「らいちょうN」に純燃料電池船として、国内初の船舶検査証書交付

2025年関西万博で運航する水素燃料電池船の建造・運航に成果を反映

 国立大学法人東京海洋大学の大出剛特任教授らの研究グループは、水素燃料電池船の普及に向けての研究を行い、水素燃料電池とリチウムイオン2次電池だけで運航できるハイブリット制御による純燃料電池船が、一般船舶と同じように建造・運航ができることを示した。

 水素燃料電池船は、安全性確保に向けた十分な措置を講じることが求められており、船舶検査証書の交付を受けるためには、国土交通省が策定する「水素燃料電池船の安全ガイドライン」(2021 年 8 月改訂)に適合することが要求されている。

 本研究グループは、約 2 年かけて「水素燃料電池船の安全ガイドライン」における約200 の項目に、東京海洋大学の実験船「らいちょう N」を適合させるよう調査・対処を繰り返し、その適合化プロセスを実証してきた。

 今回、「らいちょう N」は安全ガイドラインのすべての項目に適合し、水素燃料電池とリチウムイオン2次電池だけで運航できるハイブリット制御による純燃料電池船として、日本で初めて日本小型船舶検査機構から船舶検査証書を交付された。

東京海洋大学の実験船「らいちょう N」

 東京海洋大学ではこれにより、水素燃料電池船が安全に建造・運航できることが示され、その普及に大きく貢献することができるとし、この結果が関西万博で運航予定の水素燃料電池船に反映されており、成果が期待されると説明している。

 本研究は、2021 年 NEDO 事業「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究 開発事業/燃料電池の多用途活用実現技術開発」におけるテーマ「商用運航の実現を可能とする水素燃料電池船とエネルギー供給システムの開発・実証」において「東京海洋大学における実験船で得られた知見を明確化して、実際の実証運航にフィードバックする」により実施したもので、この研究成果は、2025 年 3 月に NEDO事業の最終報告書に掲載される。

研究の背景と経緯

 国際海運での GHG 削減は、気候変動に関する国際連合枠組条約から国際海事機関(IMO)に検討が委ねられている。その削減戦略にはゼロエミッション燃料の使用があり、水素はその代表的な燃料の一つ。内閣府の水素基本戦略においても、燃料電池船(FC 船)の開発・導入が示されている。東京海洋大学では、2016 年より NREG 東芝不動産(株)と「スマートエネルギー都市に用いる水素燃料電池船開発」、2019 年には岩谷産業(株)と水素燃料電池船の建造計画が始まり、2021 年にはNEDOの課題設定型産業技術開発費助成事業提案「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/燃料電池の多用途 活用実現技術開発」(研究代表者:岩谷産業株式会社、実施事業者:関西電力株式会社、株式会社名村造船所、東京海洋大学) が採択され現在に至っている。本事業で建造された水素燃料電池船が、関西万博で運航されることになっている。

研究の内容

 東京海洋大学大出剛特任教授らの研究グループは、2022 年から 2024年にかけて、「水素燃料電池船の安全ガイドライン」における約 200 の項目について、「らいちょう N」に適合させるよう調査・対処を繰り返し、その適合化プロセスを実証してきた。これらの実証にあたっては、船舶での振動・温度・塩害等の環境における水素燃料電池の耐力に関する研究、船舶における水素燃料電池の安全性に関わる制御の研究、運航のためのエネルギーマネージメントの研究、機関士不足に対応する高度船舶管理システム搭載船を目指すモニタリングシステムの研究、水素バンカリングの研究、燃料電池・リチウムイオン 2 次電池ハイブリッド船における運航制御の研究などの基礎的な研究の成果を反映している。

今後の展開

 水素燃料電池とリチウムイオン2次電池だけで運航できるハイブリット制御による純燃料電池船について、国土交通省策定の「水素燃料電池船の安全ガイドライン」に沿った検査に適合するための手法が確立すれば多くの造船所で水素燃料電池の建造ができ、船主は安全に運航が可能となる。このことにより、環境にやさしい水素燃料電池船が普及することが期待される。