溶融塩電解でCO2をアセチレンとして再利用

同志社大学とダイキンがカーボンニュートラルに向けた共同研究

 同志社大学とダイキン工業は、溶融塩電解により二酸化炭素(CO2)を合成樹脂の原料や金属の溶接で使用するアセチレンとして再利用できることを実証した。2023年11月12~16日に京都市で開催された溶融塩国際会議「2023 Joint Symposium on Molten Salts(MS12)」において、同志社大学とダイキンが共同で発表した。

溶融塩電解のイメージ
溶融塩電解のイメージ

 溶融塩電解は高温の溶融塩※1のなかで電気分解する方法で、かねてより同志社大学理工学部の後藤琢也教授らが研究を進めてきた。今回、両者の共同研究により特定の金属塩化物と金属酸化物からなる高温の溶融塩にCO2を投入し、電気分解を行うことで、アセチレンの主原料であるカーバイドが合成できることを発見した。このカーバイドと水を反応させることで、アセチレンを生成することが可能になる。

陰極に生成したカーバイド
陰極に生成したカーバイド

 将来的には、CO2を大量に排出する火力発電所や製鉄所などに本技術を活用することで、大気に排出されるCO2の削減に貢献することが期待できる。今後は社会実装に向けて、製造プロセスやエンジニアリングの研究を進めていく。

 日本が掲げる2050年カーボンニュートラル社会を実現するには再生可能エネルギーや水素など、あらゆる技術的な選択肢を活用する必要がある。なかでも、CO2を資源と捉えて多様な有価物として再利用するカーボンリサイクルが注目されており、経済産業省は2050年時点のCO2リサイクル量が最大約1~2億トンになると試算する※2。本技術は、カーボンリサイクルとして実用化が検討されているメタネーション※3やe-fuel※4と同様に有用な技術であると考えており、CO2リサイクル量の更なる拡大に貢献する。

 同志社大学とダイキンは、2020年から環境課題をテーマにした実践的研究開発を行うための包括連携協定を締結した。共同で設立した同志社-ダイキン「次の環境」研究センター※5では、CO2の有効利用や空調機の要素部品の最適設計など、様々な共同研究を進めている。本成果を皮切りに、カーボンニュートラルに向けた技術開発をさらに加速させる。

※1 塩や酸化物のイオン結晶の固体を高温に加熱して融解し液体にしたもの
※2 経産省『カーボンリサイクルロードマップ』20230623_01.pdf (meti.go.jp)
※3 水素(H2)とCO2を化学反応させ、都市ガスの主成分であるメタンを合成する技術
※4 CO2と水素(H2)を原材料として製造する石油代替燃料
※5 2020年4月に同志社大学京田辺キャンパス内に設立した同志社―ダイキン産学連携の拠点 https://next-env.doshisha.ac.jp/

 本技術は溶融塩電解により、CO2からアセチレン(C2H2)の原料となるカーバイド(CaC2)を合成する新たな方法になる。具体的には、食塩(NaCl)や塩化カルシウム(CaCl2)などを含む金属塩化物と、金属酸化物である生石灰(CaO)からなる溶融塩を500℃以上に加熱し、そこにCO2を注入して電気分解を行うことで、陰極上にカーバイドが生成する。

式1 2CO2 + CaO → CaC2 + 5/2 O2  【CO2からカーバイドを生成】

このカーバイドを水と反応させることでアセチレンを生成。

式2 CaC2 + 2H2O → C2H2 + Ca(OH)2  【カーバイドからアセチレンへ生成】

アセチレンについて

 アセチレンは燃焼させると3000℃以上の高温になることから、金属の溶接や切断に広く利用されている。また水道管に使用する塩ビ管などの合成樹脂の原料としても活用される。カーバイドを作るには、石炭から得られるコークス※6と石灰石を約2000℃に加熱する必要があることから、製造工程で大量のエネルギーを使用し、CO2を排出する。今回発見した溶融塩電解でカーバイドを生成する方法はCO2を資源として再利用する新たな方法であり、環境課題の解決が期待できる。

※6 石炭を乾留(蒸し焼き)して炭素部分だけを残した燃料