大陽日酸が国内で初めて重水再濃縮の商業化

使用済み重水の再濃縮装置を開発、リサイクル体制構築で重水素標識化合物の供給力を強化

 大陽日酸は、これまで廃棄していた使用済み重水を再濃縮する装置を開発し、重水のリサイクル体制を構築した。重水再濃縮の商業化は国内企業としては初となる※1。リサイクル体制の構築により、廃棄重水量を減らし、効率的でサステナブルな重水の利用が可能となると共に、国内外の需要に対する重水素標識化合物※2の供給の安定化に貢献する。

大陽日酸が開発した重水再濃縮装置の外観
重水再濃縮装置の外観

注)※1大陽日酸調べによる。※2重水素標識化合物:化合物内の水素原子の一部または全てを重水素(D)に置換した化合物の総称 

 重水は水素の安定同位体である重水素を多く含む水で、原子力分野やNMR 分析用溶媒などの研究分野をはじめ、様々な領域に使用される。大陽日酸は「重水素化アンモニア※3」の他、多種多様な重水素標識化合物を製造・販売しており、これら化合物の重水素源としても重水を使用している。

 重水素標識化合物の製造過程には、水素原子を重水素原子に置換する重水素化反応が含まれる。この反応は原料となる重水中の重水素濃度が高いほど効率性が向上するため、反応進行により濃度が低下すると、新しい重水に交換する必要が生じる。これまで、一度使用した後の重水素濃度が低い重水はそのほとんどが廃棄されていた。また、重水は国内需要に対し全量を海外からの輸入に頼っており、海外の需給状況や製造国の輸出政策の影響を受けやすく安定調達が容易ではない物質だった。

注)※3 2023 年 5 月 31 日付 大陽日酸ニュースリリース「重水素化アンモニア販売開始のお知らせ」

 今回、大陽日酸所有技術を応用し、研究や重水素化反応等で使用された後の使用済み重水を再濃縮する装置を開発し、重水をリサイクルする体制をつくば開発センター内に構築した。重水素化反応後の使用済み重水は、その履歴に応じ種々の不純物が含まれているため、まず精製操作により不純物を除去する。その後、自社開発の蒸留を用いた再濃縮装置により、重水素を濃縮した重水を得る。

使用済み重水のリサイクルプロセス
使用済み重水のリサイクルプロセス

 本再濃縮装置は連続・バッチ処理共に可能であり、再濃縮重水の濃縮度>99atom%D、年間生産150kg の能力を有する。本リサイクル体制の活用により重水素標識化合物向けの重水の一部が社内調達可能となるとともに、廃棄重水量は従来自社比で半減する見込み。

 大陽日酸では今後、本再濃縮装置の安定稼働継続を図るとともに、社外の重水再利用ニーズの探索や需要に応じた増産方法について検討を進める。