エア・ウォーター 2024年3月期第2四半期連結決算(IFRS)

前四半期から一転して大幅増益、産業ガス販売数量は減少も、価格改定で収益性が大幅改善

 エア・ウォーターの2024年3月期第2四半期連結決算(IFRS)は、売上収益4769億7500万円(前年同期比2.9%増)、営業利益283億7500万円(同9.5%増)、親会社の所有者に帰属する四半期純利益173億1200万円(同6.0%増)だった。直近公表の通期連結業績予想と年間配当金予想の修正はない。

 各種コスト上昇に対応した収益構造の改善にグループ全社を挙げて取り組んだ効果が順調に発現するなど、総じて回復基調で推移し、第2四半期は、第1四半期から一転して大幅な増益となった。

 コスト上昇の影響を受けた産業ガスや業務用塩は、生産・物流面の効率化をはじめとしたコスト低減と価格改定効果が寄与した。また、液化水素タンクなどの旺盛な需要を背景に海外エンジニアリング事業が拡大したことに加え、前年度の業績に大きな影響を与えた木質バイオマス発電事業も発電燃料の海上輸送コストが低下傾向となったことから回復基調で推移した。さらに、人流回復を背景に化粧品をはじめとしたコンシューマーヘルス分野や飲料分野が拡大した。

 エア・ウォーターグループでは、2つの成長軸である「地球環境」と「ウェルネス」に沿って、「多様な事業、人材、技術」の全体最適化によるグループシナジーの追求を図った。成長のための3つの基本戦略として、成長領域の拡大、国内既存事業の収益力強化、社会課題の解決に貢献する新事業の創出に取り組んだ。

 成長領域の拡大では、産業ガスの供給に不可欠なエンジニアリング機能とグローバル展開の強化に向け「グローバル&エンジニアリンググループ」を組織するとともに、ガス供給プラントの基幹工場の増強投資に着手した。また、北米で複数のガスディーラーを買収するとともに、ニューヨーク州では北米初の自社製造拠点となる大型ガスプラント建設に着手したほか、ヘリウム事業にも参入。インドでは、新たに国営製鉄会社であるSAIL(Steel Authority of India Limited)社の製鉄所向けオンサイトガスプラントの受注を獲得するなど、今後の事業拡大に向けた布石を打った。さらに、エレクトロニクス事業では、大手半導体工場向けのガス供給プラントの設備投資を継続したほか、熊本地区で特殊ガス・ケミカルの供給をはじめとしたグループ複合拠点の整備を進めた。

 既存事業の収益力強化では、エレクトロニクス、医療機器、北海道における農産・加工やエネルギー分野でグループ会社の統合再編を実施し、人員の最適配置や業務の効率化をはじめとしたグループシナジーの創出に取り組んだ。合わせて、製品・サービスの価値に見合った利益水準を確保するための価格改定を継続するとともに、販管費の抑制や低採算案件の見直しなどに取り組んだ結果、地域事業会社3社を中心に稼ぐ力が着実に向上した。

 新事業の創出では、脱炭素ソリューションとして、ガス精製・分離技術と北海道の事業基盤を活用し、家畜ふん尿を原料とした「液化バイオメタン」のサプライチェーン構築に取り組んだ。また、食料安全保障や食料自給率の向上が社会課題となる中、農産・加工分野において業界大手企業2社との資本業務提携による新たな青果流通加工事業や、酸素、人工海水、鮮度保持などの商材と技術を活かした陸上養殖プラットフォーム提供事業に注力した。

 中長期的な企業価値創造に向けては、技術、ブランド、知的財産など無形資産への投資の一環として、大阪府摂津市に「ウェルネス」に関わる新事業の創出・発信拠点「エア・ウォーター健都」を開設し、産官学民連携によるオープンイノベーションの取り組みを開始した。さらに、社内公募をはじめとした従業員の自律的な成長やスキルアップを後押しする人事制度改革を進め、持続的成長を支える人的資本の強化に取り組んだ。

セグメント別業績

 セグメント別の業績は次のとおり。当期第1四半期連結会計期間より、従来「デジタル&インダストリー」に区分していた国内のエンジニアリング事業及び海外エンジニアリング(インド産業ガス等)事業を「その他の事業」に、「エネルギーソリューション」に区分していた炭酸ガス・水素事業を「デジタル&インダストリー」に移行した。

デジタル&インダストリー

 売上収益は1662億5100万円(前年同期比105.3%)、営業利益は135億2500万円(同116.7%)。

 事業全体では、産業ガスの販売数量は前年同期を下回ったが、価格改定が順調に進展し、収益性が大きく改善した。また、大手半導体工場向けのオンサイトガス供給は堅調に推移したが、半導体市況の低迷による在庫調整等の影響を受け、機能材料や半導体関連機器・装置の販売が低調となった。

 エレクトロニクス事業は、大手半導体工場向けのオンサイトガス供給が高い稼働率を維持し、半導体工場向け材料販売事業は、高純度薬品や塗布材料などの販売が順調に推移した。一方、半導体市況の低迷による在庫調整等の影響を受け、ガス関連装置や半導体製造装置向け熱制御関連機器・部品の販売が低調だった。

 機能材料事業は、トップシェアを有する電磁鋼板用マグネシアや食品機能材が安定的な需要に支えられ堅調に推移した。しかしながら、市況低迷の影響を受けた精密研磨パッドをはじめとした半導体関連製品や、中国の景気減速を背景に農薬向けナフトキノンの販売が低調に推移し
た。

 インダストリアルガス事業は、価格改定をはじめとするコスト上昇への対応を継続したことで、売上収益が増加した。また、炭酸ガス供給においても第1四半期に影響を受けた原料ガス不足が解消し、回復基調で推移した。同時に、物流の効率化やコスト削減等の効果も発現し、収益性が改善した。

エネルギーソリューション

 売上収益は252億6600万円(前年同期比91.0%)、営業利益は5億3300万円(同45.7%)。

 エネルギー事業は、低・脱炭素需要が高まる中、燃料転換の推進により工業用LPガスの販売数量が増加した。また、主要エリアである北海道において、グループ会社の統合再編や家庭向けLPガスの直売比率を高める施策を行い、収益力の強化を図った。一方で、LPガスの販売単価が輸入価格に連動して急落したため、売上収益が減少するとともに、利益面においても第1四半期を中心に在庫評価損の影響があったことで、前年同期を下回った。

 グリーンイノベーション事業は、脱炭素社会の実現に貢献する新事業の創出に向けて、小型CO2回収装置「ReCO2 STATION」やLNG代替燃料として利用可能な「液化バイオメタン」の各種実証を進めた。

ヘルス&セーフティー

 売上収益は1078億6600万円(前年同期比98.4%)、営業利益は57億5000万円(同98.4%)。

 事業全体では、新型コロナウイルスの5類感染症移行に伴い、酸素濃縮装置のリース契約終了や感染管理製品の需要が減少した一方、防災事業とコンシューマーヘルス事業は順調に推移した。また、原材料価格の高騰や人件費の上昇に対して生産の合理化を行うとともに、適切なタイミングで価格改定を実施したことで、利益面では前年同期に近い水準まで回復した。

 メディカルプロダクツ事業は、医療ガス分野において、価格改定や低採算案件の見直し等により収益性の向上を図った。一方、酸素濃縮装置の自治体向けリース契約が前年度末に終了した影響を受けた。

 防災事業は、工事部材費や人件費上昇の影響を受けたものの、病院のリニューアル工事やデータセンター向けのガス消火設備工事は堅調となり、シンガポールの病院設備工事も回復基調で推移した。

 サービス事業は、病院の経営効率を高める施策の提案を通じて新規顧客を獲得したが、一部の大型病院との契約が終了した影響を受けた。

 コンシューマーヘルス事業は、コロナ禍からの回復により、衛生材料ではマスクや手指消毒剤など感染管理製品の需要が減少した影響を受けた。一方、化粧品メーカーへの積極的な営業展開により、液体充填品の受託製造が伸長したことに加え、海外を中心に美容針やデンタル針の販売が増加し、堅調に推移した。

アグリ&フーズ

 売上収益は800億6000万円(前年同期比105.6%)、営業利益は38億5200万円(同112.0%)。

 事業全体では、豚肉や鶏卵等の原材料価格が上昇する中、価格改定や生産効率の改善など収益力強化に取り組んだ。ハム・デリカ分野で価格転嫁の遅れがあったものの、茶系・果実系飲料の受託製造の増加や農産物直売所の新規出店効果により増収増益となった。

 フーズ事業は、市販用冷凍食品の販売拡大やコンビニエンスストア向け総菜などの新規採用が進んだものの、利益面では原材料費の上昇に伴う価格改定時期の遅れが影響した。また、スイーツ分野は第1四半期を中心に鶏卵不足による主力製品の休売が影響し、低調に推移した。

 ナチュラルフーズ事業は、飲料充填ラインの増強投資や自社ブランド商品の拡充とともに、人流の回復や夏場に高温が続いたことで茶系・果実系飲料の受託製造が増加し、好調に推移した。

 アグリ事業は、北海道を中心とする農産・加工分野において、前年度に収穫した農産物の在庫ロスが発生した影響を受けたが、農産物直売所の新規出店効果や、青果小売分野において不採算店舗の見直し等による収益改善が寄与し、事業全体では前年同期並みで推移した。

その他の事業

 売上収益は975億2900万円(前年同期比105.3%)、営業利益は39億1600万円(同202.1%)。

 物流事業は、EC関連の幹線輸送は堅調に推移したが、前年同期に好調だった感染性廃棄物の取扱量が減少した。また、人件費の増加やエネルギーコストの上昇に対応した価格改定を進めたが、新たに建設した低温物流センターが本格稼働するまでのコスト影響があった。

 ㈱日本海水は、業務用塩の価格改定効果により、石炭価格の上昇影響を打ち返し、安定的な利益水準を確保した。電力分野では、発電燃料の海上輸送コストが低下したことに加え、苅田バイオマス発電所(福岡県苅田町)が2023年8月より営業運転を開始し、順調に推移した。

 グローバル&エンジニアリング事業では、インド産業ガス事業は、鉄鋼向けオンサイトガス供給及び外販ガス供給ともに、堅調に推移した。北米産業ガス事業は、材料調達などに起因する生産停滞が解消したことで液化水素タンクや炭酸ガス関連機器の販売が回復し、米国ニューヨーク州における産業ガスの販売も堅調に推移した。なお、北米事業の拡大に向けて複数のM&Aを実施しており、それらの新規連結効果は第3四半期以降に発現する見込み。高出力UPS(無停電電源装置)事業は、アジアや欧州における工事遅延などの解消に加え、東南アジアを中心に大型データセンターの新規プロジェクトを受注したことで、業績が大きく改善した。

 電力事業は、小名浜バイオマス発電所の安定操業が継続するとともに、発電燃料の海上輸送コストが低下傾向で推移したことに加え、荷揚げ港湾施設における滞船緩和施策を進めたことから、業績が大きく改善した。