岩谷産業 2022年3月期通期連結決算

エアセパレートガスは製造コストの増加も、電子部品業界向けを中心に販売が伸長

 岩谷産業の2022年3月期通期連結決算は、売上高6903億9200万円(前年同期比22.8%増)、営業利益400億7600万円(同36.5%増)、経常利益464億1300万円(同35.9%増)、親会社株主に帰属する純利益299億6400万円(同30.1%増)となった。直近の配当予想を修正し、期末配当を10円増配し年間配当85円とした。

当期の経営成績の概況

 中期経営計画「PLAN23」の基本方針である「脱炭素社会に向けた戦略投資の強化」と「デジタル化の推進」に取り組んだ。

 水素エネルギー社会の実現に向けては、関係省庁や多くの民間企業と連携し、CO2フリー水素サプライチェーンの構築に向けた取り組みを推進した。具体的には、豪州で褐炭由来の水素を液化し、液化水素運搬船による日豪間の海上輸送・荷役を行う実証試験に参画、2022年2月に実証試験を成功させた。また、FCV向け水素ディスペンサーなどエネルギー供給設備に強みを持つトキコシステムソリューションズ株式会社の株式を100%取得、メーカーおよびエンジニアリング機能の強化を図った。加えて、コスモエネルギーホールディングス株式会社との間で、水素ステーション事業や水素製造に関わるエンジニアリング分野等で協業していく事を合意した。

 総合エネルギー事業については、岩谷産業独自のIoTプラットフォーム「イワタニゲートウェイ」により取得したデータを活用し、地域社会のカーボンニュートラル化の支援や、暮らしを支える新しいサービス・価値の創造に取り組んだ。加えて、J-クレジット制度を活用した、顧客のCO2排出削減を支援するサービスの提供や、バイオマス発電事業への参画等、長期ビジョンである『オールイワタニでの「脱炭素社会の実現」』に向けた営業活動を推進した。

 セグメント別の状況は次のとおり。

【総合エネルギー事業】

 売上高は3271億7500万円(前年同期比734億5300万円の増収)、営業利益は226億5500万円(同57億9300万円の増益)。

 LPガス輸入価格が高値で推移したことや、業務用・工業用LPガスの販売増加により、増収となった。LPガスの小売部門では、輸入価格の上昇により収益性が低下したことに加え、半導体不足によりガス関連機器の販売が減少したが、市況要因が大幅なプラス(前年度比61億8100万円の増益)となったことや、海外でのカセットこんろ・ボンベおよび産業用エネルギー設備の販売が好調に推移し、増益となった。

【産業ガス・機械事業】

 売上高は1843億3200万円(前年同期比122億4700万円の増収)、営業利益は124億6700万円(同25億8600万円の増益)。

 エアセパレートガスについては、電力料金の上昇による製造コストの増加があったものの、電子部品業界向けを中心に販売が伸長した。水素事業は、水素の販売は主に半導体業界向けに増加したが、水素関連設備で大型案件が減少した。特殊ガスについては、新型コロナワクチン向けのドライアイスの販売が増加した。また、機械設備については、顧客の設備需要の回復に伴い、売上が伸長した。

【マテリアル事業】

 売上高は1509億7400万円(前年同期比392億1300万円の増収)、営業利益は72億5500万円(同25億6100万円の増益)。

 ミネラルサンドについては、世界的なサプライチェーンの混乱を受けた供給制約により市況が上昇する中で安定供給を確保したことに加え、豪州の自社鉱区で生産効率の改善が進んだことにより、収益が増加した。金属加工品はエアコン向けを中心に販売が増加し、機能性フィルムについてもスマートフォン向けの販売が伸長した。また、低環境負荷PET樹脂、バイオマス燃料、二次電池材料といった環境商品の拡販にも注力し、売上が伸長した。

【自然産業事業】

 売上高は233億7600万円(前年同期比30億6500万円の増収)、営業利益は6億7500万円(同1億5500万円の減益)。

 業務用冷凍食品の需要回復に加え、一般消費者向け冷凍食品の販売が増加したが、仕入コストおよび物流費が上昇した。また、農業・畜産設備においても販売は増加したが、資材コスト等が上昇した。

【その他】

 売上高は45億3400万円(前年同期比1億8800万円の増収)、営業利益は14億6900万円(同1100万円の減益)。

今後の見通し

 資源価格の上昇や円安に加え、ウクライナ情勢の緊迫化により先行き不透明感が高まっているものの、新型コロナウイルスに対する行動制限の緩和により、緩やかな景気回復が続くと想定。

 総合エネルギー事業は、引き続きLPガス直売顧客数の増加と販売数量の増量に努める。また、LPガスや都市ガス顧客に対して、エネルギー関連機器の拡販を行うとともに、「イワタニゲートウェイ」を活用し、少子高齢化に伴う地域社会の課題解決につながる新サービスや、顧客のCO2排出削減をサポートする新たな事業を推進する。カートリッジガス事業においては、中国に加え、タイなどの東南アジアや米国など海外事業の拡大に努める。

 産業ガス・機械事業は、国内外でエアセパレートガスの拡販やヘリウムの安定供給を図るとともに、液化水素の需要拡大に取り組む。また、新たに連結子会社となるトキコシステムソリューションズ株式会社の技術力を活用し、水素関連の商品開発や水素ステーションのコスト削減を推進する。機械設備については、自動車、半導体、環境関連などの成長分野を中心に拡販し、事業規模を拡大する。

 マテリアル事業は、引き続き資源ビジネスにおいて安定供給に努めるとともに、低環境負荷PET樹脂、バイオマス燃料、二次電池材料などの環境商品の拡販を進める。また、機能性フィルムを中心とした先端材料の拡販や、金属加工事業などの海外事業の強化に取り組み、事業規模の拡大を図る。

 自然産業事業は、一般消費者向け冷凍食品の拡販に加え、農業ハウス等の農業用施設、および養豚設備や種豚の販売拡大を図る。また、新たにグループに加わった食品物流会社の機能を活用し、販路の拡大と物流コスト削減に取り組む。

 2022年3月期は市況要因が79億7200万円と大幅な増益要因となったが、次期の見通しでは市況要因を見込まない。このため、次期の連結業績見通しは、売上高8,030億円(前年度比16.3%増)、営業利益350億円(同12.7%減)、経常利益410億円(同11.7%減)、親会社株主に帰属する当期純利益265億円(同11.6%減)を見込む。但し、市況要因を除いた比較では、営業利益は前年度比9.0%の増益、経常利益は同6.7%の増益の見通しとなる。配当金予想は期末85円の年間配当金85円を維持する。