慶大とエア・ウォーター、世界初となる注射針レベルのGI-POF極細内視鏡(Cellendo Scope)の共同研究発表会を開催

製造業など産業分野でも応用可能、評価用極細内視鏡のレンタルサービスを2025年5月から開始

 慶應義塾大学とエア・ウォーターは2025年4月21日、世界初となるGI-POF(屈折率分布型プラスチック光ファイバ)技術を応用した注射針レベルの極細ディスポーザブル内視鏡「GI-POF極細内視鏡(Cellendo Scope)」の共同研究発表会を開催する。これまでの研究開発成果を報告するとともに、各医療応用研究の本内視鏡応用による医療プロセス変革への取り組みを発表する。

超高速屈折率分布型プラスチック光ファイバ
超高速屈折率分布型プラスチック光ファイバ


 また、GI-POF技術は医療分野のみならず産業分野においても応用可能であるとして、Cellendo Scopeの活用が期待できるアンメットニーズを顧客と共に探求していくため、2025年5月より評価用極細内視鏡のレンタルサービス(月額6万円/台、税別)を開始する。近年、社会問題となっているインフラの老朽化対策として、人が立ち入ることができない場所や手の届かない箇所においても正確な状況が確認でき、人手不足の解消や作業工数の大幅な改善につなげる。

 慶應義塾大学の医学部整形外科学教室の中村雅也教授、新川崎先端研究教育連携スクエアの小池康博特任教授(慶應フォトニクス・リサーチ・インスティテュート(KPRI)所長)と、エア・ウォーターは2023年4月に共同で、世界初となるGI-POF(屈折率分布型プラスチック光ファイバ)技術を応用した注射針レベルの極細ディスポーザブル内視鏡の開発に成功。

 以降、連携して、GI-POF極細内視鏡の画質向上にかかる光学レンズ性能の向上に努め、得られた成果については国内外の医学系・光学系学会や展示会等で共同発表を行い、現在は整形外科領域における新たな関節内視鏡として、量産品質向上と薬機法認証に向けた準備を開始している。さらに、当初想定していた関節内部の観察のみならず、耳科分野や革新的がん光治療技術など様々な医療分野において極細内視鏡の応用研究が実施されている。注射針レベルの細さにより、患者の痛みや感染リスクの低減につながり、効率的な医療の提供、ひいては医療費の適正化への寄与が期待される。

Cellendo Scopeの研究開発成果と今後の展開

Cellendo Scopeシステム構成
(図1)Cellendo Scopeシステム構成

 Cellendo Scopeは、画像伝送のためGI-POFレンズを採用している。慶應義塾大学小池康博特任教授が発明したGI-POF技術を応用したレンズは、高精細な画像伝送が可能であり、画像伝送解像度は約200LP/mm(1mmの幅に400本の線が見える)に達する(図2左)。本レンズは樹脂成型により製造が可能であり、φ0.1~0.5ミリメートルの細さを自由に選択できる。一般的な極細径内視鏡に用いられるガラス製のレンズと比較し、衝撃に対する耐性が高く、低コストでの製造が可能。

 Cellendo Scope先端には対物レンズが、筐体部分には結像レンズとイメージセンサ、照明デバイスが搭載されており(図1)、先端部前方1~50ミリメートル、視野角約90°の範囲の画像を取得することができる。また、独自の照明光学系を有し、体腔内観察用の照明光照射はもちろん、同じ光路を通して内視鏡先端から特殊な光を体内に照射することも可能となる。

 Cellendo Scopeの細径、高精細といった特徴は、より低侵襲(患者への身体的負担が小さい)な医療を実現する。また、光学的な多機能性を活かし、患部観察と光照射による治療を同時に実現する、新たな治療法の開発が期待されている。エア・ウォーターでは、低コストでの製造方法開発を進め、内視鏡先端部(図1)の単回使用(ディスポーザブル)化を目指し、経済的にもより負担の小さい医療に貢献するとしてる。

産業・工業・農業分野への応用展開に向けて評価用極細内視鏡のレンタルを開始

評価用GI-POF極細内視鏡
評価用GI-POF極細内視鏡

 現在エア・ウォーターでは、Cellendo Scopeの医療向け研究を進めているが、細径・高精細といった本製品の特徴を生かし、医療分野以外への応用展開の可能性を検討する。例えば近年、社会問題となっているインフラの老朽化対策として、人が立ち入ることができない場所や手の届かない箇所に本製品を活用することで、正確な状況の確認ができる。対象分野としては、以下が挙げられる。

  1. 自動車関連:自動車の車体やエンジン検査の際、駆動部を分解することなく、内部の詳細検査を実施することが可能で、今まで見えなかった部分が可視化できる。
  2. 道路・インフラ:道路の路面や橋脚の亀裂の発見とその内部の詳細な状態確認、下水道の配管内検査など、非破壊状態で観察でき、未然の対処につながる。
  3. 工場関連・研究施設:工場の製品ラインにおける微細な不良の検査による生産効率や解析効率の向上に寄与することができ、人手不足の解消や作業工数の大幅な改善につながる。また、大学や研究施設などでは、今まで観察することができなかった極小細胞レベルの観察にも活用できる。
  4. 農業・新分野関連:農業分野においては、農産物内部の生育状況の観察も可能で、新分野においては様々な研究と連携し新技術の発展に期待ができる。

 また、本製品はスマートデバイスと接続することが可能なため、撮影した画像をリアルタイム通信によって遠隔地に共有することができる。

用語説明

  • GI(Graded Index)型:光ファイバのコアの屈折率分布に勾配(高い部分から低い部分まで連続している)があるもの。反対にコアの屈折率分布が一様なものをSI(Step Index)型と呼ぶ。
  • Cellendo Scope:GI-POFを採用した極細内視鏡シリーズ名。Cell(細胞)レベルの対象を診ることができるほどの解像度を持つEndoscope(内視鏡)の意の造語、商品呼称
  • POF(Plastic Optical Fiber):ガラス材料の光学ファイバに対して、プラスチック材料の光学ファイバのこと。
  • ディスポーザブル:使い捨て可能の意味。一回のみ使用可能で、洗浄・滅菌しての再利用をしないものを指す。反対に再利用可能なものをリユーザブルと呼ぶ。