北海道豊富町に温泉付随の未利用天然ガスを活用したDMR水素製造プラント完成

エア・ウォーターと戸田工業、国内初のメタン直接改質法によるCO2フリー水素の商用規模生産。副生成物として多層カーボンナノチューブ(CNT)を市場展開

 エア・ウォーターと戸田工業株式会社(本社:広島市南区、以下、戸田工業)は、北海道天塩郡豊富町において建設を進めていた未利用天然ガスを活用したDMR水素製造プラントが完成し、2025年9月18日に竣工式を行った。

 本プラントは、NEDOの助成事業「水素社会構築技術開発事業/地域水素利活用技術開発/豊富町未利用天然ガスを活用した地域CO2フリー水素サプライチェーンの構築」により建設されたもので、「DMR(メタン直接改質)法※1」により製造時の反応過程においてCO2が発生しない水素を商用規模※2で生産することを目指した国内初の取り組み※3になる。今後、DMR法による水素製造システムの確立とコスト低減を図るとともに需要家での品質実証を行い、本事業の社会実装を目指す。

DMR水素製造プラント
DMR水素製造プラントの外観

 エア・ウォーターと戸田工業は、2021年よりNEDO委託事業として、天然ガスやバイオガス等の主成分であるメタン原料から高活性鉄系触媒を用いたDMR法によるCO2フリー水素の製造プロセスおよびシステム開発に取り組んできた。一方、豊富町では温泉に付随してメタンの含有率が95%の良質な天然ガスが産出されているものの、多くは未利用のままとなっており、その有効活用による産業の活性化を目指している。

 本事業では、DMR法による商用規模の水素製造プラントを豊富町内に設置し、未利用天然ガスからCO2 を直接排出することなく高純度水素を製造するとともに、近隣の需要家へ供給し品質実証を行う。また、副生成物の炭素は、高導電性を有する多層カーボンナノチューブ(CNT)として市場展開を目指し用途探索と性能評価を進め、「地域CO2フリー水素サプライチェーンの構築」の社会実装に取り組む。

 今後、本プラント稼働により得られるデータをもとにプロセスの最適化を進め、2026年3月末までに、DMR法による水素製造システムを確立。水素製造コストを日本政府が「水素基本戦略」において2030年の目標としている30円/ Nm3以下に低減し、水素サプライチェーンのクリーン化と本事業の社会実装に取り組む。また、将来的には、本プラント内にある反応炉の加熱燃料として再生可能エネルギー等を用いることでターコイズ水素※4としての提供を目指す。

本プラントの特長

  1. 水素製造能力40 Nm3/h、CNT製造能力100t/年
  2. 専用設計の高活性鉄系触媒により、高品位な水素と副生炭素を効率的に製造
  3. 専用のガス精製設備を通じて、99.99%以上の高純度水素を産業用途に供給可能
  4. 製造した水素は、水素吸蔵合金システムにより安全に貯蔵・供給。高圧ガス保安法および消防法の規制対象外であるため、特別な資格や設備対策を必要とせず、導入が容易
  5. 原料には、高純度かつ品質が安定した豊富町未利用天然ガス(メタン)を使用
  6. 温暖化効果がCO2の28倍とされるメタンを、多層CNTとして固体炭素に固定化することで、温暖化効果を低減
  7. 製造したCNTは圧縮成形により、輸送・保管コストの低減が可能
DMR水素製造プラント
DMR水素製造プラントの製造フロー

各社の役割

エア・ウォーター

  • 前処理システム、ガスホルダ、高純度水素の低圧貯蔵・輸送・供給システムの設計
  • 水素製造システムのトータルエネルギーの省力化の検討
  • 商用規模プラントによる性能実証と経済性評価
  • 需要家の水素利用実証および検証

戸田工業

  • 原料ガス最適条件の検討
  • 高性能DMR触媒の最適化と量産体制の構築
  • DMR反応炉の構造および反応仕様の最適化
  • 商用規模プラントによる性能実証と経済性評価
  • CNT粉体の高付加価値化の検討、用途探査および需要家での性能評価

(注)

※1 DMR(Direct Methane Reforming、メタン直接改質)法は、天然ガス等を原料として鉄系触媒等の存在下で水素と炭素を生成するクリーンな反応。この製造方法は、水素製造時に原料ガスとなるメタン由来のCO2を発生させない、すなわちCO2フリーな反応であるため、低炭素社会に大きく貢献できる水素製造法として開発。またDMR法には、基本コンセプトを発祥した国立大学法人 北見工業大学と戸田工業が、長年にわたって継続している共同研究の成果が強く反映されている。

※2 実験機(水素製造量1Nm3/h以下)の開発成果をもとに、水素製造量40 Nm3/hの商用規模となるプラントを設計。
※3 エア・ウォーター/戸田工業調べ(2025年8月現在)
※4 メタンの熱分解により生成される水素を示す。水素生成方法は様々あり、生成時の環境負荷の違いにより生成される水素を「色」で分類することが広まっている。再生可能エネルギーまたはカーボン・ニュートラルエネルギー源を用いて熱分解を行い、かつ生成過程で生ずる固体炭素がCO2として大気中に放出されない場合の生成水素はターコイズ水素と呼ぶ。なお、ターコイズとは、トルコ石として知られる石を指し、ブルーとグリーンの中間色を有する。

特徴
グリーン水素再生可能エネルギー由来の電力を利用し、水の電気分解で水素を生成する。
ターコイズ水素         メタンの熱分解により水素を生成し、CO2ではなく副産物として固体炭素を生成する。反応炉の稼働は、再生可能エネルギーまたはカーボン・ニュートラルエネルギー由来であることが条件。
ブルー水素石炭や天然ガスなどの化石燃料から水素を生成するが、発生するCO2を分離し、大気放出させずに地下や海中に貯蔵する。
グレー水素石炭や天然ガスなどの化石燃料から水素を生成し、COとCO2を放出する。
出典:ドイツ政府「国家水素戦略」

参考

NEDO「水素社会構築技術開発事業」において「北海道豊富町未利用天然ガスを活用した地域CO2フリー水素サプライチェーンの構築」が採択(2023年8月8日)

NEDO水素利用等先導研究開発事業における採択のお知らせ(2021年7月7日)