エア・ウォーターと戸田工業、北海道豊富町で「DMR法」によるCO2フリー水素の製造

メタン原料から高活性鉄系触媒を用いて直接改質

 エア・ウォーターと戸田工業は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)が公募した「水素社会構築技術開発事業」に、「北海道豊富町未利用天然ガスを活用した地域CO2フリー水素サプライチェーンの構築」(以下、本事業)を提案し、2023年6月に採択された。

 2023年8月8日、北海道天塩郡豊富町(以下、豊富町)で、本事業に向けた取り組みを開始した。「メタン直接改質(以下、DMR)法※1」によりCO2が発生しない水素を商用規模※2で生産することは国内初の取り組み※3となる。

 本事業においては、下記①~④の技術課題に取り組む。まず、豊富町で自噴する未利用天然ガスを用いて、DMR 法を用いた商用規模の水素及び CNT の製造技術を確立する(①、②)。併せて、エア・ウォーターは水素の貯蔵・輸送・供給システムを確立させ、域内の水素サプライチェーンを構築(③)。さらに、戸田工業はCNT 粉体の高付加価値化を進め、CNT の用途探索と顧客での性能評価を実施し(④)、システム全体で早期の社会実装化を目指す。

「北海道豊富町未利用天然ガスを活用した地域CO2フリー水素サプライチェーンの構築」

 実証期間は2023年8月~2026年3月の3年間、2023年8月から装置の設計・製作、2025年8月にプラント運転を開始予定。その後、順次、近隣ユーザーへの水素供給および品質実証、CNT 品質実証を開始する。

 エア・ウォーターと戸田工業は、2021 年よりNEDO 委託事業として、天然ガスやバイオガス等の主成分であるメタン原料から高活性鉄系触媒を用いた「DMR 法」により、CO2 フリー水素の製造プロセスおよびシステム開発に取り組んできた。

 本事業では、これまでの開発成果を元に、「DMR 法」による商用規模の水素製造プラントを豊富町内に設置し、メタンを主成分とする温泉付随天然ガスから、CO2 を直接排出させることなく高純度水素の製造を行う。同時に、製造した水素を近隣の需要家へ供給し、地産地消型の水素サプライチェーンの構築を進める。

 副生成物の炭素は、高導電性を有する多層カーボンナノチューブ(CNT)として市場展開することを目指し、用途探索と性能評価を進めるとしている。

 両社は2025 年度を目途に、水素と高付加価値な多層 CNT を製造できる「DMR 法」による水素製造システムを確立させ、水素製造コストの低減と水素サプライチェーンのクリーン化を目指す。

※1 メタン直接改質(DMR:Direct Methane Reforming )法は、天然ガス等を原料として鉄系触媒等の存在下で水素と炭素を生成するクリーンな反応。この製造方法は、水素製造時に原料ガスとなるメタン由来のCO2を発生させない、すなわち CO2フリーな反応であるため、低炭素社会に大きく貢献できる水素製造法として開発が進められてきた。

メタン直接改質(DMR:Direct Methane Reforming )法
メタン直接改質(DMR:Direct Methane Reforming )法


※2 実験機(水素製造量1 ㎥/h 以下)の開発成果をもとに、水素製造量40 ㎥/h の商用規模となるプラントを設計予定。
※3 エア・ウォーター/戸田工業調べ(2023 年8 月現在)

 なお、豊富町で温泉に付随して産出される天然ガスは、メタンの含有率が95%ある不純物が少ない良質な資源である一方、その多くは未利用のままとなっている。これを輸送・貯蔵が可能な水素として活用することにより、エネルギーの地産地消を推進することにつながることから、本実証を豊富町で実施する。

実施体制と役割

  • 実施者:エア・ウォーター(原料天然ガス前処理システムおよび水素精製装置の設計・製作、水素サプライチェーン構築)、戸田工業(原料天然ガスの最適条件の検討、触媒の設計、DMR 反応炉の設計・製作、CNT 粉体の高付加価値化技術の確立と用途開発)
  • 協力先:豊富町(プラント設置場所の提供、天然ガス供給、水素普及に向けた協力、水素品質実証)、室蘭工業大学(国内の未利用天然ガス調査、水素普及に向けた協力助言)、食品メーカー、ボイラーメーカー等