大陽日酸と理化学研究所、難発現タンパク質の合成法を開発

 理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター細胞構造生物学研究チームの 樋口佳恵技師、木川隆則チームリーダー、大陽日酸株式会社メディカル事業本部 SI 事業部 SI イノベーションセンター開発課の矢吹孝担当課長(理研生命機能科 学研究センター客員研究員)らの共同研究チームは、従来の無細胞タンパク質 合成系を改良し、「難発現タンパク質」を低温で効率良く発現する技術基盤の 開発に成功した。

 本研究成果は、難発現タンパク質に関する基礎研究はもとより、それらを活用 した分子診断法や医薬品などの開発研究にも貢献することが期待される。細胞や細胞由来の因子を用いて特定のタンパク質を合成する手法は、生命科学の研究開発で広く用いられている。生きた細胞を用いるタンパク質発現法に対して、細胞由来の因子を用いる無細胞タンパク質合成系は、試験管内で簡便 にタンパク質を合成できる点で優れている。

 一方、無細胞タンパク質合成系は タンパク質の凝集・変性を防ぐための低温反応条件では発現量が低く、これらの 条件を要する難発現タンパク質への応用が課題だった。今回、共同研究チームは、メッセンジャーRNA(mRNA)の構造をほぐす作用を持つ低温ショックタンパク質(CSP)に着目し、CSP が目的タンパク質の低温(特に 16~23℃)での発現量を著しく増加させることを見いだした。

 この発見により、無細胞タンパク質合成系に CSP を添加することで、難発現タンパク質を効率良く発現する方法を開発した。本研究は、科学雑誌『Biotechnology and Bioengineering』のオンライン版(3 月 12 日付)に掲載された。また、理研および大陽日酸は「タンパク 質の製造方法及び無細胞タンパク質合成系キット」として特許を出願中。

無細胞タンパク質合成における温度の影響と低温ショックタンパク質(CSP)の効果

 今回開発した技術は、より多くのタンパク質を解析できるため、タンパク質の 機能や作用機構の解明につながり、基礎研究の加速はもとより、応用研究にも役 立つと期待できる。また、合成可能なタンパク質の種類が多い、安定して使い やすい商品価値の高いタンパク質合成キット開発につながると考えられる。

 さらに、本技術はタンパク質合成をより身近にする可能性を秘めている。室 温やそれ以下の温度でのオンデマンドなタンパク質合成反応が可能となること から、生化学向け研究機材の整わない環境、例えば学校教育、屋外フィールド、 砂漠、密林、山奥といった未開地など、従来とは異なる分野・現場においてタン パク質合成の新しい用途が開けることも期待できるとしている。