大陽日酸、NOxの発生量を抑制する「アンモニア燃焼技術」を開発
大陽日酸、大阪大学大学院工学研究科教授の赤松史光らの研究グループは、アンモニア燃焼の工業炉分野への適用を目指して、共同研究を実施し、アンモニアを燃料として、NOxの発生を環境基準以下まで抑制し、同時に火炎の伝熱強化を達成する燃焼技術の開発に成功した。
これにより、産業分野でのエネルギー消費量のおよそ25%を占める各種工業炉分野に対してアンモニア燃焼を適用させ、CO2の排出量を大幅に削減する事が可能となる。
現在、全世界のエネルギーの80%が化石燃料の燃焼により得られており、燃料輸送、貯蔵、自動車からエネルギープラント、工業炉まで燃焼を用いたエネルギーインフラが社会を支えている。日本国内では年間約14億トンのCO2が排出され、その40%を産業分野が占める。
さらにその25%は素形材産業を支える約40,000基におよぶ工業炉から排出され、さらなる省エネルギー技術や化石燃料に代わる新たな燃料を用いる燃焼技術の開発が急務となっている。
アンモニアは、燃焼時にCO2を一切排出せず、従来の化石燃料に対する代替燃料の一つと考える事が出来るが、一方で分子式NH3で示されるように窒素を含んでおり、燃焼時に多量のNOxが生成される可能性がある。
一般的な工業炉で化石燃料を用いる場合、燃焼過程で生成される『すす』と呼ばれる炭素分の微粒子からのふく射が炉内の伝熱に大きく寄与するが、燃料とするアンモニアは炭素原子を含まない為に、すすからの固体ふく射による伝熱が期待できない。そこで、酸素富化燃焼を組み合わせる事で、火炎ふく射を強化するとともに、NOxの生成を抑制する燃焼の手法を確立した。
大阪大学では、研究試験用バーナを用いた基礎実験と数値計算手法により、アンモニア燃焼における酸素富化適用の有効性について火炎温度上昇およびNOx生成抑制の観点から明らかにすると同時に、アンモニア火炎の伝熱はアンモニア燃焼時に発生する水蒸気からのふく射が支配的であることを示した。
大陽日酸では、10kWモデル燃焼炉に適合させるアンモニア専焼およびメタン混焼を可能とする酸素富化バーナを設計、製作し、それぞれの燃焼における火炎温度や伝熱効率、排出ガス成分等の特性について明らかにした。
バーナの燃料に単純にアンモニアを混合して酸素富化燃焼した場合、火炎温度の上昇に伴ってNOx生成量が増加するが、今回の取り組みを通じて火炎温度の上昇によるNOx生成を最小限に抑制するには段階的に炉内の雰囲気を巻き込むことで火炎温度を均一化する多段燃焼と、酸素富化燃焼を組み合わせた燃焼技術が有効であることを見出した。
この技術により、10kWモデル燃焼炉では酸素富化バーナを用いて火炎ふく射を強化すると同時にNOx排出濃度を大幅に低減し、現行の環境基準をクリアするアンモニア燃焼による工業炉運転を実現した。
火炎ふく射の強化に関する検証については大阪大学と共同でアンモニア燃焼のふく射強度の空間分布計測を行い、酸素富化燃焼を適用することで炉内全体に天然ガスの主成分であるメタン燃焼と同程度以上のふく射強度を実現することが可能なことを確認した。
今回の開発により、素形材産業を支える工業炉に対して従来の化石燃料を用いることなく運転することが可能であり、CO2排出量を劇的に削減する大きな可能性を示した。
今後、工業炉の実生産に適用可能な規模である100kWモデル燃焼炉での火炎ふく射強化手法及び低NOx化手法のスケールアップに関する検証を行い、工業炉における開発目標達成の見通しを得ると同時に、アンモニア燃焼技術の工業炉分野への社会実装を目指す。
【用語解説】
NOx:一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)等窒素酸化物の総称。物質が燃焼するとき燃料由来の窒素化合物(例アンモニア(NH3))が酸化することにより生成する場合がある。
エネルギーキャリア:液体水素やメチルシクロヘキサン、アンモニアなど水素を多く含む物質のことで、エネルギー生産地で合成して、化学的に安定な液体として保存、運搬し、エネルギー消費地で水素を取り出すか直接エネルギーに変換して使用する。
アンモニア直接燃焼:水素キャリアであるアンモニアを、分解や精製などの工程を経ずに燃料として利用する燃焼技術。
ふく射、ふく射強度:高温の物体から発せられる熱放射線(電磁波、光)により周りの物体に熱が伝わる現象。固体や火炎がふく射により、熱を放射する。また、その強度。
酸素富化燃焼、酸素富化バーナ:燃焼において酸化剤として空気を用いる通常の燃焼(空気燃焼)に対し、酸素濃度を高めた空気を酸化剤として用いる燃焼技術。高温の火炎が得られる。この燃焼技術に用いるバーナを酸素富化バーナという。
専焼、混焼:燃料としてアンモニア(メタン)のみを用いた燃焼をアンモニア(メタン)専焼、アンモニアとメタンを同時に用いた燃焼を混焼と表記した。
ふく射熱流束:ふく射伝熱により単位時間に単位面積を横切る熱量をふく射熱流束という。