超電導電力機器冷却用大容量ターボ冷凍機の販売を開始
大陽日酸は、ネオンガスを冷媒に使用し、超電導電力機器を-200℃以下で冷却可能な大容量ターボ・ブレイトン冷凍機「NeoKelvin ®-Turbo 10kW(ネオケルビンターボ 10kW)」の販売を開始した。
電力関連分野では、送電系統の容量増強や損失低減、系統安定化などの解決策の一つとして、超電導を利用した電力機器(送電ケーブル、限流器など)の研究開発が進められている。このうち、送電ケーブル分野では、今後の実用化により 2030 年にケーブルシステム全体で国内だけでも 100~150 億円の需要が期待されるが、実用化には、冷却温度-200℃近傍で 2~10kW の冷凍能力を持つ冷凍機が必要とされる。
大陽日酸は、これまでに国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト「イットリウム系超電導電力機器技術開発(2008~2012 年度)」においてネオンを冷媒とする冷凍能力 2kW のターボ・ブレイトン冷凍機(NeoKelvin®-Turbo 2kW)を開発し、2013 年 5 月に商品化した。
NeoKelvin®-Turbo 2kW では、実証規模である長さ数百mの超電導ケーブルの冷却が限界だったが、NeoKelvin®-Turbo 10kW の商品化により、実用規模である長さ 1km以上の超電導ケーブルの冷却が可能となり、超電導ケーブルの実用化に弾みがつくことが期待される。
現在、本装置の試作機は、韓国電力公社と LS ケーブル&システムとが済州島(韓国)にて共同実施している超電導ケーブル実証試験に用いられ、2016年3月より実系統への送電が開始されている。ターボ・ブレイトン冷凍機を用いた超電導ケーブルの送電実施は世界初。
本装置では、NeoKelvin®-Turbo 2kW と同様に、ターボ回転機の効率化を図るため冷媒にネオンガスを採用。特長は以下の通り。
① ネオンガスの圧縮と膨張を行うターボ回転機の軸受には、主軸を空中で浮上させ非接触で運転可能な磁気軸受を採用し、メンテナンスを削減。
② ターボ回転機の膨張部と圧縮部を同一主軸に配置する構造を採用し、膨張部で発生する動力を効率的に圧縮部の駆動力に利用し消費電力を低減。
③ 当社独自プロセスの採用により、冷凍機に必要な 2 台のターボ回転機の構造を共通化し、経済性や運用面の利便性を向上。
なお、上記のターボ回転機については、空気分離装置用ターボ圧縮機などで多くの実績を有する株式会社 IHI との共同開発により、高効率を実現した。
【装置の概要】
冷却温度:70K(-203℃)冷凍機出口液体窒素温度
冷凍能力:10kW(冷却水温度 20℃、冷却対象は循環量 0.6kg/s の液体窒素)
電源電圧:3 相交流、400V、380V
消費電力:170kW
冷却水:750L/min
今後は、超電導送電ケーブルの実証、導入検討に積極的な韓国や米国を中心に受注獲得に向けた取り組みを進める。
【用語解説】
ターボ・ブレイトン冷凍機
動作ガスが 4 つの過程(①断熱圧縮、②等圧冷却、③断熱膨張、④等圧加熱)により寒冷を発生する冷凍機。ターボ圧縮機で圧縮されたネオンガスは圧縮熱を大気へ放散した後、膨張タービンにて断熱膨張を行い、ネオンガスの温度が低下する。その後、周囲の熱を吸収して、ターボ圧縮機の吸い込み口に還流。実際の冷凍機には、ターボ圧縮機と膨張タービンの間に熱交換器が挿入され、膨張タービンで発生される冷熱を回収することにより、極低温を生成する。
限流器
電流系統のショート・漏電による事故を抑制するための手段の一つとして、過負荷電流を速やかに限流する機器。