知多髙圧ガスと知多市など13者、低炭素水素モデルタウンの事業化可能性調査を開始

「知多水素ステーション」周辺エリアをモデルケース

 愛知県は、知多髙圧ガスや知多市、日本環境技研株式会社、明治電機工業株式会社、東亜合成株式会社をはじめとする13の企業等と連携して、「愛知県知多市における 低炭素水素モデルタウンの事業化可能性調査」を開始する。環境省が公募した「令和 6 年度既存のインフラを活用した水素供給低コスト化に向けたモデル構築・FS※1事業」の採択を受けた。2024年度にモデル構築に向けた FS 調査を実施、環境省の実証事業に申請し、採択されれば2025 年度~2028 年度にFS 調査の結果を踏まえた実証事業を実施する。

※1 Feasibility Study の略。プロジェクトの実現可能性を事前に調査・検討すること。

 事業では、愛知県が全国一の設置基数(35箇所)を誇る水素ステーションを、地域の水素供給拠点として社会実装することを目標に、知多髙圧ガスが運営する「知多水素ステーション」から FCV車だけでなく、公共施設や住宅に設置した燃料電池や水素給湯器など、幅広い利用先に低炭素水素を低コストに供給する事業について、事業化可能性調査を実施する。

「愛知県知多市における 低炭素水素モデルタウンの事業化可能性調査」
事業イメージ (実線内は既存設備)

本事業の概要

 知多水素ステーション周辺エリアをモデルケースとして、商用車を中心とした運輸部門に加えて、燃料電池・給湯器・ボイラーなど業務・家庭部門における地域での新たな水素需要の創出可能性と、水素ステーションを起点として低炭素水素を地域に合理的に供給するシステムの実現可能性を調査する。低炭素水素については、オンサイトで太陽光発電を用いた水電解装置により製造する水素や塩電解水素※2等、周辺エリアの動向を踏まえた幅広い調達可能性を検証し、地域の脱炭素化に貢献するサプライチェーンの構築を目指す。

 また、既存インフラである知多水素ステーション及び太陽光発電や、地域の廃棄物発電・FIT 切れ※3 再エネ発電等の電力、水素の新型輸送容器、将来的な海外水素等の活用によりサプライチェーンの低コスト化を検証する。これらを踏まえ、事業成立に向けた要件を明確化するとともに、県内全域に普及展開できるモデル構築を目指す。

※2 塩水を電気分解して苛性ソーダを生産する工程において、同時に生成する水素のこと。
※3 「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」(FIT 制度)の買取期間が終了すること

調査・検討内容

項目概要
水素をつくる 水素ステーション敷地内での太陽光発電と SOEC 型水電解装置※4による低炭素水素の製造や、低コストな再エネ電源として地域の廃棄物発電・FIT 切れ再エネ発電からの電力調達、周辺エリアの塩電解水素等の水素製造拠点からの多様な水素調達等、安定的かつ低コストな低炭素水素確保等について調査する。
水素をはこぶ・ためる 水素ステーションから水素貯蔵モジュール※5 や軽量容器等を用いて水素を出荷し、街中に供給する合理的な供給網を調査する。業務・家庭部門等の需要側に合わせた容器の選定や設置方法、既存のガス配送網を生かした供給のビジネスモデル等を検討する。
水素をつかう 地域の送迎バス・タクシー・路線バス等による運輸部門の需要集積をベースに、公共施設及び一般家庭での電気・熱需要等の水素転換による街利用をメインターゲットに、現行機器の稼働状況を踏まえ、利用機器ごとに現実的な水素需要を算出する。また、その他の水素利用シーンを探索する。

※4 固体酸化物形水電解装置(Solid Oxide Electrolysis Cell)。セラミック膜を電解質とし、高温(700℃)の水蒸気を電気分解して水素製造を行う装置。水の性質として、高温では電気分解に必要なエネルギーが少なくなるため、低温で電気分解する手法と比較して消費電力を減らすことができる。
※5 MIRAI や燃料電池商用車で採用している軽量で水素貯蔵量が多い樹脂製タンクを使用してモジュール化したもの。70MPa の高圧で貯蔵可能で、従来の金属製カードルよりも軽量である。既存の金属製タンクに比べて水素搭載量は 4 倍。

実施体制

  • 代表者:愛知県(事業の全体総括)
  • 共同実施者※6
    • 知多市(水素利用公共施設の検討)
    • 日本環境技研株式会社 (サプライチェーン全般のFS・調査とりまとめ)
    • 明治電機工業株式会社 (エンジニアリングに関する調査)
    • 知多髙圧ガス株式会社 (水素配送ビジネスの FS)
    • 東亞合成株式会社 (低炭素水素製造の FS)
  • 協力者※7
    • 株式会社デンソー (SOEC 型水電解装置に関する情報提供)
    • トヨタ自動車株式会社 (水素貯蔵モジュールに関する情報提供)
    • JFE コンテイナー株式会社 (水素運搬用軽量容器に関する情報提供)
    • リンナイ株式会社 (家庭用水素給湯器に関する情報提供)
    • ブラザー工業株式会社 (燃料電池に関する情報提供)
    • 株式会社大林組 (工事現場への水素輸送、EMS※8に関する情報提供)
    • コベルコ建機株式会社 (燃料電池ショベルに関する情報提供)
    • オートリブ株式会社 (燃料電池バス導入に向けた情報提供)

※6 主体的に FS 調査等を実施する企業等。
※7 実証事業に導入する水素関連機器のメーカー等。
※8 エネルギーマネジメントシステム(Energy Management System)は、本事業では、1 か所の水素ステーションから、複数の施設等に水素運搬を実施したり、燃料電池バス等に水素を供給したりすることから、効率的に水素を運搬・供給が実施できるように各種データを連携するシステム。

【参考】本事業の背景

- 街中における水素利用の具現化の必要性 -

 愛知県は「あいち地球温暖化防止戦略 2030(改定版)」において、2030 年度の CO2削減目標を 2013 年度比▲46%と定める中で、業務部門(▲69.2%)・家庭部門(▲77.6%)の目標値を高く設定している。目標達成には、再エネ導入拡大のみならず、燃料電池の導入促進や熱分野の燃料の脱炭素化など、街中での水素利用の具体化が必要である。

- 水素供給拠点として知多水素ステーション(知多市)を選定した理由 -

 街中での水素利用の実現には、これまで先行して FCV 向けの水素供給インフラとして構築が進められてきた水素ステーションを、地域の水素供給拠点として活用し、水素の街利用における供給網を構築することが必要である。
 知多市の知多水素ステーションでは、FCV 以外への水素出荷及び太陽光発電による水素製造を検討している。また、知多市沿岸部においては大規模な水素製造工場が建設され、海外水素等の拠点整備が計画されている。これらのことから、知多市を水素の街利用における供給網を構築する調査検討フィールドとして選定した。