エア・ウォーター、アメリカでヘリウム供給事業を展開するAGP社の事業を取得

全米7ヵ所に充填所、全州に直売拠点や代理店などの販売ネットワーク。バルーン用ヘリウムガス市場で22%シェア

 エア・ウォーターグループの北米事業を統括するAir Water America Inc. (本社:米国ニュージャージー州、以下、エア・ウォーター・アメリカ)は、全米においてヘリウムガス供給事業を展開するAmerican Gas Products, LLC(本社:米国マサチューセッツ州、以下、AGP社)の事業を2023年9月28日に取得した。

 エア・ウォーター・アメリカは、大口需要家へのオンサイトガス供給の獲得と地域のガスディストリビューターとの提携を通じて、北米における産業ガス供給事業の構築に取り組んでいる。今後、さらなる事業拡大を見据え、エアセパレートガス(酸素、窒素、アルゴン)以外のガス種を拡充し、産業ガスメーカーとしての総合提案力を高めていく方針。

 こうした事業戦略の一環として、エア・ウォーター・アメリカは、独自のヘリウムサプライチェーンと安定した顧客基盤をもつAGP社の事業を取得した。AGP社は、米国で多数のヘリウム調達ルートを保有し、全米7ヵ所に充填所、米国本土全州に直売拠点や代理店などの販売ネットワークを持つヘリウム供給業者。AGP社は、米国内における複数のガス田との独占的なヘリウム調達契約により、需給がタイトな状況下においても、安定供給を保証することで、全米におけるバルーン用ヘリウムガス市場※1において高いシェア(約22%)を有するとともに、継続的な安定成長を実現している。

 今後、AGP社は、新たな充填工場を新設するなど供給・販売体制を強化し、ヘリウムガス事業の拡大を図るとともに、市場規模の大きいヘルスケア分野や高い成長率が見込まれる半導体分野※2等への供給も視野に入れ、ヘリウム事業を強化・拡大する。さらに、エア・ウォーターグループの日本ヘリウム株式会社とも連携し、グローバル市場においてヘリウムの購買力を高め、希少価値が高まるヘリウムの安定供給体制の構築を図る計画。

※1 空気よりも軽いという性質を利用し、イベントや装飾用の風船に充填される。
※2 強い磁石と電波を利用して断面像を映すMRI装置の超電導コイルの冷却や、半導体製造の冷却・雰囲気用途で使用される。

ヘリウム市場とAGP社の特長について

 ヘリウムは、不活性、軽い(水素に次いで2番目に軽い元素)、沸点が最も低い(マイナス269℃)などの特性をもつ産業ガスの一種。空気中にごく微量しか含まれないヘリウムは、アメリカ、カタール、アルジェリア、ロシアなどの特定の天然ガス田からしか産出されない希少な天然資源であり、エレクトロニクスやヘルスケア、航空宇宙やバルーン等様々な分野で利用されている。工業生産においては、これらの国で天然ガスを採掘する際の副産物として分離・精製されている。

 日本では、消費量の全量を長期契約に基づく輸入に頼っており、極低温の液体ヘリウムを特殊コンテナで海上輸送した後、国内各地の充填工場で最適な容器に充填し、顧客の下へ届けられている。

 ヘリウム市場は世界的に主要プラントの稼働率の低下や新規プラントの立ち上げ遅れなどにより、2023年現在、供給不足の状況となっている。それに対しヘリウム需要は、半導体や航空宇宙産業分野を中心に伸長していることから、世界的な需給逼迫の終息が見通せない状況。

 AGP社は、オイルガスメジャーからのヘリウム調達に依存せず、米国内に小規模なガス田をもつ複数の企業とヘリウムの調達契約を締結し、ヘリウムを安定供給できることを強みに、ヘリウムガスの市場シェアを拡大している。

American Gas Products, LLC  会社概要

  1. 会社名:American Gas Products, LLC  
  2. 本社:米国マサチューセッツ州 ストーンハム
  3. 代表者:Matt D’Auria
  4. 設立:2002年
  5. 売上高:約100億円 (2022年度) ※1ドル135円換算
  6. 従業員数:108名
  7. 事業内容:ヘリウムガスの卸売販売及び各種産業ガスの販売
    • ※本事業取得においては、Air Water America Inc. 100%子会社の新会社American Gas Product Inc.を設立し、同社がAmerican Gas Products, LCCの全事業を譲り受けた。

(参考)

 エア・ウォーターグループは、2030年に向けた成長戦略として、インド・北米を重点地域として海外における産業ガス事業の拡大を進めている。特に北米は、様々な製造業や先端技術分野が集積し、日本の約5倍規模となる世界最大の産業ガス市場であり、かつ世界に先駆けて産業ガスの新しい用途開発が生み出される市場。

 エア・ウォーターは2018年から北米における事業を開始し、特長あるガス関連機器・エンジニアリング分野を中心に展開してきた。また、ここ数年は現地のガスディストリビューターとの連携やM&Aを通じて、産業ガスの供給事業を開始、事業展開エリアを拡大するともに、自社のガス製造プラントを設置し、産業ガスの製造から販売まで一貫した事業インフラの構築に取り組む。

 また、北米は気候変動対策の高まりを受けて、再生可能エネルギーや脱炭素に関連する取り組みが急速に進展している市場となる。エア・ウォーターは、こうした新規分野での需要創出を進めており、カリフォルニア州で水素ステーションの開発・運営を手掛ける最大手のFirstElement Fuel,Inc.に出資するなど、グリーン水素のサプライチェーン構築にも積極的に取り組んでいる。

エア・ウォーター、米国北東部ニューヨーク州ロチェスター市に空気分離装置を建設

北米でグループ初の製造拠点、一貫したガス供給事業へ参入

 エア・ウォーターグループは、北米事業を統括するAir Water America Inc. (本社:米国ニュージャージー州、以下、AWアメリカ)を事業推進主体とし、米国北東部ニューヨーク州ロチェスター市にグループで初めてとなる空気分離装置の建設を決定した。これにより、産業ガスの製造から販売まで一貫したガス供給事業を展開する。

エア・ウォーターの北米における産業ガスの事業展開

 AWアメリカは、米国北東部ニューヨーク州ロチェスター市のイーストマン・ビジネス・パーク(工業団地)内に、空気分離装置(酸素、窒素、アルゴンを製造)を建設する。同パークのユーティリティー管理会社とオンサイトガス供給契約を締結した。

 本プラントは、パーク内に立地する大口需要家へのパイピングによるオンサイトガス供給とともに、周辺地域の顧客にローリーやシリンダーで産業ガスを供給するための製造拠点となる。2024年11月から建設に着手し、2025年9月に稼働を開始する予定。また、本プラントはエア・ウォーターグループの北米における最初のガス製造拠点となり、グループは、産業ガスメーカーとして製造から販売までを一気通貫で行うガス供給事業へ参入する。

 なお、AWアメリカは、これに先行する2022年5月に、同地を地盤とする産業ガスのディストリビューターであるNoble Gas Solutions, LLC をグループ化し、産業ガスの販売事業を開始している。

 さらに中部ミネソタ州では、AWアメリカが設計・製作を行い、現地のガスディストリビューター連合に販売した空気分離装置が稼働し、2023年3月より同エリアでも産業ガス販売事業を開始した。

 今後も、プラントの設置と販売ネットワークやガス供給インフラの活用によって、産業ガスの川上から川下までの一気通貫のサプライチェーンを構築し、北米における産業ガス供給事業を確立するとしている。

※イーストマン・ビジネス・パーク(Eastman Business Park)は、米国ニューヨーク州ロチェスター市にある大規模な工業団地。旧コダック・パークとして知られており、化学、バイオサイエンス、食品・飲料、精密機器などの製造業が集積する。

建設する空気分離装置の概要

  1. 建設地:米国ニューヨーク州ロチェスター市イーストマン・ビジネス・パーク内
  2. 製造品目:オンサイト向け窒素ガスおよび液化酸素、液化窒素、液化アルゴン
  3. 製造能力:240トン/日
  4. 総投資額:約40億円
  5. 建設開始時期:2024年11月(予定)
  6. 稼働開始時期:2025年9月(予定)

エア・ウォーターの北米における産業ガスの事業展開

 北米の産業ガス市場は、約3兆円を超える規模であり、日本の約5倍以上と想定される。鉄鋼、自動車、エレクトロニクスといった製造業や、食品・バイオサイエンスなどの先端技術分野が集積するのみならず、世界に先駆けて産業ガスの新しい用途開発が生み出される市場。また、今後はCO2回収や水素など脱炭素に関連する需要も旺盛に伸長することが想定されており、規模・成長性の両面で需要拡大が見込まれている。

 エア・ウォーターは2018年から北米における事業を開始し、高効率の深冷空気分離装置や液化水素タンクといった特長ある技術や製品群をラインアップし、ガス関連機器・エンジニアリング分野を中心に展開してきた。この間、グループは産業ガス供給事業への参入を見据え、産業ガスメーカーとしての認知向上やディストリビューターとのパートナーシップ構築を進めてきた。

 北米事業の展開としては、今後も引き続き、現地のガスディストリビューターとの連携によって事業展開エリアを拡大するともに、自社のガス製造プラントを設置し、産業ガスの製造から販売まで一貫した事業インフラを構築する。

 また、北米では気候変動対策の高まりを受けて、再生可能エネルギーや脱炭素に関連する取り組みが急速に進展している。エア・ウォーターは、カリフォルニア州で水素ステーションの開発・運営を手掛ける最大手のFirstElement Fuel,Inc.に出資するとともに、液化水素タンクやトレーラーなどの輸送機器を提供するなど、水素バリューチェーンの構築を先行して手掛けており、水素・脱炭素に関わるガス・機器市場の開拓にも注力する。
 

(参考)

①Noble Gas Solutions, LCC. 会社概要

Noble Gas Solutions, LCC.
  1. 会社名:Noble Gas Solutions, LCC.
  2. 本社:米国ニューヨーク州 オールバニー
  3. 代表者:Colleen Kohler
  4. 設立:1952年
  5. 株主:Air Water America 100%
  6. 売上高:約22億円(2022年度)   
  7. 従業員数:43名
  8. 事業内容:各種産業ガスの販売、溶接用器材の販売等販売、溶接用器材の販売等

②Absolute Air LCC の深冷空気分離プラントの設備概要

Absolute Air LCC
  1. 名称:Absolute Air 
  2. 所在地:米国ミネソタ州 ミネアポリス
  3. 製造品目:液化酸素、液化窒素、液化アルゴン
  4. 製造能力:305トン/日
  5. 稼働日:2023年3月

※ Absolute Air LCCは、ミネソタ州の産業ガスディストリビューター5社で構成される合弁会社。AWアメリカは、同社向けに深冷空気分離装置の設計・製作・販売を行うとともに、そのプラントで生産される液化ガスの一部について販売権を獲得し、同地区でガス販売事業を展開している。

AWアメリカ、北米で産業ガス販売事業のエリアを拡大

アリゾナ州の産業ガス販売会社「Phoenix Welding Supply LLC.」をグループ化

 エア・ウォーターの北米事業を統括するAir Water America Inc.(本社:米国ニュージャージー州、以下、AWアメリカ)は、米国南西部アリゾナ州を地盤とする産業ガス・溶接材料のディストリビューターであるPhoenix Welding Supply LLC.(以下、Phoenix社)の全出資持分を2023年4月28日に取得した。

 エア・ウォーターは、海外における産業ガス市場開拓の重点戦略地域と位置付ける米国において既に産業ガスの販売事業を行っており、本件M&Aによって事業展開エリアを3カ所に拡大する。

 アリゾナ州は、半導体、航空宇宙、IT産業をはじめとした世界的企業の拠点が数多く集積しており、近年は大手半導体メーカーが最先端半導体工場の建設を進めるなど、ハイテク産業の大型投資が続く、高い経済成長を遂げているエリアとなる。

 Phoenix社は、1953年の創業以来、地域の産業を支える産業ガス・機材の供給や溶接ソリューションサービスを通じて獲得してきた多様な顧客基盤と販売インフラを有する。今後、エア・ウォーターグループは、Phoenix社を通じて北米南西部におけるプレゼンスを高め、半導体や電気自動車(EV)関連メーカーの進出に伴う産業ガス需要を獲得し、北米市場における事業基盤の構築を進める。
 

北米におけるエア・ウォーターグループの事業拠点

Phoenix Welding Supply LLC. 会社概要

Phoenix Welding Supply LLC.
  1. 会社名:Phoenix Welding Supply LLC.
  2. 本社:米国アリゾナ州 フェニックス
  3. 代表者:Fred Clark
  4. 設立:1953年
  5. 株主:Air Water America 100% 
  6. 売上高:約25億円 (2022年度)
  7. 従業員数:60名
  8. 事業内容:各種産業ガスの販売、溶接用器材の販売等

エア・ウォーター 組織変更・主要人事(2019年10月1日付)

 エア・ウォーターは10月1日付で次の組織変更及び役員等の主要人事異動を行う。()内は現職

1.組織変更
  1. 生活・エネルギーカンパニーの生活エネルギー関連事業部と産業エネルギー関連事業部を統合し、エネルギー関連事業部とする。
  2. 社長室より経営企画部を独立させ、経営管理担当役員の管掌とする。なお、現経営企画部マーケティンググループは、社長室マーケティンググループとする。
  3. エンジニアリング統括室より海外企画部を独立させ、海外エンジニアリング事業部とする。
2.役員等の主要人事異動

 ▽取締役 海外エンジニアリング事業部担当、Air Water America Inc. 取締役社長=松林 良祐(取締役 Air Water America Inc. 取締役社長)▽北海道エア・ウォーター㈱常務取締役 生活エネルギー事業部長=石山 孝司(執行役員 生活・エネルギーカンパニー 生活エネルギー関連事業部長)▽生活・エネルギーカンパニー エネルギー関連事業部長=諸澤 高広(生活・エネルギーカンパニー 産業エネルギー関連事業部長)▽海外エンジニアリング事業部長=稲垣 徹(エンジニアリング統括室海外企画部長)

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