二酸化炭素の吸着で非磁石から磁石に変わる多孔性材料の開発に成功

金属・有機複合骨格(MOF)に着目

 東北大学金属材料研究所の高坂亘 准教授と宮坂等 教授の研究グループは、武漢大学の張俊 教授および大阪大学大学院基礎工学研究科の北河康隆 教授のグループとの共同研究で、二酸化炭素の吸着により、磁石ではない物質(常磁性体)から磁石の一種である反強磁性体に変わる多孔性材料の開発に成功した。逆に二酸化炭素を脱着させると元に戻る。

 二酸化炭素が内包されることにより分子格子が変形され、電子状態が変わることが原因とされる。二酸化炭素のように、ガスとして扱える温度が広範で且つ圧力も自由に変えられる非磁性物質により、磁気秩序を実現させたのは世界初。

 研究グループは、金属イオンと有機配位子の複合化によって合成される金属錯体を基にした多次元格子「金属・有機複合骨格(Metal-Organic Framework, 略称:MOF)」と呼ばれる分子性多孔性材料(注)に着目した。

開発した層状分子化合物

 MOFは、構成する金属イオンや有機物における付加的要素の高設計性、格子と空間の両方の特性を利用可能、などといった利点を持つため、戦略的に多機能磁石の開発が可能となる。このような MOF の特徴である「空間」という概念を付加して磁石を創ると、本研究で報告する「多孔性磁石(MOF 磁石)」となる。MOF磁石では、その細孔内部に合成時に使用された有機溶媒や水などの小分子を含む(吸着状態)が、その小分子を、MOFの基本骨格を維持したまま脱離させることが可能であり(脱離状態)、その過程が可逆であることが「多孔性」の所以となる。

 研究グループはこれまでに、この MOF 磁石を用いて酸素や二酸化炭素の吸着による「磁気秩序変換」や、二酸化炭素吸着による「磁気秩序の消去」を実現してきた。しかし、磁気秩序消去の逆である「ガス吸着に伴う磁気秩序の創出」はこれまで達成できていなかった。

注)分子性多孔性材料:ゼオライトや活性炭、シリカゲルのような無機物のみから構成される従来の多孔性材料に対して、金属イオンと有機配位子から構成される多孔性材料の総称。金属―有機複合骨格(MetalOrganic Framework; MOF)や多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer; PCP)などと呼称される。金属イオンの配位環境と有機物の持つ高い分子設計性に特徴があり、ナノサイズの細孔を利用した気体吸蔵・分離・触媒・センサーなどの分野での応用が期待されている。