木質バイオマス発電所のCO₂を利用したBECCS育苗システムの実証実験を開始

住友大阪セメントとオムニア・コンチェルトが共同で着手

 住友大阪セメント株式会社(諸橋央典 社長、本社:東京都港区)は、セメント業界初の試みとして、栃木工場バイオマス発電所(栃木県佐野市)の排気ガス中CO2を利用した「BECCS育苗システム構築」に向けた実証試験を、株式会社オムニア・コンチェルト(藤原慶太 社長、本社:東京都港区)と共同で開始した。

住友大阪セメントの小堺 規行 常務執行役員(左)とオムニア・コンチェルトの藤原 慶太 社長(右)
住友大阪セメントの小堺 規行 常務執行役員(左)とオムニア・コンチェルトの藤原 慶太 社長(右)

 実証では、住友大阪セメント栃木工場へ電力供給を行う木質バイオマス発電所から排ガスを回収・浄化し、少花粉品種のスギ苗木栽培を実施するハウス(育苗ハウス)にCO2源として施用して促成栽培を実施する。これは、二酸化炭素回収・貯留(CCS)とバイオマス発電を組み合わせたBECCS(Bioenergy with CarbonCapture and Storage)にあたるネガティブエミッション技術(NETs)の一つとされ、このBECCS型育苗システムにより育った苗木を植林に利用することで、大気中の炭素を除去するカーボンオフセットを実現することが可能になる。

 オムニア・コンチェルトが開発した環境制御装置が備え付けられた最先端の育苗ハウスを導入することで、温度や湿度、CO2濃度、灌水等を自動管理・制御しながら、縦型水耕による苗木の最適な成長環境を作り出す。加えて、バイオマス発電所のグリーン電力を利用した特定波長のLEDで長日処理、休眠阻害を施す促成栽培も行う。2つの育苗ハウスの一方に回収・浄化したCO2を施用することで、非施用との苗木の成長を比較する。将来的には、広葉樹の苗木促成栽培も検討する。

栃木工場バイオマス発電所に設置された育苗ハウスの外観とハウス内設備
栃木工場バイオマス発電所に設置された育苗ハウスの外観とハウス内設備

 この取組は、2020年12月に住友大阪セメントと栃木県が締結した包括連携協定に基づく連携の取組としても位置付けられる。栃木県庁および栃木県山林種苗緑化樹協同組合の協力・指導の下で、成育苗木の植栽実証試験まで視野に入れ、「BECCSでの炭素除去」のみならず、栃木県内をはじめ全国の林業の振興や少花粉化の施策への貢献、排ガスCO2以外の副産物の有効活用までを含めた新しい事業体の創出を目指す。

 住友大阪セメントでは、バイオマス発電所を核としたサーキュラーエコノミーの構築やカーボンニュートラルへの取組は、周辺地域の農林業や地域経済の発展、新たな雇用の創出にもつながり、これに寄与できるソリューションの開発を目指すとしている。

 2024年8月28日に都内で行われた記者発表で、住友大阪セメントの小堺規行常務執行役員は「非常に様々な取組みをしないとCO2は減らせない。CO2を多く排出するセメント産業では、(BECCSのような)少しでもCO2を有効利用しながら削減していくモデルを数多く実行することが極めて重要になる。それが私たちのようなCO2の多排出産業の使命だと考えている」と述べて、バイオマス発電所を基点として多様な経済的価値を創出する「森林再生共存システム」の目的について説明した。

 また、オムニア・コンチェルトの藤原慶太社長は、木製の育苗ハウスのミニチュア模型を展示してCO2濃度や温度・湿度の計測、CO2放出の圧力・流量調整、可動式の太陽光パネルによる日射量の調整、自動灌水、LED照明の様子などを解説した。また、モニター上での3D画像によるデモを行って、実際に栃木工場に設置されている育苗ハウス2棟を遠隔監視システムでコントロールする様子を披露した。

育苗ハウスのミニチュア模型
育苗ハウスの3D遠隔監視システム