岩谷産業 2025年3月期通期連結決算

セパレートガス販売は堅調も、中国を中心にヘリウム市況が軟化、営業利益は前期比8.7%減

 岩谷産業の2025年3月期通期連結決算は、売上高8830億1100万円(前年同期比4.1%増)、営業利益462億2800万円(同8.7%減)、経常利益614億8700万円(同1.3%減)、親会社株主に帰属する当期純利益404億4800万円(同6.9%減)となった。2024年5月13日公表の直近業績予想から、売上高で189億8800万円減少、営業利益が64億7100万円減少、経常利益で113億1200万円減少、親会社株主に帰属する当期純利益が135億5100万円減少となった。

 売上高は、次世代自動車向け二次電池材料の販売低迷等により、前回発表予想を下回った。営業利益は、エアセパレートガスの販売は堅調に推移したものの、中国を中心にヘリウムの市況が軟化したこと等により収益性が低下した。また、コスモエネルギーホールディングス株式会社に係る持分法投資利益の減少に加え、オーストラリアの水素関連プロジェクトの撤退損を計上したこと等により、経常利益及び親会社株主に帰属する当期純利益も前回発表予想を下回った。

 2025年3月期の期末配当を直近予想の32.5円から47円(前期実績は130円。2024年10月1日付で普通株式1株につき4株の割合で株式分割を実施)へ増配した。配当方針は、①コスモエネルギーホールディングスの持分法化に伴う利益影響を除く親会社株主に帰属する当期純利益、②コスモエネルギーホールディンスの持分法化に伴う利益影響の2つに区分して配当するとしており、直近の配当予想においては、②に関する配当を含めていなかったが、利益影響が確定し、配当金は1株当たり14.5円とした。また、①に関する配当は、業績の状況等を踏まえ、期初配当予想通りの1株当たり32.5円とした。

当期の経営成績の概況

 水素エネルギー社会の実現に向け、燃料電池バス専用の水素ステーション「岩谷コスモ水素ステーション有明自動車営業所」を東京都交通局の営業所内に開所した。また、水素燃料電池船「まほろば」による2025年大阪・関西万博での旅客運航を開始し、モビリティ用途としての水素活用を推進した。
 脱炭素戦略の一環として、カーボンオフセットカセットガスの販売を開始。岩谷産業が販売するカセットガスのカーボンフットプリントを算定し、自社で創出したJ-クレジットを活用してCO2をオフセットした商品で、カセットこんろ用ボンベ業界では初めての取り組みとなる。また、2025年大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンに対してカーボンオフセットしたLPガスを供給するなど、脱炭素社会に向けた取り組みを推進した。
 重要鉱物資源の安定調達に向けては、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と合弁会社「日仏レアアース株式会社」を設立し、希少資源であるレア・アースを生産するフランス企業と出資契約を締結した。これにより、生産する重希土類の50%を長期調達する。岩谷産業は、1990年代よりレア・アースの輸入・販売を始めており、今後も日本の重要鉱物のサプライチェーン構築に貢献するとともに、安定供給力の強化により事業拡大に取り組む。

 セグメント別の状況は次のとおり。

【総合エネルギー事業】

 売上高は3787億8200万円(前年同期比216億4900万円の増収)、営業利益は195億2600万円(同6億4600万円の減益)。

 LPガス輸入価格が高値で推移したことに加え、工業用LPガスの販売が堅調に推移し、増収。利益面においては、エネルギー関連機器等の販売が堅調に推移した。一方、LPガスは卸売部門で販売数量が減少し、小売部門では新規連結により販売数量が増加したものの、コスト上昇により収益性が低下した。また、市況要因による増益影響が縮小(前年度比5億4000万円の減益)し、減益となった。

【産業ガス・機械事業】

 売上高は2714億4900万円(前年同期比92億7900万円の増収)、営業利益は175億7200万円(同41億3300万円の減益)。

 エアセパレートガスについては、電子部品業界向けを中心に販売数量が堅調に推移した。水素事業は、宇宙開発や脱炭素用途として、液化水素の販売数量が増加。特殊ガスについては、国内外で冷媒事業が拡大したものの、中国を中心にヘリウムの市況が軟化したことにより、収益性が低下した。また、機械設備については、脱炭素用途・脱硝用途のアンモニア供給設備や、電子部材の販売が伸長した。

【マテリアル事業】

 売上高は2016億8500万円(前年同期比34億4200万円の増収)、営業利益は117億4800万円(同5億5700万円の減益)。

 エアコン向け成形品や消費者向け樹脂製品の販売が堅調に推移。また、バイオマス燃料や食品包装向けアルミ箔の売上が伸長した。一方で、ステンレスの販売価格が下落するとともに、次世代自動車向け二次電池材料の売上が低調に推移。ミネラルサンドについては、豪州自社鉱区の収益性が低下した。

【その他】

 売上高は310億9300万円(前年同期比7億5100万円の増収)、営業利益は33億0600万円(同5億3000万円の増益)。

今後の見通し

 総合エネルギー事業は、引き続きM&A等によるLPガス直売顧客数の拡大と、エネルギー関連機器等の拡販による販売数量の増加に加え、物流合理化により収益性の改善に努める。エネルギーの低炭素化に向けた取り組みでは、燃料転換の推進やカーボンオフセットガスの販売強化、グリーンLPガスの開発を推進する。カートリッジガス事業においては、東南アジアを中心に地域のニーズに合わせた新商品の開発に努め、海外事業の拡大に取り組む。
 産業ガス・機械事業は、エアセパレートガスや特殊ガスの調達・物流コスト上昇への対応を強化するとともに、拡大が見込まれるデータセンターやAI市場向けの拡販に注力する。また、脱炭素に関連した水素やアンモニア等の設備販売を強化。水素エネルギー社会の実現に向け、脱炭素需要の着実な取り込みと、CO2フリー水素サプライチェーンの事業化を推進する。
 マテリアル事業は、ノルウェー産グリーンチタン鉱石の販売開始、バイオマス燃料の拡販に加え、リサイクルPET事業を推進する。ステンレスについては国内加工拠点を活用し、販売数量の拡大を図る。また、重要鉱物資源の確保に向けて、引き続き取り組みを進める。
 2026年3月期の通期連結業績見通しは、売上高9364億円(前年度比6.0%増)、営業利益491億円(同6.2%増)、経常利益631億円(同2.6%増)、親会社株主に帰属する当期純利益488億円(同20.6%増益)を見込む。中間配当ができる旨の定款変更議案を2025年6月18日開催予定の第 82 回定時株主総会に付議することを決議、原案通り承認されることを前提に、2026年3月期の中間及び期末配当予想をそれぞれ23.5円とし、年間配当金47円を維持した。