5百万円(同71.6%)。
エネルギー事業は、主要事業エリアである北海道において卸売と小売機能の統合を軸とした事業再編を実施し、収益力の強化を図った。また、低・脱炭素需要が高まる中、積極的な燃料転換を推進したことにより工業用LPガスの販売数量が増加するとともに、LNGタンクローリーや小型LNGサテライト設備の受注も順調に推移した。しかしながら、LPガスの販売単価が輸入価格に連動して下落したため、売上収益が減少するとともに、利益面においても在庫評価による影響を受けた。
グリーンイノベーション事業は、小型CO2回収装置「ReCO2 STATION」やLNG代替燃料として利用可能な「液化バイオメタン」の各種実証を進めるなど、脱炭素社会の実現に貢献する新事業の創出に向け、CO2回収・利活用や新エネルギーのビジネスモデル構築に取り組んだ。
ヘルス&セーフティー
売上収益は521億2千万円(前年同期比97.1%)、営業利益は24億1百万円(同86.8%)。
事業全体では、データセンター向けのガス消火設備など防災事業が堅調に推移したものの、新型コロナウイルスの5類感染症移行に伴い、前年同期に比べて酸素濃縮装置のリース契約や衛生材料などの感染管理製品の需要が減少した影響を受けた。
メディカルプロダクツ事業は、酸素濃縮装置の自治体向けリース契約などが減少したことに加え、前年同期に好調だった歯科材料の販売が減少したことから、前年同期を下回った。
防災事業は、病院のリニューアル工事が増加したことに加え、消火設備分野においてもデータセンター向けの需要が拡大したことから、順調に推移した。
サービス事業は、病院の経営効率を高める施策の提案を通じて、新規顧客の獲得に取り組んだが、大型病院との契約が終了した影響を受けた。
コンシューマーヘルス事業は、コロナ禍からの回復により、海外を中心に美容針やデンタル針の販売が増加したことに加え、日焼け止めスプレーや化粧品の受託製造が伸長したが、衛生材料などの感染管理製品の需要減少と価格低下による影響を受けた。
アグリ&フーズ
売上収益は382億9千7百万円(前年同期比103.3%)、営業利益は13億5千4百万円(同100.9%)。
事業全体では、スイーツ及びハムデリカ分野において、鶏卵をはじめとする原材料コストが上昇した影響を受けたが、ペットボトル飲料の受託製造が順調に推移したことから、増収増益となった。
フーズ事業は、ホテルや外食などの業務用に加え、市販用を中心に新たな販路の開拓を進め、販売面では堅調に推移したものの、利益面では原材料コストの上昇を吸収しきれず、前年同期を下回った。また、スイーツ分野は、卵の供給不足により製品の一部で休売が発生するなどの影響を受けた。
野菜・果実系飲料などの受託製造を行うナチュラルフーズ事業は、コンビニ向けペットボトル飲料の受託が増加したことにより、順調に推移した。
アグリ事業は、農産物直売や青果小売分野において、出展店舗への来客数が増加したが、北海道を主要産地とする農産・加工分野において馬鈴薯や玉ねぎの加工効率が悪化したことから、前年同期並みとなった。なお、当事業においては、業界大手企業2社との資本業務提携に基づく協業体制の下、各社が有する調達・加工・販売・物流機能の相互活用による青果流通加工プラットフォームの強化を推進した。
その他の事業
売上収益は444億8千3百万円(前年同期比101.3%)、営業利益は7億8千3百万円(同57.6%)。
物流事業は、新規顧客の獲得等により、食品物流分野は堅調に推移したものの、北海道エリアの一般貨物輸送の荷扱量が減少したことに加え、産業・医療系廃棄物の収集運搬において感染性廃棄物の取扱量が減少した影響を受けた。なお、当事業においては、新たに三重県と岩手県で物流センターを稼働させるなど、自社物流ネットワークの強化を進めた。
㈱日本海水は、前年度から実施している業務用塩や水酸化マグネシウムの価格是正をはじめとしたコスト上昇への対応が順調に進展したことに加え、都市インフラ事業において下水道更生用の管路システムの販売が増加し、堅調に推移した。
グローバル&エンジニアリング事業では、北米での産業ガス分野は、前年度に影響があった材料調達などに起因する生産停滞の解消が進んだことで液化水素タンクや炭酸ガス関連機器の販売が回復基調で推移するとともに、米国ニューヨーク州におけるガス販売も堅調に推移したが、当第1四半期においてM&A関連の先行費用を計上したため、前年同期を下回る結果となった。
一方、インドでの産業ガス分野は、鉄鋼向けオンサイトガス供給及びローリー・シリンダーによる外販ガス供給ともに旺盛な需要が継続し、堅調に推移した。また、高出力UPS(無停電電源装置)分野は、顧客の投資計画延期や工事遅延などの解消が進んだことから、前年同期を上回った。
電力事業は、小名浜木質バイオマス専焼発電所の安定稼働が継続するとともに、発電燃料であるPKS(パーム椰子殻)や木質ペレットの海上輸送コストが、海運市況の下落に伴い低下したことに加え、荷揚げ港湾施設における滞船の緩和策も進展したことから、回復基調で推移した。しかしながら、前年同期との比較では、2023年1月に防府発電所を運営していた子会社の株式を譲渡したことに伴う業績剥落の影響があった。