「ケミカルマテリアルJapan2025」で次世代高圧ガス容器「CubiTan」を展示
多孔性配位高分子PCP/MOFのスタートアップ、アトミスが開発
多孔性配位高分子PCP/MOFの設計・製造・販売を行う株式会社Atomis(アトミス)は、2025年11月27日・28日に東京ビッグサイトで開催された「ケミカルマテリアルJapan2025」に出展し、自社で開発を行う次世代高圧ガス容器「CubiTan®(キュビタン)」を実機展示、コンパクトで軽量なCubiTanとIoTモジュールを活用した革新的な高圧ガス流通システムの提案を行った。
CubiTanは容器本体に金属を使用せず、プラスチックライナー(容器)を炭素繊維で巻いて強化したCFRP容器(タイプ4)と呼ばれる高圧ガス容器。同じ10リットルの内容積を持つ金属製高圧ガスボンベとの比較で、容器重量が55%減と軽量、占有体積が80%減とコンパクトなことが特長で、容器外側のカバー全体がキューブ(直方体)型のため縦方向への積載も可能となる。また、圧力や温度センサー、IoTモジュールを搭載しており、通信を使ってCubiTanの状態(位置・温度・圧力・衝撃)を可視化することができる。
現在、広く普及している金属製の高圧ガスボンベは、細長い円柱状で大きく重いため、配送や維持管理にかかる人件費や燃費がかさむことが課題とされ、その形状から設置場所での容器転倒防止のためにキャビネットの使用やチェーン掛けが不可欠となっている。また、容器表面に刻印された容器番号の目視による管理や、圧力計器の目測による高圧ガスの状態確認など、アナログな管理方法に頼らざるを得ないのが現実となっている。
CubiTanは内容積10リットルで、外形サイズが363×295×295(mm)と小型で直方体のため積載効率が高く、容器本体とネックバルブ、樹脂カバー、IoTモジュールを含めた風袋重量が6.1kgと軽量で、人の手で容易に運搬ができることから高圧ガス容器の配送・維持管理のコスト削減が期待できる。
さらに、CubiTanのIoTモジュールとBluetooth Low Energy(BLE)でワイヤレス接続する充電架台型中継器「CubiBase」や車載中継器「CubiLink」、スマートフォンアプリ「CubiApp」の周辺機器も用意されており、これらと統括管理システム「CubiLoop」をLTE回線で繋ぐことで、CubiTanの状態管理だけでなく契約管理や機材の貸出管理、配送ルート計算、ガス消費予測、在庫管理、省エネ可視化などの、様々なサービスが利用可能となる。
現在、開発中のCubiTanは、窒素・アルゴン・ヘリウムと液化炭酸ガス用途の4種類で、最高充填圧力は14.7MPa(液化炭酸ガス用途は11.76MPa)。当初は製造現場や研究施設など省スペース性や遠隔での容器管理が重視される用途や、デザイン性に優れた外観を活かし、インテリアが重要となる飲食店や理美容などの店舗向けでの導入を想定している。
2025年10月にノーベル化学賞を受賞した京都大学高等研究院の北川進特別教授が科学顧問を務めるAtomisは、京都大学発のスタートアップ企業として、北川教授が研究を行う多孔性配位高分子PCP/MOFの実用化に取り組んでいる。
多孔性配位高分子PCP/MOFは、金属イオンと有機配位子から構成されるジャングルジムのような構造をしており、ナノレベルで制御された細孔を持ち、10万種類以上のパターンが存在する。従来の多孔性材料と異なり、高い比表面積や構造の柔軟性を有するものがあり、物質の選択的な分離や吸着による大幅な貯蔵効率の向上をもたらすことが期待されている。
高圧ガス保安法の規制により、現在開発中の国内向けCubiTanにはPCP/MOFは使用されていないが、すでにインドネシアでPCP/MOFを活用したCubiTanによる、天然ガス・バイオガス用途のスマートガスネットワーク構築の実証が実施されている。
「ケミカルマテリアルJapan2025」では、CubiTanの展示のほか、冷媒のリサイクルや消臭、樹脂の高機能化などの分野で実用化が進むPCP/MOFの活用事例や、工場排ガスなど低濃度のCO₂を回収し、CO₂を炭素源としてギ酸やメタノールなどの有用な基礎化学原料を生成する、小規模分散型のカーボンリサイクルシステムの紹介も行われた。


