エア・ウォーターと戸田工業、メタン直接改質法による鉄系触媒を用いた高効率水素製造システムの研究開発
NEDOの水素利用等先導研究開発事業に採択
戸田工業株式会社(本社:広島市南区、以下「戸田工業」)とエア・ウォーターは、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した「水素利用等先導研究開発事業/炭化水素等を活用した二酸化炭素を排出しない水素製造技術開発」の委託事業の公募に対し、「メタン直接改質法による鉄系触媒を用いた高効率水素製造システムの研究開発」を提案し、採択された。
本研究開発は、天然ガスやバイオガス等の主成分であるメタン原料から、高活性鉄系触媒を用いたメタン直接改質法(DMR:Direct Methane Reforming 法)により、CO2 フリーの水素を高効率に製造可能な水素製造プロセスおよびシステムを開発するものであり、将来的には、DMR 反応炉の加熱燃料として再生可能エネルギー等を用いることでターコイズ水素(*)としての提供を目指す。
本研究開発では、戸田工業の DMR 触媒の調製技術および DMR 反応技術とエア・ウォーターのガス精製技術を基に、本研究開発期間中(2021~2022 年度)に、工業用として一般的に利用される純度 99.99%以上の水素を安定的に製造可能とするとともに、副生成物として高導電性を有する多層カーボンナノチューブ(以下、「CNT」)が得られる高効率水素製造システムの完成を目指す。また、このシステムによる水素の製造コストについては、副生されるCNT の販売を組み合わせることで日本政府が「水素基本戦略」において 2030 年の目標として
いる 30 円/N ㎥以下にすることを目指す。
本研究開発で構築する高効率水素製造システムは、既存産業水素サプライチェーンの早期クリーン化を目標として、現存する都市ガスインフラを最大限に活用した安価な CO2 フリー水素の提供を実現するもの。本システムは、2050 年脱炭素社会の実現に向けた取り組みを加速し、水素を利用している企業の価値向上に繋がるとともに、国内産業の発展にも貢献する。
(*)ターコイズ水素
メタンの熱分解により生成される水素を示す。水素生成方法は様々あり、生成時の環境負荷の違いにより生成される水素を「色」で分類することが広まっている。再生可能エネルギーまたはカーボン・ニュートラルエネルギー源を用いて熱分解を行い、かつ生成過程で生ずる固体炭素が CO2 として大気中に放出されない場合の生成水素はターコイズ水素と呼ばれる。なお、ターコイズとは、トルコ石として知られる石を指し、ブルーとグリーンの中間色を有する。
色 | 特徴 |
グリーン水素 | 再生可能エネルギー由来の電力を利用し、水の電気分解で水素を生 成する。 |
ターコイズ水素 | メタンの熱分解により水素を生成し、CO2 ではなく副産物として固体炭素を生成する。反応炉の稼働は、再生可能エネルギーまたはカーボン・ニュートラルエネルギー由来であることが条件。 |
ブルー水素 | 石炭や天然ガスなどの化石燃料から水素を生成するが、発生する CO2を分離し、大気放出させずに地下や海中に貯蔵する。 |
グレー水素 | 石炭や天然ガスなどの化石燃料から水素を生成し、CO と CO2 を放出する。 |
参考
1 .戸田工業の会社概要
- 商号 戸田工業株式会社
- 所在地 広島県広島市南区京橋町 1 番 23 号
- 代表者の役職 ・氏名 代表取締役社長 寳來 茂
- 事業内容 機能性顔料、電子素材の製造販売
- 資本金 7,477 百万円
- 設立年月日 1933 年 11 月 30 日
- WEB サイト https://www.todakogyo.co.jp/
2.メタン直接改質法による水素製造について
メタン直接改質法は、天然ガス等を原料 として鉄系触媒等の存在下で水素 と CNT 等の炭素材料を生成するクリーンな反応 (式(1))。この DMR 法は、現在工業的に広 く用いられている天然ガスの水蒸気改質法 (式 (2))と比較した場合、メタン 1 分子当たりの水素生成量は 1/2 であるものの、製造時にメタン由来のCO2 を発生 させない、すなわち CO2 フリーな反応であるため、低炭素社会に大きく貢献できる水素製造法 として開発を進めている。
<メタン直接改質法>
CH4 → 2H2 + C(CNT 等) …式(1) 触媒(600~750℃)
<水蒸気改質法>
CH4 + 2H2O → 4H2 + CO2 …式(2) 触媒(600~850℃)
3.高活性鉄系触媒
DMR 反応によって高効率 に水素生成 を可能 とする鉄 系 複 合 触 媒 。優 れた初 期 活 性 と活性持続性を兼ね備える。
4. 水素精製技術
DMR法により生成 される水素ガスの純度は 70%程度のため、膜分離技術 と吸着分離技術を用いて工業用 として一般的に利用 される 99.99%以上の純度に高めるための精製プロセスを確立する。
5.カーボンナノチューブ(CNT)
CNT は、軽量 、高強度かつ高伝導率 ・高熱伝導率 などの優れた特長 を持つことから夢の新素材 として期待 されており、LIB 導電助剤をはじめ、導電性フィラー、補強材、電磁波吸収材等の幅広い用途で使用 されつつある。CNT には 1 枚のグラファイト六角網平面を筒状に丸めて形成 される単層 CNT(SWCNT)、それらを入れ子状に積層 した 2 層 CNT(DWCNT)および多層 CNT(MWCNT)に分類でき、その直径は凡そ数 nm から数 10nm の範囲にあり,長 さは数 10μm に及びます。