高砂水素パークで次世代・高効率水素製造技術「SOEC」のデモ機稼働
三菱重工製、400kW容量の固体酸化物水蒸気電解装置。総合効率90%-HHV達成に向け前進
三菱重工業は、高砂製作所(兵庫県高砂市)構内に整備している高砂水素パーク内で、次世代の高効率水素製造技術である固体酸化物水蒸気電解「SOEC」(Solid Oxide Electrolysis Cell)のデモ機の運転を開始した。
SOECは、同社がすでに開発・製品化している固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)の技術を応用し、高効率であるという利点に加え、独自の円筒形セルにより他社にはない高圧化を可能にする技術として開発を推進している。
今回稼働したデモ機は、長崎カーボンニュートラルパーク(長崎市)での要素技術開発を経て、SOFCに採用していた技術に基づき設計・製作した400kW容量のもので、高砂水素パークに設置し、運転を開始した。今後、さらなる高出力・大容量化につなげる。
本SOECデモ機は、約500本のセルを組み合わせたカートリッジを複数台搭載したモジュールで構成される。デモ運転においてモジュールの電解効率は3.5kWh/Nm3(101%-HHV:高位発熱量換算)となり、高効率での運転を確認した。これは、三菱重工工業が目指す総合効率90%-HHVというシステム構築に向けての、大きな前進といえる。
長崎カーボンニュートラルパークでは、セル1本当たりの電流負荷を高めたカートリッジ試験にも成功しており、出力密度の高い“メガワット(MW)クラス”のSOECを実現するための開発も着実に進めるとしている。また、高砂水素パークでは今後、MWクラスのSOECシステム実証設備を数年内に設置し、同パーク内で一貫検証の準備を進め、同設備の実運用を経て製品化を目指す。
高砂水素パークは、水素製造から発電までにわたる技術を世界で初めて一貫して検証できる施設で、水素の製造・貯蔵・利用(発電)の3つの機能を持つエリアに分かれている。「製造」エリアにおいては、2023年9月にも世界最大級の水素製造能力1,100Nm3/hを持つ、ノルウェーのハイドロジェンプロ社(HydrogenPro AS)製アルカリ水電解装置を稼働。「貯蔵」エリアとしては、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業を通じて3万9,000Nm3の水素貯蔵設備を整備する。2023年11月には同パーク内で製造・貯蔵した水素を活用し、「利用」エリアのガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)実証発電設備(通称:第二T地点、定格出力:56.6万kW)で最新鋭のJAC形ガスタービンを用いて、30%混焼の実証運転にも成功した。2024年は、同パーク内の燃焼試験設備で、コンプレッサ(圧縮機)駆動用に設置された中小型のH-25形ガスタービン(4万kWクラス)による水素専焼での実証運転を計画する。
高砂水素パークでは今後も、水素「製造」エリアにアニオン交換膜(AEM:Anion Exchange Membrane)水電解方式、メタン熱分解方式といった特性の異なる水素製造装置の製品化に向けた実証を進める。また、第二T地点のJAC形ガスタービンを用いた水素50%混合燃料での実証運転に向け、「貯蔵」エリアにおいて水素貯蔵設備の総容量が現在の約3倍となる12万Nm3まで増強する工事を推進するなど、さらなる設備の拡充をはかる。
三菱重工のシニアフェロー、エナジードメインGTCC事業部長兼高砂製作所長の村瀨 拓也 氏は「当社グループとして掲げたMISSION NET ZERO、2040年のカーボンニュートラル実現に向けて、高砂製作所に向けられる社内外の期待はこれまで以上のものとなっています。2024年は高砂製作所が創業して60年目となる節目の年であり、今後もさらなる飛躍に向けて高砂水素パークを核としたエナジートランジションを一層推進していきます」とコメントしている。
三菱重工グループは、2040年のカーボンニュートラル達成を目標に掲げる「MISSION NET ZERO」に基づき、グループの成長エンジンであるエナジートランジションを推進。高砂水素パークを活用しながら、水素製造・発電技術の開発および実機検証を加速し、信頼性の高い製品を通じて、世界各地における電力の安定供給とカーボンニュートラル社会の早期実現に向けて貢献する。
高砂水素パークプレスリリース
https://www.mhi.com/jp/news/23092003.html