光バイオ触媒で常温常圧の空気と水からアンモニアと水素の同時合成に成功
生体触媒に比べて80倍以上の速さで合成
九州大学のカーボンニュートラル国際研究所、三井化学カーボンニュートラル研究センターの石原達己教授、Kosem Nuttavut特任助教、大﨑穣特任助教らの研究グループは、従来のシアノバクテリアの生体機能の一部の代謝系を、光触媒を用いて代替することと、生成したアンモニアの代謝を抑止することにより、常温、常圧下で窒素と水からアンモニアと水素を合成することに成功した。
環境保全の観点から要望されているカーボンニュートラルな社会の達成のため、肥料などに使われるアンモニアの温和な条件での合成を通して持続可能な社会の実現に貢献できるとしている。本研究成果は、オランダ、エルセビア社出版の雑誌「Applied Catalyst B Environment」に2023年10月24日(日本時間)にオンラインで公開された。
アンモニアは現在、肥料として食物の生産に必要不可欠な化学原料であるとともに、各種の工業プロセスや薬の合成の原料として重要な基幹工業原料になる。一方でグリーン水素の可搬媒体としても期待され、その利用が急速に拡大すると期待されている。
アンモニアはFe系の触媒を用いて大気中の窒素と水素からHaber-Bosch法というプロセスで合成されるが、窒素の活性化と化学平衡の観点から、400℃程度の高温と、200気圧以上の高圧を必要とするエネルギー多消費型のプロセスとなっている。そのため合成時に多くのCO2の排出を伴うことが課題であった。
一方、ニトロゲナーゼという酵素は、常温、常圧下で、アデノシン三リン酸(ATP)をエネルギー源としてアンモニアを合成するが、反応速度が非常に遅いという問題があった。今回、シアノバクテリア内のニトロゲナーゼに、光触媒を用いて還元した電子伝達媒体のメチルビオロゲンを用いて、直接、電子を輸送することで、大気中の窒素と水から直接、アンモニアを生体触媒に比べて80倍以上の速さで合成できることを見出した。
今後は、アンモニアの生成速度をさらに向上させることを目的に、他のタイプのニトロゲナーゼの応用と長期安定性の向上、電子伝達系の高速化、無機光触媒の可視光応答化による太陽光エネルギー変換効率の向上などを行う。とくに電子伝達系を工夫することで、アンモニアと水素の生成速度の向上が期待できる。また、5年後の実用化を考えて、パネル型の反応器への応用を行い実用性を高める。