エア・ウォーター 2024年3月期通期連結決算(IFRS)
2025年3月期通期業績予想は売上収益1兆1000億円(7.4%増)、純利益500億円(12.7%増)
エア・ウォーターの2024年3月期通期連結決算(IFRS)は、売上収益1兆0245億4000万円(前年同期比2.0%増)、営業利益682億7200万円(同9.8%増)、親会社の所有者に帰属する純利益443億6000万円(同10.5%増)で過去最高業績となった。国内産業ガス事業を中心とした価格改定等により収益性が改善し、全社業績を下支えするとともに、木質バイオマス発電事業の大幅回復等が業績に寄与した。2024年3月期期末配当を直近の配当予想30円から、4円増配し34円とした。年間配当は中間配当30円とあわせて64円(前年同期は60円)。
ユニット制を基軸としたグループ一体経営によって、国内既存事業の収益力を強化する一方、今後の成長領域である海外事業の基盤構築と、社会課題解決に向けたカーボンニュートラル関連や農産関連の取り組みを進めた。
国内既存事業では、各事業ユニットで自律的な成長を果たす「中核会社」を形成するべくグループ会社の統合再編を進めた。また、製品・サービスの価値に見合った利益水準の確保に向けて、低採算案件の見直しを含めた価格マネジメントを徹底するとともに、生産性の向上をはじめとした収益強化策に取り組んだ。
海外事業では、重点戦略エリアである北米とインドにおいて、積極的な投資を実行し、産業ガス事業のインフラを拡充した。北米では、複数のガスディーラーを買収するとともに、ニューヨーク州で北米初の自社ガス製造拠点となるオンサイトガスプラント建設に着手したほか、ヘリウム事業にも参入した。インドでは、新たに国営鉄鋼公社であるSAIL(Steel Authority of India Limited)社向け大型オンサイトガス供給案件を受注したほか、同国南部での液化ガス製造拠点や北部ガス充填拠点の建設が計画どおり進展した。
社会課題解決を通じた事業創出に向けて、カーボンニュートラル関連では、垂直ソーラー発電システム「VEPRA」や、LNG(液化天然ガス)の代替燃料となる家畜ふん尿を原料とした「バイオメタン」のサプライチェーン構築に取り組んだ。また、CO ₂ 回収・再利用、低炭素水素、アンモニアといった多様な脱炭素需要を見据え、全社横断的な事業推進体制の構築を進めた。
農産関連では、食料安全保障や食料自給率の向上が社会課題となる中、北海道の農産・加工事業体制を再構築するとともに、業界大手企業4社での資本業務提携によって青果流通加工プラットフォームを強化した。
連結セグメント別業績
デジタル&インダストリー
セグメント売上収益は3394億1000万円(前期比100.4%)、営業利益は335億6300万円(同128.5%)。
事業全体では、機能材料事業が半導体市況の低迷等による影響を受けたが、産業ガスを中心とした価格改定に加え、業務効率化や生産性向上に取り組んだことで、収益力が大きく向上した。
インダストリアルガス事業は、産業ガス需要が全般的に弱含みで推移する中、大手企業を中心とした新規取引の獲得により産業ガスの拡販を進めるとともに、エネルギーや物流などのコスト上昇に対応し、生産性の向上や産業ガスの価格改定に取り組んだ結果、収益改善が大きく進展した。さらに、炭酸ガスについては、原料ガス不足の影響を大きく受けた前年度から回復基調で推移した。
エレクトロニクス事業は、半導体市況が停滞し、需要減の影響を受ける中においても、大手半導体工場向けのオンサイトガス供給が一定の稼働率を維持するとともに、半導体製造の前工程で使用される高純度薬品や塗布材料などが伸長し、業績を下支えした。また、国内で半導体工場の新増設が相次ぐ中、特殊ケミカル供給機器などの販売が拡大したことで、半導体製造装置向け熱制御関連機器の販売が減少した影響を補った。
機能材料事業は、半導体製造装置向けOリング(シール材)や精密研磨パッドなどのエレクトロニクス関連製品が顧客の在庫調整による影響を受けたことに加え、顧客における農薬製品の生産調整を背景にナフトキノンの販売が低調に推移し、前年度を下回った。
エネルギーソリューション
セグメント売上収益は665億8800万円(前期比96.2%)、営業利益は40億4200万円(同94.9%)。
エネルギー事業は、低・脱炭素需要が高まる中、顧客に対して重油からLNGへの燃料転換を積極的に進めた。このような状況の下、LNGタンクローリーや小型LNGサテライト設備の販売が順調に推移した。また、北海道を中心とした家庭向けLPガス供給は、IoT技術を活用した配送の効率化や販売店の商権買収などの直売比率を高める施策により、収益力の強化に努めた。しかし、輸入価格に連動してLPガスの販売価格が前年度より下回ったこと、在庫評価影響等により、売上・利益ともに前年度を下回った。
ヘルス&セーフティー
セグメント売上収益は2308億6500万円(前期比97.8%)、営業利益は150億7800万円(同97.4%)。
事業全体では、コロナ禍を経て変化する医療現場の様々なニーズに対応するため、グループ会社の統合再編を実行するとともに、原材料や人件費の上昇に対応する生産合理化や価格改定に取り組んだ。データセンター向けガス消火設備の受注が拡大する防災事業は総じて堅調に推移したものの、コロナ関連の需要が減少した影響により、売上・利益ともに前年度を下回った。
メディカルプロダクツ事業は、医療ガス分野において価格改定や低採算案件の見直しにより収益性が向上したほか、一酸化窒素吸入療法の症例数が増加した。また、介護施設向けシャワー入浴装置「美浴」の販売が順調に拡大した。一方、酸素濃縮装置の自治体向けリース契約が前年度末に終了した影響を受けた。
防災事業は、国内及びシンガポールにおける病院のリニューアル工事が回復基調で推移するとともに、データセンター向けのガス消火設備工事の受注増加や消防向け呼吸器の販売回復により、堅調に推移した。
サービス事業は、病院の経営効率を高める施策の提案を通じて新規顧客の獲得を進めたが、SPD(病院物品物流管理)の新規受注に伴う立上げコストが発生したほか、一部大型病院との契約終了の影響を受けた。
コンシューマーヘルス事業は、エアゾール・化粧品分野において積極的な提案営業により化粧品の受託製造が伸長したが、マスクや手指消毒剤などの感染管理製品やワクチン針の需要が減少した影響を受けた。
アグリ&フーズ
セグメント売上収益は1626億1000万円(前期比106.4%)、営業利益は69億1700万円(同125.4%)。
事業全体では、価格改定や生産効率の改善を通じて収益力が向上した。また、飲料の製造受託量が増加するとともに、青果小売分野の拡大やM&Aに伴う新規連結効果により、好調に推移した。
フーズ事業は、ハム・デリカ分野では商品開発に注力したコンビニエンスストア向け総菜の新規採用が進み、スイーツ分野では鶏卵不足が緩和されたものの、一部製品においてインフレ影響による買い控えの影響を受け、総じて前年度並みとなった。
ナチュラルフーズ事業は、飲料充填ラインの増強投資や自社ブランド商品の拡充とともに、得意とする野菜・果実系飲料や大口顧客向けのペットボトル飲料などの受託製造が拡大し、好調に推移した。
アグリ事業は、北海道を中心とする農産・加工分野において農産品の生育不良や不安定な相場が継続したが、青果小売分野においてコロナ禍の収束により全国的に客足が回復したことに加え、農産物直売所の新規出店効果もあり、順調に推移した。また、九州で青果仲卸事業を展開する丸進青果㈱を新規連結した。
その他の事業
セグメント売上収益は2250億6700万円(前期比107.8%)、営業利益は108億0200万円(同210.3%)。
物流事業は、低温物流ネットワークの拡充による新規顧客の獲得とともに、受託料金の改定や働き方改革、業務効率化に資するデジタル活用を進めた。しかしながら、コロナ禍にて特需のあった感染性廃棄物の取扱量減少や、新設した低温物流センターが本格稼働するまで一時的な費用が先行したことで、前年度を下回った。
㈱日本海水は、石炭や資材などの価格上昇に対応して、製品価値に見合った適正価格での販売及びコスト削減に努めた。電力分野では、発電燃料の海上輸送コストが下落基調で推移したことに加え、苅田バイオマス発電所(福岡県苅田町)が2023年8月より営業運転を開始したことで、売上・利益ともに前年度を上回った。
グローバル&エンジニアリング事業では、インド産業ガス分野は、旺盛な需要を背景に鉄鋼向けオンサイトガス供給及び外販ガス供給ともに、堅調に推移した。北米産業ガス分野は、現地ガスディストリビューターを通じた外販ガス供給が順調に推移するとともに、米国カリフォルニア州を中心に水素供給インフラ整備の本格化を背景に、水素関連機器の販売が順調に推移した。なお、北米においてヘリウムガス供給事業を展開するAmerican Gas Products, LLCを新規連結し
た。高出力UPS(無停電電源装置)分野は、アジアや欧州における工事遅延などの解消に加え、生成AIの利用拡大を背景にした市場成長に伴い、東南アジアにおいて、大型データセンター向けの無停電電源プロジェクトを受注したことで、好調に推移した。
電力事業は、発電燃料の海上輸送コストが下落したことに加え、荷揚げ港湾施設における滞船日数の短縮化の取り組みを進めたことで、前年同期より業績が大きく改善した。
今後の見通し
2025年3月期の通期連結業績予想は、売上収益1兆1000億円(前年同期比7.4%増)、営業利益780億円(同14.2%増)、親会社株主に帰属する純利益500億円(同12.7%増)とし、すべてのセグメントで増収増益を見込む。配当金予想は中間配当32円、期末配当32円の年間配当64円。
エア・ウォーターは2030年度に目指す姿「terrAWell30」の達成に向けて、グループの経営資源である「多様な事業・人材・技術」のシナジーによって生み出される価値の最大化を実現するという考えのもと、「地球環境」と「ウェルネス」という2つの成長軸を設定し、成長領域の拡大、収益力強化、新規事業創出に取り組む。
海外展開については、規模・成長性の両面で需要拡大が見込まれるインドと北米を重点戦略エリアとして、国内市場でこれまでに培った機器・エンジニアリング技術を活用し、ガス需要を着実に捉えたサプライチェーンを構築することにより、事業拡大を加速する。
国内既存事業については、グループ会社の統合再編をはじめとした構造改革を継続するとともに、価格マネジメント、人材の最適配置、物流・調達の効率化、DXなどにより収益性を向上させ、稼ぐ力を高める。また、脱炭素社会の実現に向けた技術開発や地域の社会課題解決に貢献する新たなビジネスモデルの構築を進める。
グループの中長期的な企業価値向上に向け、今後も、継続的な成長投資が不可欠であると認識し、さらなる市場拡大が期待できる「インド・北米における産業ガス事業」に加え、国内の産業基盤強化に向けて積極的な環境整備が図られている「半導体・デジタル産業」、「脱炭素・GX(グリーントランスフォーメーション)」、「食の安定供給を見据えた農産分野」を中心に、事業成長の源泉となる設備投資や事業領域の拡充を図るM&A投資を行っていく予定。一方で、バランスシートのマネジメントを強化し、資本効率性の向上にも取り組む。
事業戦略と人材戦略は会社経営の両輪であるとの認識から、人的資本投資についても強化する。グローバル人材150名の育成や自立的なキャリア形成を促す人事制度改革を実行するなど、価値創造の中核を担う人的資本の強化に努める。
サステナビリティの取り組みとしては、カーボンニュートラルに向けて、自社の温室効果ガス(GHG)排出量を減らす「責務」だけにとどまらず、事業活動を通じた社会のGHG排出量削減への「貢献」との両面で取り組みを推進する。