高松帝酸と産総研がベンチスケールでギ酸から高圧水素発生を実証
「未来を変える”カエルッティ”プロジェクト」第1弾、20MPa のH2+CO2 の混合ガスを毎時0.8m3で安定的に発生
高松帝酸と国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は、20リットルの反応容器を用いて10リットルのギ酸水溶液から200気圧の水素および炭酸ガスの混合ガス(毎時0.8 立方メートル)を発生させる実証試験に成功したと発表した。経済産業省の成⻑型中⼩企業等研究開発支援事業(JPJ005698)「ギ酸を水素キャリアとした革新的高圧水素及び液化炭酸ガス連続供給技術の開発」事業によるもので、安価な高圧水素と液化炭酸ガスの供給につながることが期待される。産業分野でのボイラーやタービン、輸送分野での水素エンジン等の顧客を想定し、2024年9月に向け反応容器にギ酸を供給することで連続的に高圧水素ガスの発生が可能な装置の製作を進める。また、2025年末までに副生される炭酸ガスの分離回収システムの開発も検討する。将来的には2030年頃のギ酸由来水素の供給開始を目指す。
近年、エネルギー問題と地球温暖化問題を解決するために、水素社会の実現が求められているが、水素は貯蔵や輸送の取り扱いが難しい。このため、水素を別の状態や物質に変換する技術開発が進められており、ギ酸は他の水素キャリアとは異なり温和な条件で水素製造が可能で、特に1000気圧を超える高圧ガスが得られる。また、二酸化炭素から比較的容易にギ酸が製造できるため、様々な方法でのギ酸製造法も多数報告されている。ギ酸は取り扱いが比較的容易な液体で、飼料の添加剤・皮なめし剤などに用いられ、全世界の年間需要は約100 万トンとされる。
一方で炭酸ガスについては、近年の⽯化プラントやアンモニアプラントの縮⼩により、高濃度の原料炭酸ガスの供給が減少するなか、炭酸ガスを原料とするドライアイスの需要は、EC取引向けなどで底堅く推移し需給はひっ迫、ギ酸からの安価で安定的な高圧水素と液化炭酸ガスの供給は、こうした問題の解決策として期待される。
産総研では、ギ酸を水素キャリアとする高効率な水素製造システムの開発を目指して、高活性なCO2 水素化によるギ酸製造およびギ酸脱水素化用触媒(2012年3月19 日 産総研プレス発表)や、ギ酸から生成する高圧ガス(水素と⼆酸化炭素の混合ガス)を簡便に分離し、高圧水素と液化炭酸ガスを同時に製造する技術(2015年12月11日 産総研プレス発表)を開発してきた。
高松帝酸では2017年より移動式水素ステーションを運営し、2017年〜2019年には⾹川県の「新たな希少糖生産に係る研究開発支援事業補助⾦」に採択、高圧水素添加反応装置を開発しており、高圧水素の取り扱いに精通する。また、溶接用シールドガスや飲料用で利用されている液化炭酸ガスも販売している。今回、高松帝酸では、産総研のギ酸から高圧の水素と⼆酸化炭素の混合ガスを製造する技術を用いて、ベンチスケールでの高圧ガス発生試験を実施した。
試験では、社会実装に向けた簡便な高圧水素製造プロセスを実現するために、ギ酸から200気圧のガスを安定的に供給可能であることを実証した。高松帝酸で所有する高圧反応装置(写真1:容積20L)を利用して、約50%ギ酸水溶液(株式会社朝日化学⼯業所製)10Lに産総研で開発した触媒2gを用いてギ酸からの混合ガス発生を行った(グラフ1)。容器内温度が上昇すると混合ガスが発生し、容器内圧⼒(⾚線)が上昇。反応開始2時間30分後、容器内温度67度で反応容器内の圧⼒が200 気圧に達成し(写真2)、容器内から混合ガス(⻘線)が放出された。200気圧到達後、混合ガス発生量は3,200L(平均流量:800L/h)が得られた。最終的には97%のギ酸がガスに変換、反応後のギ酸の濃度は3%で、混合ガスの全発生量は6,201Lとなった(表1)。
用語解説
ギ酸(HCO2H)
もっとも簡単なカルボン酸で、⼯業的にはメタノールと一酸化炭素から製造される。家畜飼料の防腐剤、皮なめし剤、凍結防止剤、染⾊助剤や可塑剤などに用いられている。日本では水溶液中のギ酸が90%未満の場合は、毒物および劇物取締法に規定される劇物に該当しない。また、水溶液中のギ酸の濃度が78%未満では、消防法に規定される危険物に該当しない。ギ酸の水素貯蔵量は、4.3wt%、53kg/m3 で、水素を約600 分の1の体積に圧縮することができる。
高圧水素輸送
カードルやローダーに196 気圧の充填圧⼒の規格で輸送される。一方、高圧水素の輸送には行政からの許認可が必要であるとともに、輸送・貯蔵コストも高い。またオフサイト型の水素ステーションでは、カードルやローダーで供給された水素を820 気圧まで昇圧するが、FCV1 台分昇圧するために約20kwh の電⼒が必要。
水素キャリア
水素の貯蔵や輸送の取り扱いは難しいため、水素を別の状態や物質に変換する技術。例えば、メチルシクロヘキサン、アンモニアなどが水素キャリアと呼ばれている。一方で、水素キャリアと水素の相互変換のためのエネルギー効率や水素純度などが課題としてあげられる。産総研では以前より水素の新たなエネルギーキャリアとしてギ酸に注目。最近、再生可能エネルギーからのギ酸製造に関するプレス発表が増加している。
⼆酸化炭素の用途
日本国内では、溶接用シールドガス・ドライアイス・飲料用など年間約100 万トンの⼆酸化炭素の需要がある。近年、⽯化プラントやアンモニアプラントの減少と老朽化により高濃度の原料炭酸ガスの供給が減少。そのため、需給がひっ迫しており、輸入量の増加と価格が上昇している。