エア・ウォーター 2025年3月期通期連結決算(IFRS)
2026年3月期通期業績予想は売上収益1兆1500億円(6.9%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益530億円(8.0%増)、増収増益
エア・ウォーターの2025年3月期通期連結決算(IFRS)は、売上収益1兆0759億2900万円(前年同期比5.0%増)、営業利益752億4600万円(同10.2%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益490億7400万円(同10.6%増)だった。物価上昇、為替変動の影響を受けるなど、厳しい事業環境であったものの、価格マネジメント、生産性向上のほか、半導体工場の新増設に伴う機器・工事事業、AI関連需要を背景としたデータセンター向けガス消火設備・高出力UPS事業の拡大等により、増収増益となり過去最高業績を達成した。
株主に対する利益還元の一層の充実を図る目的として、これまでの配当性向30%の基準を改定し、35%へ引き上げた。同時に中長期的に業績に見合った安定的な配当を行うため、累進配当を基本方針とする。直近の期末配当予想を11円増配し32円から43円に修正、中間配当32円とあわせて年間配当金75円(前期は64円)とした。
当期は、成長領域と位置付けるデジタル・半導体関連事業やインド、北米等の海外の産業ガス関連事業の強化を図った。国内既存事業においては、低採算案件の見直しを含めた価格マネジメント、生産性向上や効率化など、収益力を強化した。
成長戦略実現のため、北海道の社会課題解決に関わる新事業の創造、開発、発信拠点「エア・ウォーターの森」を2024年12月に開業。2025年1月には、半導体・電池材料開発の中核拠点となる新研究棟「湘南イノベーションラボ」を開所した。オープンイノベーションの推進により、地域課題解決に貢献する新事業の創出に取り組むとともに、技術者を集約し育成を強化することでグループ各社が保有している知見・技術のシナジーを最大化し、新製品開発を加速する。また、2024年5月には、カーボンニュートラルの実現へ向け、家畜ふん尿由来のクリーンエネルギー「液化バイオメタン」の商用利用を開始するなど、製品・事業を通じた取り組みを推進した。
連結セグメント別業績
デジタル&インダストリー
セグメント売上収益は3510億9400万円(前期比102.9%)、営業利益は362億6700万円(同108.0%)。
鉄鋼・化学などの素材分野をはじめ国内の産業ガス需要が減少基調となる中、デジタル・半導体産業における製造拠点の増強に対応した大型プラント投資や新規取引先の開拓によってガス需要を獲得するとともに、特殊ケミカルやガス精製装置、関連工事といった半導体製造を支えるグループ商材・サービスを総合的に展開した。
売上収益は、機能材料分野で無水フタル酸等の有機酸製品やシール材の需要低迷による影響を受けた一方、半導体工場向けガス供給の他、特殊ケミカルおよび同供給装置や半導体製造装置向け熱制御機器などデジタル・半導体関連事業が好調に推移したことで前期を上回った。営業利益は、機能材料分野やヘリウム調達コストの影響を受けたが、デジタル・半導体関連事業が好調に推移したことに加え、産業ガスの価格マネジメント効果やプラント稼働における生産性の向上も寄与し、順調に推移した。
エネルギーソリューション
セグメント売上収益は709億1800万円(前期比106.5%)、営業利益は45億1000万円(同111.6%)。
低・脱炭素需要が高まる中、顧客に対して重油から液化天然ガス(LNG)への燃料転換を積極的に進めた他、社会のカーボンニュートラル化に寄与する共同実証などに取り組んだ。北海道を中心とした家庭向けLPガス供給事業は、販売店の商権取得等による直販体制拡大、IoT技術を活用した配送の効率化など、収益力を強化した。
LPガス、灯油、LNG等製品全般が市況価格に連動し、年間を通して販売価格が高水準で推移したこと、LNG関連機器の拡販が寄与したことにより売上収益は、前期から大きく伸長。営業利益は、LPガス販売における低採算取引の見直しなども加わり、増益となった。
ヘルス&セーフティー
セグメント売上収益は2460億8300万円(前期比106.6%)、営業利益は150億9900万円(同100.1%)。
医療用ガスの供給基盤を活かして医療機関のニーズを把握し、医療機器の開発、病院業務のアウトソーシング受託に注力した。手術室の改修案件など病院設備工事の直接受注による収益力強化に取り組んだ。
コンシューマーヘルス分野では、事業拡大に向け、グループリソース最大化、サプライチェーン拡充など体制強化を進めた。
国内における病院向けの新規工事案件やエアゾールの受託製造が前期に比べて減少したものの、医療機器や医療消耗品の販売拡大や衛生材料の価格改定効果があった。また、一酸化窒素吸入療法の症例数が増加した他、介護用シャワー入浴装置の販売が好調に推移。防災分野は、海外での病院向け工事案件、国内でのデータセンター向け工事案件が堅調に進展した。これらの結果、売上収益、営業利益は前期を上回った。
アグリ&フーズ
セグメント売上収益は1744億8000万円(前期比107.3%)、営業利益は62億1900万円(同89.9%)。
持続可能な農業と食料安定供給システムの実現を目指し、スマート農業・鮮度保持関連の技術開発の強化や農産品の取扱量拡大に取り組んだ。協業強化に取り組み、物流基盤を活かし、原料野菜の調達や青果流通・加工におけるサプライチェーンプラットフォームの構築も進めた。
野菜・果実系飲料等の受託製造が増加したことに加え、北米市場での冷凍ブロッコリーや北海道産馬鈴薯や人参等の販売が拡大、青果仲卸事業を展開する丸進青果㈱を前期に新規連結したことが寄与した。これらの結果、売上収益は前期を上回った。一方、営業利益は、ハム・デリカにおける豚肉の原料高やスイーツにおけるコンビニエンスストア向けの採用が減少した影響、一過性費用を計上したことから前期を下回った。
その他の事業
セグメント売上収益は2333億5300万円(前期比104.5%)、営業利益は125億8600万円(同115.8%)。
物流事業は一般貨物及び食品輸送が堅調に推移する中、受託料金適正化の取り組みやデジタル技術活用による業務効率化を進めた。加えて、協業による青果物等の荷扱量、産業廃棄物の取扱量が増加したことから前期を大きく上回った。
㈱日本海水は、電力事業における燃料ガス価格上昇の影響があったが、塩事業における融雪塩や食品事業における海苔・ふりかけの販売が好調に推移したことで前期を上回った。
電力事業は小名浜バイオマス発電所で、大規模点検により例年に比べ稼働日が減少した影響があったが、発電燃料であるPKS(パーム椰子殻)の市況低下やコスト低減の取り組みが寄与したことから営業利益は前期を上回った。
グローバル&エンジニアリング事業では、インド市場は、鉄鋼向けオンサイト供給が堅調に推移した他、新規顧客に対してローリー・シリンダー供給による産業ガスの拡販が順調に推移した。北米市場は、建設中の自社ガスプラント稼働に向け、新規取引先獲得に努めた。また、前期に新規連結した産業ガス関連2社が収益に貢献した。高出力UPS(無停電電源装置)分野はデータセンター及び半導体メーカーの設備投資の増加を背景に、引き続き好調に推移した。
これらの結果、その他の事業セグメントは売上収益・営業利益ともに前期を上回った。
今後の見通し
2025年3月期の通期連結業績予想は、売上収益1兆1500億円(前年同期比6.9%増)、営業利益840億円(同11.6%増)、親会社株主に帰属する当期利益530億円(同8.0%増)とし、すべてのセグメントで増収増益を見込む。最先端半導体関連向け事業の拡大、機能材料・コンシューマーヘルス分野の回復のほか、産業ガス・業務用塩を中心とした価格マネジメントを継続する。配当金予想は中間配当37.5円、期末配当37.5円の年間配当金75円。
エア・ウォーターは2030年度に目指す姿「terrAWell30」の達成に向けて、グループの経営資源である「多様な事業・人材・技術」のシナジーによって生み出される価値の最大化を実現するという考えのもと、「地球環境」と「ウェルネス」という2つの成長分野を設定しており、成長領域の拡大、収益力強化、新規事業創出に取り組んでいる。
具体的には、成長領域である海外、デジタル・半導体向け産業ガス事業の拡大に向けたエンジニアリング強化のため、2025年4月に大阪府堺市で「グローバルエンジニアリングセンター」が稼働開始。グローバルな成長戦略の実現と海外グループガバナンス強化に向け、グローバル戦略推進本部を新設。新規事業創出に向け、研究所の新設や統合を行い、研究開発活動を強化、グループシナジー最大化を目指し、事業ユニットの新設・再編等、組織改革を行った。
これら経営基盤の強化、整備に加え、「人を活かす経営」を推進し、グローバル成長戦略を担う次世代の人材育成など人的資本投資を強化し、中長期的な成長を実現する。
現時点では、米国の関税政策によるグループ業績への影響は軽微と認識している。主力の産業ガス事業は地産地消のビジネスモデルであり、各国の関税政策の直接的な影響を受けることはないが、主要ユーザーの製造業への関税影響は不確実な状況のため、今後も注視するとしている。