窒化ガリウムの低コスト結晶製造装置を開発
J ST(理事長 濵口 道成)は、産学共同実用化開発事業(NexTEP)の開発課題「THVPE法による高品質バルクGaN成長用装置」の開発結果を成功と認定した。この開発課題は、東京農工大学 纐纈 明伯(コウキツ アキノリ)特別招聘教授らの研究成果をもとに、平成25年8月から平成31年3月にかけて大陽日酸株式会社(代表取締役社長 市原 裕史郎)に委託して、同社開発本部、イノベーション事業本部にて実用化に向けて開発を進めていたもの。
窒化ガリウム(GaN)結晶は青色発光ダイオードとして広く利用されている半導体で、高速スイッチ動作や高耐圧大電流動作に関わるパワーデバイス材料としての特性も高く、現在の主流であるシリコン結晶に比べ非常に大きな優位性がある。
電子デバイス構造の土台となるGaN結晶基板の製造の多くはハイドライド気相成長法(HVPE法)で製造されている。この手法は、結晶の反りなどの理由で厚みを確保することが難しく、種結晶である異種基板上に、1回に1ミリメートル未満のGaN結晶を成長させ、その都度はがして利用する。そのため、炉の清掃など、結晶成長の前後処理にかかる工数などにより、コストと結晶品質の面で、実用的なGaN結晶が製造できなかった。
大陽日酸はHVPE法を発展させ、三塩化ガリウム-アンモニア反応系を用いたトリハライド気相成長法(THVPE法)により、高速、高品質、連続成長を実現するGaN結晶製造装置を開発した。これにより、結晶成長速度では従来の3倍、転位欠陥においては従来の5分の1と、高品質な結晶を高速で形成することに成功した。また反応炉である石英管の劣化が生じにくいこと、成長面積の減少がないこと、不要なポリ結晶成長が生じないことなど、従来法の高コストを引き下げるさまざまな特長も見いだされた。
この新技術により、GaN結晶を厚いバルクで得られれば、スライスしてGaN基板を大量生産でき、安価で高性能なGaNデバイスの開発への突破口になると期待される。