高松帝酸、40L反応容器のベンチスケールでギ酸から連続的に高圧水素発生を実証

香川県初の「さぬき水素」生産へ意欲

200気圧のH2+CO2混合ガスが毎時4000Lでギ酸から発生、水素ガス圧縮で消費電力60%削減

 高松帝酸 (本社:香川県高松市、太田貴也 代表取締役社長)と国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は、経済産業省の成長型中小企業等研究開発支援事業(以下、Go-Tech 事業) (JPJ005698) 「ギ酸を水素キャリアとした革新的高圧水素及び液化炭酸ガス連続供給技術の開発」で、40リットルの反応容器を用いて連続的にギ酸水溶液から200気圧の水素と炭酸ガスの混合ガス(毎時4000リットル)を30分間連続的に発生させる実証試験に成功した。

 今回の技術開発では、社会実装に向けた簡便な高圧水素製造プロセスを実現するために、ギ酸から 200気圧の混合ガスを連続的に供給可能であることを実証した。Go-Tech 事業の補助金を利用し、新たに連続式高圧反応装置 (写真上)を製作。本装置に76%のギ酸水溶液を投入し、産総研で開発した触媒 6g を用いてギ酸からの混合ガス発生を行った。容器内温度 76℃、容器内圧力が 200 気圧で安定し、混合ガスが平均流量4000L/hで30分間発生したことを確認。発生した混合ガスのうち水素濃度が、50%で安定していることも確認している。得られた混合ガスの成分をガスクロマトグラフ法で分析した結果は表1となった。また、本装置の消費電力を測定したところ、3kWh であることを確認。これは、一般的な空圧式ガスブースター (7.5kWh) と比較すると、消費電力を約60%削減できたと考えられる。

測定分析項目測定結果単位
水素51.0vol %
二酸化炭素48.4vol %
メタン<10vol ppm
一酸化炭素<10vol ppm
メタノール<10vol ppm
表1:発生したガスの成分(ガスクロマトグラフ法による)

 今後は 2024年度中に Go-Tech 事業の目標である100時間連続で毎時4000リットルの混合ガスの発生を目指す。2025年度には最終目標であるギ酸から発生した混合ガスを分離回収し、高圧水素ガスと炭酸ガスそれぞれを販売できる純度にする装置の開発を行う。水素と炭酸ガスの分離回収についてはレゾナックのケミカルリサイクル技術を利用、水素については発生した90~95%純度の水素を燃焼向け用途とし、一部は燃料電池自動車向けに水素ステーションでも使用できる高純度(99.97%以上)を目指す。そのための水素精製装置には、MOF(有機金属構造体)によるガス分離精製の技術を検討している。また、今回のベンチスケールの結果をもとに容器内圧力や反応温度、ギ酸濃度、触媒濃度、ギ酸の投入速度などの反応条件を精査し、さらなる装置の省エネルギー化を図る。

開発の社会的背景

 近年、カーボンニュートラルなどエネルギー問題と地球温暖化問題を解決するために、水素社会の実現が求められるようになった。しかし、水素は貯蔵や輸送の取り扱いが難しいため、水素を別の状態や物質に変換して利用する水素キャリアの技術開発が行われている。ギ酸は、他の水素キャリアとは異なり、温和な条件で水素製造、特に1000気圧を超える高圧ガスが得られるために、その利用に期待が高まっている。

 また、CO2から比較的容易にギ酸が製造できるために、様々な方法でCO2からのギ酸製造法が多数報告されていることも注目される。ギ酸(HCOOH)はもっとも簡単なカルボン酸で、工業的にはメタノールと一酸化炭素から製造され、現状での全世界の年間需要は約100万トン程度。取り扱いが比較的容易な液体で、家畜飼料の防腐剤、皮なめし剤、凍結防止剤、染色助剤や可塑剤などに用いられている。

 日本では水溶液中のギ酸が90%未満の場合は、毒物および劇物取締法に規定される劇物に該当せず、水溶液中のギ酸の濃度が 78%未満では、消防法に規定される危険物にも該当しない。ギ酸の水素貯蔵量は4.3wt%、53kg/立方メートルで、水素を約600分の1の体積に圧縮することができる。

 今後の水素需要拡大に向けて、安価・簡便な革新的高圧水素の輸送・供給技術の高度化が、輸送分野や産業機械分野等の様々な分野の川下企業から望まれている。また、ギ酸から混合ガスとして水素と一緒に発生する二酸化炭素については、近年の石油化学プラントやアンモニアプラントの縮小により、高濃度の原料炭酸ガスの供給が減少、液化炭酸ガスから製造されるドライアイスの需要はEC取引向けなどで底堅く推移しており、需給は常にひっ迫気味となっている。

 高松帝酸では2017年から移動式水素ステーションを運営しており、2017年~2019年には香川県の「新たな希少糖生産に係る研究開発支援事業補助金」に採択され高圧水素添加反応装置を開発するなど、高圧水素の取り扱いに精通する。また、溶接用シールドガスや飲料用で利用されている液化炭酸ガスも販売していることから、安価な高圧水素及び液化炭酸ガスの供給の実現により、 香川県内初となる水素製造へ向けた”さぬき水素”の生産や、炭酸ガスの安定供給へ意欲をみせている。

水素調理器を手掛けるH2&DX 社会研究所と四国で唯一となるパートナーシップ締結

 高松帝酸では、世界初のギ酸から製造された高圧水素の出口戦略として、水素調理器を手掛ける株式会社H2&DX 社会研究所と四国で唯一のパートナーシップを2024年9月に締結した。2025年1月27日には高松帝酸の太田貴也代表取締役と、H2&DX 社会研究所の福田峰之代表取締役が調印式を行い、参加者に水素で調理された香川県産品のオリーブ牛と鰻の試食体験会が催された。

パートナーシップ締結の調印式、(右から)高松帝酸の太田代表取締役とH2&DXの福田代表取締役


 水素は燃焼時にCO2の発生が無く、燃焼温度はLPガスなどに比較して高温になる。燃焼時に酸素と結合して水分を発生させることから『表面はカリッと、中身はジューシー』な食感が楽しめる。調理に使う水素は一般的なガス特有の付臭が無いため無臭であり、赤身の肉や鰻など調理後の香りに差が出ると試食した参加者から感想が出ていた。水素調理器は、すでに箱根の温泉旅館や都内のレストランで実際に使用されており、H2&DX 社会研究所では調理器導入のために水素ガスボンベによる全国供給網を確立、各地で産業ガス販売事業者などとパートナーシップを進めている。